北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

外務省"ウクライナ全土退避勧告",射程400kmのS-400ミサイルと国境から90kmのキエフ

2022-02-12 20:11:38 | 国際・政治
■米軍東欧へ更に追加派遣
 ウクライナ危機に関して昨夜動きがありました。アメリカ政府が自国民退避勧告を発令し連動するように我が国外務省も発令、一方米軍の更なる東欧増強が発表されました。

 東欧へ更に3000名の米軍部隊を増援、アメリカ国防総省の発表ではバイデン大統領が11日、東欧地域へ現在進められている増強を更に強化するべく、3000名規模の部隊を増派するよう命令したとしています。現在アメリカ本土からは第82空挺師団の将兵が輸送機により東欧へ緊急展開を進めています。ただ、空挺部隊では対戦車能力に限界があるのです。

 バイデン大統領が11日に発表した更なる増強部隊3000名はポーランドへ派遣されるとしていますが、詳細は不明です。陸軍には軽歩兵主体の歩兵旅団戦闘団、ストライカー旅団戦闘団と戦車や装甲戦闘車を装備する機甲旅団戦闘団があるのですが、輸送機での緊急展開可能な部隊は空挺部隊しかなく、その装備は歩兵旅団戦闘団で、戦車は有していません。

 ポーランドへの増強はウクライナの隣国であるとともに、ロシアの飛び地であるカリーニングラードとも隣接しており影響が必至の為であるのですが、バイデン政権の東欧増援は3000名単位ごとに泥縄式の派遣決定を伝えており、戦力逐次投入という軍事常識では敗北に直結する悪手として警鐘されています。そして軽装備部隊以外の派遣も示していません。

 外務省は昨日11日夜、ウクライナに関する邦人安全情報をより高い警戒度“レベル4”に引き上げ“邦人国外退避勧告”へ切り替えました。これは10日からロシア軍のベラルーシ軍との合同演習が開始され、ウクライナの首都キエフとベラルーシ国境とは直線距離で90km程しか離れておらず、侵攻が開始されてからでは退避が間に合わないとの判断です。

 政府は外務省の邦人国外退避勧告を受け首相官邸に官邸連絡室を設置しました。ただ、10日から演習開始という発表は前から為されており、ウクライナ危機を岸田政権が軽視していたのではないかという危機管理の不手際も感じざるを得ない状況です。なお、ウクライナ国内の在留邦人は150名程度、これは昨年のアフガニスタンよりも状況は深刻といえる。

 外務省は、予てより民間航空機が運行されている間に国外退去を検討するよう安全情報のレベルを上げていますが、今回正式に国外退避勧告を発令し、警戒を呼び掛けています。ウクライナは海路とポーランドやルーマニアとの陸路もありますが、海路はロシア黒海艦隊に封鎖される懸念があり、また空港も民航機がいつまで運行されるか確証がありません。

 空港については、ウクライナの国際空港は首都キエフのキエフジュリャーヌイ国際空港、キエフ州のボルイースピリ国際空港、ドニプロペトローウシク州のドニプロペトローウシク国際空港、ドネツク州のドネツク国際空港とマリウポイ国際空港、サポリージャ州のサポリージャ国際空港、そしてオデッサ州のオデッサ国際空港などに国際線が乗入れている。

 東部地域はウクライナ東部紛争の影響を受けています、中でも4000m滑走路を有するドネツク国際空港は2015年に親ロシア派武装勢力により占拠破壊されており、2022年時点で旅客機は運行されていません。また、この地域には2014年7月17日に発生したマレーシア航空17便撃墜事件のように、民航機であっても地対空ミサイルの脅威があるのです。

 S-400地対空ミサイル、今回ロシア軍は射程の長いS-400地対空ミサイルを極東地域よりウクライナ北部国境に展開させています、その射程は400kmに及び、これではキエフ州のボルイースピリ国際空港やキエフジュリャーヌイ国際空港を発着する旅客機は完全に射程に収められており、開戦となった直後に、民間機は事実上飛行出来なくなる可能性が高い。

 シベリア航空1812便撃墜事件。これは9.11アメリカ同時多発テロの記憶新しい2001年10月4日にイスラエルのベングリオン国際空港を離陸しロシアのトルマチョーヴォ空港に向かっていたシベリア航空の旅客機が、240kmも離れたウクライナ軍演習場から誤射され命中し乗員乗客全員が死亡した事故でした。使用されたのはS-200地対空ミサイルという。

 西側のミサイルは、海軍のスタンダードSM-2が射程100km、そして陸空軍のペトリオットミサイルが射程100kmで、ミサイルの長射程地対空ミサイル射程の相場は100km前後というものが基本です、しかし、旧ソ連が設計したミサイルは広大な国土を防衛する必要から射程が長く、離れている民航機にも誤射の危険は及ぶ非常に厳しい教訓となりました。

 邦人国外退避勧告。可能な限り早く出国が求められるのですが、NATOなど韓国は自国民救出の軍用機派遣等の準備を行っているとの報道も一部にはあり、場合によっては最悪の事態を避ける為に邦人救出任務への自衛隊派遣も、為政者は考えておくべきです。昨年日本はアフガニスタン邦人救出に失敗しています、岸田政権の危機管理が問われるのです。

 ユニオンカレイジ2022演習、ロシア軍によるベラルーシ国内でのベラルーシ軍との合同演習が10日より実施されています。NATOのストルテンベルク事務総長は3日の記者会見ですでにロシア軍3万名がベラルーシに展開しているとしていて、展開兵力が大きく、このままベラルーシウクライナ国境より南進を開始するのではないかとの危惧があります。

 ロシア政府のぺスコフ報道官は、現在ベラルーシが冷戦終結後最大の危機に曝されておりベラルーシをNATOの侵略から守る為には軍事演習を行うしかないとし、今回の軍事演習は防衛目的であると強調しています。一方、ウクライナ軍はこの演習がそのまま進攻作戦へ転換した場合に備え、対抗演習を実施するとしています。ウクライナ軍の対抗演習とは。

 対抗演習そのものは自衛隊も実施しています、ロシア軍が北方領土や沿海州などで大規模演習を実施する場合、その演習参加部隊がそのまま北海道に着上陸した場合に備えて北部方面隊隷下部隊を演習場などに展開させるというもの。旅団祭などと重なりますと参加部隊が大きく削減されるという事が在りまして、前にわたしも実際経験したことがあります。

 ロシア軍は2022年にロシア南部地域で3000回の演習を計画していると2021年に発表しています。ベラルーシでのユニオンカレイジ2022演習と並行する形で、ロシア南部では8日より三週間に渡る夜間演習を開始しました。ロシアのプーチン大統領はフランスマクロン大統領との首脳会談で演習終了後部隊は撤収するとしていますが、演習は3000回行う。

 海上での緊張も増大しています、9日にロイター通信がインタファックス通信を引用する形で地中海に展開していたロシア海軍艦艇が黒海へとトルコのボスポラス海峡を航行したと報じていまして、8日にコロレフ、ミンスク、カリーニングラードが確認されたという。ミンスクは、キエフ級空母ミンスクが有名ですが30年前に廃艦となり、同名の艦でしょうか。

 地中海から黒海へ航行した艦艇はロシア国防省によれば6隻が予定されており、ジブラルタル海峡を航行し地中海に展開した北海艦隊の艦艇でしょうか。地中海に展開するNATO合同空母部隊を牽制するとともに、インド洋に遊弋するアメリカ事前集積船部隊へも圧力を加える配置といえます。戦端いつ開かれるかという緊張が、今この瞬間も続いています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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小松基地F-15DJ日本海墜落事故-現場付近で発見,原因究明へ来週にも機体をサルベージ開始

2022-02-12 14:48:38 | 防衛・安全保障
■2007年米F-15C事故と比較
 本日の土曜日第二記事は予定を変更して石川県でのF-15DJ戦闘機墜落事故の続報です。

 F-15墜落現場付近に遺体、北國新聞が報道しました。1月31日夕刻に小松基地を離陸した直後に日本海上にて行方不明となりましたF-15戦闘機、離陸してから五分以内に墜落し事故現場海域は基地から5kmという非常に近い距離での事故でした、小松救難隊など航空救難は迅速に行われたようですが、2月11日に発見、残念な結果となってしまいました。

 北國新聞によれば行方不明となっているのは飛行教導群司令の田中公司1佐と飛行教導群所属の植田竜生1尉、航空自衛隊の井筒俊司航空幕僚長は、事故に遭ったF-15戦闘機は水深100mの海底に在り、総合的に考えて墜落したと考える、と発言しており不時着などによる水没ではないとの見方を示しています。今後は事故原因の究明が行われるとのこと。

 群司令が搭乗している、そして操縦技術の高い要員を集めて巡回訓練にて全国の部隊を鍛え上げる飛行教導群の事故と云う事で、今回の事故は特異な事例といえます。航空自衛隊は来週にも民間のサルベージ会社協力を受け、海底の事故機をサルベージするとのことで、原因究明が待たれます、こういいますのもF-15は古いながら当面は運用を継続する機体だ。

 F-15戦闘機、1981年に初号機がアメリカから岐阜基地へ到着していますが、2021年にF-4戦闘機が完全退役してのち、自衛隊では最も古い戦闘機となっています。老朽機かと問われますとチタン合金などをフレームに多用していて、かなり戦闘機の格闘戦を想定し頑丈な構造としたことが結果的に長い期間にわたり運用できる頑強さを有してはいるのですが。

 F-15JSI計画、航空自衛隊はF-15戦闘機にかなりの費用を投じて2040年代まで運用を維持する計画です。この改修にはボーイング社が三菱重工の見積もりよりも安価に可能としてF-15JSI計画が始動しましたが、当初見積もりの四倍、つまり三菱案の倍以上まで高騰しており、見直しの上で2021年末に再契約されています、つまりまだまだ運用は続く。

 飛行教導群のF-15戦闘機、事故原因は不明です。ただ、飛行教導群の操縦技術から考えて、空間失調、つまり上昇しているつもりで海面に突入という事故は、なかなか考えにくいのですよね。もちろん事故原因はほかにもいろいろとあり得て、鳥と衝突するバードストライクなども考えられますがF-15は双発機、一般的にバードストライクには強いのです。

 アメリカでの2007年空中分解事故、F-15戦闘機は気になる事故が過去にアメリカで発生しています、それは2007年10月7日にアメリカ本土ミズーリ州でF-15Jの原型機であるF-15Cが旋回中に空中分解事故を起こしていまして、機首の部分がコックピットの根元から折れるように機体から切り離され、脱落するという事故でした。事故原因は機体の構造材でした。

 ミズーリ州のF-15C空中分解事故は機体を構成する縦通材という基本部分が経年劣化、特に金属疲労により罅割れていた、2008年1月10日にアメリカ空軍の事故調査委員会が結論を出しており、最新のF-15Eについても同様の事故の可能性があるとの事から補強工事が行われています。そして事故の時期からアメリカ空軍はF-15C後継機模索を本格化する。

 航空自衛隊の原因究明は海底のF-15DJ改修作業と共に開始されるのですが、2040年代まで使用する現在の計画では新しい機体でも半世紀ほど運用する事となります、それよりも思い切ってF-15EXあたりをライセンス生産により後継機に充ててはとも思うのです。なお、現場は好漁場ですが石川県漁協は航空自衛隊の要請を受け、今日も漁を自粛しています。

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