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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ペトリオットミサイル旧式化!?サウジアラビア政府ロシア製S-400防空ミサイル検討報道

2019-10-29 20:17:33 | 先端軍事テクノロジー
■ドローン戦争vsアメリカ兵器
 イラン製の簡易巡航ミサイルというべき無人機群によるサウジアラビア油田攻撃は世界に衝撃を与えましたが、新しい動きが。

 サウジアラビアは現在、ロシア製S-400防空ミサイルとS-500防空ミサイルの取得に向け政府間が交渉中であるとロイター通信が報道しました。S-400はトルコ軍が導入し、結果アメリカ政府はNATO防空システムへ連節する事によりロシア製防空システムへ情報が漏えいする懸念から、トルコ軍が取得予定の第五世代戦闘機F-35A戦闘機引渡を停止しました。

 サウジアラビアは航空自衛隊と幾つかの主要装備に置いて共通点があります、制空戦闘機としてF-15Cを運用しておりF-15Jと共通点が。更に戦域防空ミサイルとして同じペトリオットミサイルを装備しています。相違点は潤沢石油財源か緊縮財政、また双方ともにミサイル脅威に曝されていますが、サウジアラビアは現在実戦に曝されているという部分で。

 S-400ミサイル、サウジアラビアは親米国家の象徴的な国ですが、ロイター通信ではアメリカの中東におけるポテンシャル低下の空隙にロシアが入り込みつつある、という説明を行っています。ただ、S-400については、サウジアラビア軍が運用するペトリオットミサイルよりも幾つかの部分で高性能である、という部分が抜け落ちている様に思えてなりません。

 イラン製簡易巡航ミサイルというべきドローン攻撃、射程が1000km前後となる新しい脅威に対してサウジアラビア軍は防空体制の立て直しを強いられていますが、広大なサウジアラビア国土に在って、ミサイルコリドーという防空覆域の狭間から油田施設や空港施設等を狙う脅威に対し、現在のペトリオットミサイルは充分に対応出来ているのでしょうか。

 ペトリオットミサイルは1984年に運用開始となりました戦域防空ミサイルです。同時期に海軍ではイージスシステムが運用開始となっていまして、実のところ相互補完性や双子といえるのかもしれませんが、イージスシステムが年々改良と運用ミサイルの近代化を進める一方、ペトリオットミサイルは部分的改良に留まっており、一部の面で陳腐化している。

 ペトリオットミサイルPAC-2は条件次第で最大射程160kmを発揮しますが、通常高度を飛行する航空目標に対する実用的な射程は96kmとされていまして、実はこの96kmという射程は現代の戦域防空ミサイルとして決して長射程ではありません。開発当時は充分でしたが、2000年代以降ロシア製地対空ミサイル長射程化に後れを取っているのが現状です。

 ペトリオットミサイルはAN/MPQ-65レーダーを用い、ミサイルの射程以上の遠距離目標を複数同時捕捉と識別追尾が可能です。ただ、AN/MPQ-65レーダーは固定式でありその警戒範囲は120度に限られます。360度を確実に警戒するには三基が必要となりますが、1セットにAN / MPQ-65レーダーは1基のみ、警戒範囲が現段階では充分ではありません。

 迎撃に際してM901発射装置よりミサイルを発射しますが、こちらも発射方式が現在主流となりつつある垂直発射方式ではありません。100km以遠を狙うペトリオットは射撃時の後方爆風等の影響も大きく、垂直発射方式を取らない為に射撃位置等が制限され、特に360度全周に渡って射撃を行うには地形上の制約が大きい。この点も問題点といえるでしょう。

 S-400地対空ミサイルは、ミサイル本体の射程が400kmに達し、高高度警戒用96L6Eレーダーと92N2レーダー索敵レーダーは500km以遠での目標を捕捉する性能を有しており、40N6Eミサイルは本体重量が1.8tもあり、主として対航空機用となっていますが弾道ミサイル迎撃能力も高く秒速4.8kmまでの落下速度を有する弾道ミサイルに対し迎撃可能です。

 9M96EミサイルとしてS-400地対空ミサイルには、重量333kgの小型ミサイルがシリーズ化されていまして、射程は40kmと有効射高は20000mに留まりますが、40N6Eミサイルのような巨大なミサイルを使用するには威力過大な近距離目標に対し対応可能です。ミサイルは垂直発射方式を採用し峡谷や市街地から射撃可能、レーダーは回転式を採用する。

 ペトリオット、射程不足と警戒範囲の狭さ、理想的な解決策はレーダーを高速回転式とした新型に改め360度の警戒監視を可能とさせると共に発射装置を垂直発射装置として新型を開発する、また射程も延ばす“ペトリオットPAC-4”が必要なのですが、現段階ではこうした改良型は開発されていません。即ち広範囲を防空するには現在、限界があるのです。

 サウジアラビアの視点に立てば、今回問題となった油田攻撃にはミサイルの射程不足と警戒範囲不足の狭間を衝かれました。しかしアメリカ製ミサイルを導入する限り、陸上配備型にはペトリオットPAC-2が射程では最大、西側には自衛隊の03式中距離地対空誘導弾が在りますがこちらは全周射撃可能ながら射程不足、他に妥当な機種が無い現状という。

 イージスアショア、唯一の例外が陸上配備型イージスシステムです。イージス艦に搭載される対航空機用のスタンダードSM-6は条件次第で射程は470kmと長く、早期警戒機と連接する事で見通し線外の低空目標も迎撃可能です。ただ、難点は固定式である点、そしてなによりアメリカはサウジアラビアへイージスシステムの供与を認めていない限界がある。

 アメリカの中東における影響力低下がロシア製ミサイルの導入へ動いたのではなく、ペトリオットミサイルの現代戦における能力相対的低下が比較的高性能であるS-400ミサイル導入へ動いた、実際構図はこうです。故にサウジアラビアが求める必要な性能を有する地対空ミサイルが開発されるならば、S-400の導入に動く事は無かったのではないでしょうか。

 スタンダードSM-6の地上発射型、可能であればMk41垂直発射装置を車載化したものと、回転式SPY-1レーダー及び火器管制装置を車載化したもの、即ち最小限度のイージスシステムといえる装備ですが、こうしたペトリオット能力不足を置き換える新型防空システムをアメリカが開発するならば、サウジアラビアは勿論、世界へ影響を与えられるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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