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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新しい88艦隊を考える-自由で開かれたインド太平洋はウクライナ戦争と台湾危機に揺れる現代の安全保障論

2022-08-07 20:12:38 | 北大路機関特別企画
■新しい88艦隊を考える
 日本には新しい88艦隊というものが必要です。

 明日は八月八日、八八艦隊の日です。新しい88艦隊としまして毎年この八月八日は、ヘリコプター搭載護衛艦を8隻まで増強し、既にあるイージス艦に代表される広域防空艦8隻体制を維持し、現在の護衛艦隊護衛隊群にある8個護衛隊すべてにヘリコプター搭載護衛艦を配備できる体制が必要だという特集を掲載している特別な日です。今年も来ました。

 イージス艦は既に、こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい、あたご、あしがら、まや、はぐろ、と8隻体制となっていますが、ひゅうが、いせ、いずも、かが、ヘリコプター搭載護衛艦は4隻体制です。これを更に4隻増強し、護衛隊の編成を全てヘリコプター搭載護衛艦とイージス艦に2隻の汎用護衛艦とし、任務群を編成できる体制を目指す。

 2022年は、しかし非常に象徴的な事件が相次いでおり、実のところ日本の将来を考える上で必要性が高まっているのではないかと切迫感を感じるのです。一つの出来事は、ロシア軍のウクライナ侵攻であり自衛隊のパワープロジェクション能力を高める必要性、そしてもう一つは現在の台湾情勢で中国の圧力が戦術弾道ミサイルの形で日本に降り注いだため。

 日本のEEZは認めない、中国は一昨日驚くべき発言を行いました、これは日本の我が国EEZ排他的経済水域内への身だいる着弾への抗議に対して中国外務省報道官の発言であり、海上防衛という概念そのものを、専守防衛というものを如何に堅持しても、貴国の存在そのものが領海侵犯、こう主張されてはどうにもなりません、土台が蹴り倒されたかたちだ。

 日本のEEZは認めない、こんな発言を真面目に行い、その報道官を更迭しない国を相手に平和を望んだとしても、恐らく平和の定義が両国で違い摩擦を生むだけです。すると、“自由で開かれたインド太平洋”という、日中二か国間だけの関係を離れて、国際法や国際公序という理念を考える国々との間での協力が必要です、自由で開かれたインド太平洋、と。

 自由で開かれたインド太平洋、この発言は故人となった安倍元総理大臣が総理大臣在任中に2007年8月、インドでの演説においての内容に依拠するものですが、その後の日本外交が太平洋とインド洋を一つの海として認識する外交戦略を構築し、世界政治においても、従来のアジア太平洋という概念を塗り替える事となりました、これは大きな転換点という。

 自由で開かれたインド太平洋。これからの日本の安全保障を考えるには、一対一で片方が貴国の存在を認めないという主張を行えば戦争反対を唱えても、ならば特別演習や特別軍事作戦で対応する、こうした平和ではない結果に帰結しかねません、するともう少し広い視座にたち、多くの国々とともにグローバルな安全保障環境を構築する必要が生じます。

 アジア太平洋という概念では単純に、アメリカと中国の太平洋を巡る摩擦という状況に帰結してしまいますが、インド太平洋、この概念であれば、世界最大の人口を有する中国、世界最大の民主主義国であるインド、世界最大の経済大国であるアメリカ、マルチラテラルな国際関係が形成されてゆく事となり、アジアとアフリカさえも含む概念となります。

 ヘリコプター搭載護衛艦は、広い視座に基づく国々との地域安全保障枠組の構築には不可欠な装備です、行動半径は大きく、F-35BもSH-60LもAH-64DもV-22もMCH-101も搭載可能で、任務に応じ艦載機を変えられる。インド太平洋という視座には、日本だけ日本周辺にのみ視点を固めて引き籠ることも最早、平和への道から遠ざかることともなる。

 新しい88艦隊が必要だ、それは単に象徴的な名称というだけではなく実用の装備として絶対に必要だ、日本がインド洋の安全保障枠組にも関与する事と成れば、太平洋における緊張状態が高まった際にもインド洋諸国は関心を示し、インド洋とスエズ運河で結ばれる地中海の欧州諸国も国際公序の維持へ、艦艇派遣は勿論、政治の場面でも関心をしめします。

 新しい88艦隊、そして象徴的な名称ではないという前述とは若干矛盾しますが、この88艦隊という単語は、我が国海上防衛にとっては一つの象徴的な単語でもありました、旧海軍が未完成に終わりはしましたけれども、八八艦隊、という艦隊建造計画を進めていました。実現はしませんでしたが戦後にも自衛隊は88艦隊という防衛力整備を行ってきた。

 八八艦隊、古くは旧海軍が日露戦争時代の六六艦隊の戦艦六隻と装甲巡洋艦六隻からなる体制を越えて、短期間で戦艦八隻と巡洋戦艦八隻からなる戦艦部隊を創設するべく、戦艦長門、陸奥とともにこれを上回る加賀型戦艦と天城型巡洋戦艦の建造に着手、しかし財政上現実的ではなく、ワシントン海軍軍縮条約とともにその計画は中断中止された計画です。

 八八艦隊、戦艦と巡洋戦艦の数だけを注視すると可能なように錯覚するものですが、この計画には戦艦を支援する巡洋艦から航空母艦に潜水艦から駆逐艦まで厖大な数を含めた建造計画が盛り込まれ、更に計画では八年間で戦艦と巡洋戦艦を揃え、新旧二つの16隻からなる主力艦部隊をおくという、国家財政を無視した計画となっていました。確かに無理が。

 加賀型戦艦という、戦艦長門よりも巨大な戦艦を毎年2隻、今風にいえば中期防あたり10隻建造するというものですので、一隻の乗員は1000名を軽く越えます、これだけでも文字通り気の遠くなるような計画となっています。ただ、戦後自衛隊はもう少し現実的な88艦隊という構想を進めます、それは護衛艦8隻とヘリコプター8機からなる護衛隊群という。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦、しらね型ヘリコプター搭載護衛艦、いずれも過去の歴史となりました護衛艦ですが、直轄艦としまして、ターターシステム搭載の防空艦、たちかぜ型ミサイル護衛艦やミサイル護衛艦あまつかぜ、など2隻、そしてヘリコプター1機を搭載する汎用護衛艦5隻、という護衛隊群を4個整備するというものです。現実的でした。

 こんごう型ミサイル護衛艦みょうこう竣工の1995年に、ようやくミサイル護衛艦は8隻体制となり、長らく海上防衛力整備の一つの指針であった護衛隊群すべての88艦隊化が完成します。もっとも、はるな型護衛艦の口径には全通飛行甲板型の護衛艦ひゅうが型が建造、護衛艦8隻体制は不変ですが、艦載機は8機という当時を大幅に増大し、今日に至ります。

 ひゅうが型護衛艦、続く護衛艦いずも型、海上自衛隊はヘリコプター搭載護衛艦が全通飛行甲板型護衛艦の時代を迎えることとなりました、そしてヘリコプター搭載護衛艦はヘリコプター巡洋艦型の第一世代と比較し、搭載できる艦載機が大幅に強化されてゆきます、2021年には護衛艦いずも艦上にアメリカ海兵隊のF-35B戦闘機が着艦に成功しました。

 F-35Bは垂直離着陸が可能な第五世代戦闘機で、航空自衛隊は42機を導入する計画です。もちろん護衛艦に搭載することは可能でも、F-35BはSH-60哨戒ヘリコプターとはK型やL型とも比較にならないほどの大量の燃料と弾薬を消費するために運用は一筋縄では行かぬとの指摘はありますが、例えばセンサーノード機など情報優位に活用する選択肢はある。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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