北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

計画運休と本土防衛【1】自衛隊貨物列車,有事の際にJR各社は自衛隊戦略輸送へ協力可能か

2019-12-19 20:10:09 | 防衛・安全保障
■戦争時にJRの列車は動くのか
 台風接近下の計画運休が意外と多発される時代にどうしても移動が必要な際に少々困ったことが在りましたが、今回はもう少し深刻な視点を考えてみましょう。

 多次元統合防衛力の整備を進める事で今後自衛隊は前防衛大綱での整備を受け継ぎ、陸上防衛力の機動運用を強化します。陸上自衛隊輸送船導入や海上自衛隊30FFM新護衛艦への多目的区画配置と新鋭C-2輸送機、その機動展開能力は年々強化されると云えましょう。しかし、兵站輸送や戦略輸送を考える場合、民間輸送への依存度は依然として高いのです。

 自衛隊協同転地演習において自衛隊鉄道輸送は鉄道愛好家にとっても希有な自衛隊装備輸送という事もあり、また珍しい無蓋貨車に積載された防衛用車両の輸送は無蓋貨車という往年の輸送手段への懐古趣味的な視点から関心を集めています。自衛隊鉄道輸送、航空機の時代となりました今日ですが、しかし重要だ。一編成だけでも大隊規模の器材を運ぶ。

 在来線狭軌車両限界での貨物幅は最大3mまで、3m以上の貨物を積載した場合はトンネルや橋梁と架線に駅ホーム等を通過する際に接触する危険があります、このために車幅が3.18mの74式戦車などは通過時に備え履帯を取り外す必要があります、が、車幅2.98mの16式機動戦闘車であればそのまま積載することが可能、段列の資材等も同時に輸送出来る。

 過去には61式戦車を国産する際に、この3mという車両限界を意識して設計されています。道路運送車両法に関する車両限界は2.5m、これを超える車両は一般道では特殊大型車両となり関係機関への届け出が必要となります。特殊大型車両、実は平成中期までは届け出がすべての管理者へ届け出る必要があったのですが、法改正により多少は煩雑さが解決した。

 法改正により一つの管理者に時間と出発地に目的地を届け出た際にすべて共有されるように改善され、利便性は高まっています。しかし、煩雑であり、しかも経路と移動時間の概略は簡単に算出できるものでもありません、すると有事の際には鉄道輸送の重要性が大きくなる。貨物列車であれば渋滞にまき込まれることは、ありません。遅延があるけれども。

 ダイヤ遅延というかたちであり得るのですが、これにより到着時刻が遅れることを道路管理者に通知する必要、というものはなくJR貨物が責任を持って運転を継続します。そして緊急展開部隊の鏑矢として新編が次々と進む即応機動連隊などは、その装備がすべて貨物列車で輸送可能なのですね。JR貨物が運行する電気機関車は最大1500t貨物を牽引可能だ。

 1500t、もちろん貨車そのものの重量もありますが、北海道から九州まで36時間で輸送することが可能です、この速度は高速貨物船よりも優秀といえるでしょう。貨物輸送を併用するならば有事の際にも大量輸送が可能だ、といえるのですがここでひとつ、有事の際に列車は運行されるのでしょうか。平時の感覚で依存度を高めますと有事の盲点となります。

 計画運休、この言葉は巨大台風の接近とともにJR各社が災害を未然に防ぐために実施するようになったここ数年の取り組みです。20世紀最後の年である2000年、東海豪雨という豪雨災害があり、このころにはまだ計画運休という概念がありませんでした。東海豪雨では24時間雨量が600mmを超える記録ものこると共に鉄道は線路の一部や基地が冠水した。

 東海道新幹線は東海豪雨に際し当時のJR東海が堅持していた輸送機関としての使命を優先し、東京駅から次々と新幹線特急を発車、静岡県内と愛知県内の豪雨に阻まれ70本近い列車が規定雨量を超えた線路内で立ち往生し5万名もの乗客が車内にとり残され、遅延22時間21分という記録を残しています。JR東海は国土交通省から説明を求められました。

 JR東海では、未曾有の豪雨をいずれ止むであろうとの見通しの下で運行したことで乗客に迷惑をかけたことを陳謝しています。しかし、あれから20年近くを経て昨今、大型台風が接近する場合には計画運休が実施されるのが通例となりました。JR西日本、2014年に史上初の計画運休を実施し1200本の列車を運休しました、西日本全体を停止させた構図です。

 JR西日本初の計画運休、この際に接近した台風は平成26年度台風19号、マリアナ諸島付近では最低気圧900hPaまで下がっており、予想進路は南九州に上陸した後、瀬戸内海を通り京阪神地区を直撃する予報が示されています。計画運休を実施した京阪神地区ですが豪雨は実際酷く、兵庫県洲本で時間雨量83mmを記録、死者も日本国内で3名でています。

 計画運休については、現在でも議論の余地が残ります。人命第一なのだから鉄道が止まって不便でも仕方ないという視点や、併せて台風が接近する工場や事業所と商業施設も停止するべきだ、とか、いっそのこと病院の救急病棟以外や社会福祉施設等も安全第一とするべき、という視点もあるのでしょうが、鉄道を必要とする緊急時への初動力もあるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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