■感染拡大から戒厳令とその後
SFとは一つの思考訓練と考えているのですがSFとはいえ本作の感染拡大の描写は秀逸でした、映画も凄いが原作は更に考えさせられる。
草刈正雄さん。大河ドラマ真田丸にて主役を上回る迫力と格好よさを叩きつけた昭和日本の快男児ですが、本作は主役の地質学者吉住を演じる草刈正雄さんが無人の古代遺跡マチュピチュはじめ世界を練り歩く情景が印象的な映画でした。いや、映画初見当時、こんな格好いい俳優がいたのか、と新鮮な驚きを感じたものですが、これは原作を越えていた。
復活の日、その映画化は1960年代半ば、つまり原作発表直後の時点で検討が為されたという事ですが、当時の日本特撮技術を以てしても南極ロケが必要であり、1965年の“ガメラ”で描かれた北極の様な描写では成立たず、また原作の感染拡大の様子を含め世界各国との合作が必要だという判断から宙に浮いてしまいます。原作直後映画化の日本沈没とは違う。
南極ロケを敢行した史上初の映画、という事でも知られる映画復活の日、日米合作を検討した事で本作のプロットを知ったSF作家マイケルクライトンが、ジュラシックパークの原作者ですが、アンドロメダ病原体という影響を受けた作品を書き上げたりする一幕もありましたがこの際の映画化は実らず、実に映画化に二十年近い時間を要したという一作です。
映画版復活の日、非常に良い作品でチリ海軍の通常動力潜水艦も映画撮影に協力していまして、南極ロケとともに美しい情景を残しているのですが、予算の関係でしょうか、南極で生き残る人員が二桁少なかったり、描ききれない部分も多かった印象があり、やはりここは映画をご覧の方程、原作の深い世界を一緒に考えて頂ければ、とおもいます。今こそ。
小松左京の独特の切り口といいますか、登場人物の視点がさまざまに溢れていまして、誰かと自分が重なる、ある時は病院の満員に途方に暮れる会社員、ある時は医師の視点、またある時は中国の農民、北欧の文化人類学者、そして当事者たち、多角的な視点が示されることで作品世界に没入して行くことが出来るのが、その作風といえるのかもしれません。
プロ野球と大相撲はじめスポーツでも影響が増大し、これが産業分野まですすみますと、工場操業の停止などにすすみ経済打撃が大きくなるのですが、日常生活でもテレビ放送の番組維持が不能となり、また厚生省、当時は厚生労働省ではなく厚生省や病院の電話相談機構さえも破綻、街には待合室から溢れた高熱患者が列を為し、時折に突然死も、という。
鉄道網麻痺、世界中で進むさなかに日本では東海道本線が東京大船間をのぞき全面不通に中央線も、運転士の突然死が相次ぎまた航空航路も事故の増大を受け停止へ、とうとう都市部での計画停電も開始され、社会は硬直、国会では代議士の感染が相次ぎ、とうとう通常国会成立の最小限度の議員を集め、政府への全権委任法を可決しますが首相が死亡する。
自衛隊による戒厳令が布告され、市街地に山積された突然死の犠牲者をブルドーザーで集め火炎放射器にて処理するという衝撃的な状況に展開しますが、そのころには道路網も物流も破綻し、生き残った住民はひたすら祈り続け、そして夏を迎える頃には各国政府も同様の状態に陥り、七月下旬には最後の北欧から世界最後の通信が途絶する、という展開へ。
チベット風邪、原作ではもともと欧州の某国が宇宙空間から採集した異常な増殖力を持つウィルスを用いて秘密裏に開発していたウィルス兵器、細菌兵器ではなく核酸を利用したウィルス兵器が、兵器ブローカーにより持ち出される過程で拡散、最初に中国山間部にて鶏ペストのような奇病として広がり始めます、そして新型インフルエンザが広がり始める。
核酸兵器。この開発を主導していた研究所所員はすべての秘密を握ったまま、全員がこのウィルスの市中感染に冒され、六月初旬には全員が死亡し、世界の防疫研究者はこの情報を触れることもなく、全滅してしまう、という状況なのですが、核兵器に続く核酸兵器の研究を行っていた手がかりを一人の研究者が世界の終焉を目の前に無線通信で残します。
MM-88菌と秘密裏に開発されていましたウィルスは細菌と異なり遙かに小さく、東西核軍拡競争が進む中でギガトン、ベガトンと威力は異常に増大する中、使いにくい兵器となってしまい、このために新たな兵器区分として核酸の兵器利用が東西両陣営により研究されている、原作の世界観はこうしたものでした。この宇宙からのウィルスが原因というもの。
零下15度ではほぼ増殖しないのですが零下5度あたりから増殖を始め、摂氏0度を境界に爆発的に増殖する、この核酸を兵器利用しようとする一方で、威力が大きすぎますと使用したらば自国へも伝播する故に使いにくい、だからこそ感染力は大きいものの威力の大きな当初MM-86は実用性が無く、戦場で使える程度に威力を減じる研究が行われていた。
MM-87は若干威力を減じたものの、MM-88はほぼ100%の致死性を有する威力をもってしまい、研究者たちが、これは人類への破滅的な危険性を持つとして良心からMM-88のワクチンにかんする東西研究を秘密裏に行おうとした、ここから東西間の輸送に兵器ブローカーを利用しようとしたものが輸送過程で事故があり拡散してしまう、こうしたものでした。
核酸兵器の実体を無線通信で残す、これはある種、ネビルシュートの核戦争後世界を描いた"渚にて”を思い起こさせる展開ではあるのですが、この無線通信は録音装置により繰り返し送信され続け、一万人が生き残った南極でも傍受、これにより南極観測隊員、なかでも医療関係者は脅威の正体が単なるインフルエンザではなく未知の生物兵器だったと知るという。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
SFとは一つの思考訓練と考えているのですがSFとはいえ本作の感染拡大の描写は秀逸でした、映画も凄いが原作は更に考えさせられる。
草刈正雄さん。大河ドラマ真田丸にて主役を上回る迫力と格好よさを叩きつけた昭和日本の快男児ですが、本作は主役の地質学者吉住を演じる草刈正雄さんが無人の古代遺跡マチュピチュはじめ世界を練り歩く情景が印象的な映画でした。いや、映画初見当時、こんな格好いい俳優がいたのか、と新鮮な驚きを感じたものですが、これは原作を越えていた。
復活の日、その映画化は1960年代半ば、つまり原作発表直後の時点で検討が為されたという事ですが、当時の日本特撮技術を以てしても南極ロケが必要であり、1965年の“ガメラ”で描かれた北極の様な描写では成立たず、また原作の感染拡大の様子を含め世界各国との合作が必要だという判断から宙に浮いてしまいます。原作直後映画化の日本沈没とは違う。
南極ロケを敢行した史上初の映画、という事でも知られる映画復活の日、日米合作を検討した事で本作のプロットを知ったSF作家マイケルクライトンが、ジュラシックパークの原作者ですが、アンドロメダ病原体という影響を受けた作品を書き上げたりする一幕もありましたがこの際の映画化は実らず、実に映画化に二十年近い時間を要したという一作です。
映画版復活の日、非常に良い作品でチリ海軍の通常動力潜水艦も映画撮影に協力していまして、南極ロケとともに美しい情景を残しているのですが、予算の関係でしょうか、南極で生き残る人員が二桁少なかったり、描ききれない部分も多かった印象があり、やはりここは映画をご覧の方程、原作の深い世界を一緒に考えて頂ければ、とおもいます。今こそ。
小松左京の独特の切り口といいますか、登場人物の視点がさまざまに溢れていまして、誰かと自分が重なる、ある時は病院の満員に途方に暮れる会社員、ある時は医師の視点、またある時は中国の農民、北欧の文化人類学者、そして当事者たち、多角的な視点が示されることで作品世界に没入して行くことが出来るのが、その作風といえるのかもしれません。
プロ野球と大相撲はじめスポーツでも影響が増大し、これが産業分野まですすみますと、工場操業の停止などにすすみ経済打撃が大きくなるのですが、日常生活でもテレビ放送の番組維持が不能となり、また厚生省、当時は厚生労働省ではなく厚生省や病院の電話相談機構さえも破綻、街には待合室から溢れた高熱患者が列を為し、時折に突然死も、という。
鉄道網麻痺、世界中で進むさなかに日本では東海道本線が東京大船間をのぞき全面不通に中央線も、運転士の突然死が相次ぎまた航空航路も事故の増大を受け停止へ、とうとう都市部での計画停電も開始され、社会は硬直、国会では代議士の感染が相次ぎ、とうとう通常国会成立の最小限度の議員を集め、政府への全権委任法を可決しますが首相が死亡する。
自衛隊による戒厳令が布告され、市街地に山積された突然死の犠牲者をブルドーザーで集め火炎放射器にて処理するという衝撃的な状況に展開しますが、そのころには道路網も物流も破綻し、生き残った住民はひたすら祈り続け、そして夏を迎える頃には各国政府も同様の状態に陥り、七月下旬には最後の北欧から世界最後の通信が途絶する、という展開へ。
チベット風邪、原作ではもともと欧州の某国が宇宙空間から採集した異常な増殖力を持つウィルスを用いて秘密裏に開発していたウィルス兵器、細菌兵器ではなく核酸を利用したウィルス兵器が、兵器ブローカーにより持ち出される過程で拡散、最初に中国山間部にて鶏ペストのような奇病として広がり始めます、そして新型インフルエンザが広がり始める。
核酸兵器。この開発を主導していた研究所所員はすべての秘密を握ったまま、全員がこのウィルスの市中感染に冒され、六月初旬には全員が死亡し、世界の防疫研究者はこの情報を触れることもなく、全滅してしまう、という状況なのですが、核兵器に続く核酸兵器の研究を行っていた手がかりを一人の研究者が世界の終焉を目の前に無線通信で残します。
MM-88菌と秘密裏に開発されていましたウィルスは細菌と異なり遙かに小さく、東西核軍拡競争が進む中でギガトン、ベガトンと威力は異常に増大する中、使いにくい兵器となってしまい、このために新たな兵器区分として核酸の兵器利用が東西両陣営により研究されている、原作の世界観はこうしたものでした。この宇宙からのウィルスが原因というもの。
零下15度ではほぼ増殖しないのですが零下5度あたりから増殖を始め、摂氏0度を境界に爆発的に増殖する、この核酸を兵器利用しようとする一方で、威力が大きすぎますと使用したらば自国へも伝播する故に使いにくい、だからこそ感染力は大きいものの威力の大きな当初MM-86は実用性が無く、戦場で使える程度に威力を減じる研究が行われていた。
MM-87は若干威力を減じたものの、MM-88はほぼ100%の致死性を有する威力をもってしまい、研究者たちが、これは人類への破滅的な危険性を持つとして良心からMM-88のワクチンにかんする東西研究を秘密裏に行おうとした、ここから東西間の輸送に兵器ブローカーを利用しようとしたものが輸送過程で事故があり拡散してしまう、こうしたものでした。
核酸兵器の実体を無線通信で残す、これはある種、ネビルシュートの核戦争後世界を描いた"渚にて”を思い起こさせる展開ではあるのですが、この無線通信は録音装置により繰り返し送信され続け、一万人が生き残った南極でも傍受、これにより南極観測隊員、なかでも医療関係者は脅威の正体が単なるインフルエンザではなく未知の生物兵器だったと知るという。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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