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新幹線国際輸出研究【3】JR西アジア-JRアフリカ,技術現地化の努力と遠隔車両管理技術

2020-10-07 20:07:14 | コラム
■単線新幹線輸出と運行管理
 新幹線は途上国の輸送需要であれば運行本数から単線でも充分需要に応えられ且つその方が建設費は格段に安くなる、これが前回の視点です。

 新幹線単線方式での新幹線輸出を中国高速鉄道輸出へ費用面で対抗する手段とする。日本の新幹線が高速輸送を手段ではなく、大量輸送への手段に高速輸送を用いており、この為に短時間で大量の輸送能力を有する制御システムにより安全に運航できる、だからこそ、毎時四本運行に敢えて中国が複線提案する高速鉄道に単線新幹線方式を提示を示したい。

 日本新幹線が苦戦する最大の理由は高コストであると一般に言われます、中国高速鉄道は現在中国全土での敷設計画が継続的に進行する量産効果に依拠しており、費用面では日本の鉄道では同じ製品の国産と中国産というほどに開きがあります、日本は性能で勝負を試みますが、世界が必要としているのは最高性能ではなく、安価であり高性能であるのです。

 単線新幹線であれば単純に製造費用は複線所半分の用地と資材で完了します。そして日本の毎時最大12本上下運行を行うシステムは毎時4本程度の運行を単線で行うことは不可能ではありません、単線鉄道は日本では在来線に多い運行方式ですが、新幹線単線運行システムならば、中国の複線高速鉄道へ輸送力と費用面の双方で対抗する事ができるでしょう。

 狭隘地形での運行性能も日本の新幹線では重要な要素となります。東海道新幹線のカーブは2500m半径となっています、山陽新幹線では4000m半径のカーブに改善されましたが、草創期の新幹線である東海道新幹線では東京五輪開業という世界銀行への公約もあり、短期間での建設を強いられたのです、この結果2500m半径のカーブの上で高速走行を行う。

 N700系新幹線は振り子式制御装置を採用し、急カーブを高速で通過する安全速度を大きく向上しました。N700系の完成とともにすでに従来の700系新幹線の完全置き換えが近い東海道新幹線は、2500m半径のカーブにおいてもようやく山陽新幹線の4000m半径カーブ通過時並みの高速運行を実現しました。この車両性能も中国高速鉄道にはないものでしょう。

 世界に高速鉄道の需要がある中、中国が建設する高速鉄道は大陸中央部の良好な地形を直線に整備することで高速輸送を行う、国土がすべて国有の中国ゆえの土地収用への手続き的な利点を恩恵として線路敷設を行っているのにたいし、日本ほど土地への制約がなくとも世界には山間部や河川と軟弱地形による狭隘地形が高速鉄道に影響する事も少なくない。

 中国高速鉄道建設には短い工期が強調されます、しかし中国高速鉄道建設には遅延違約金という概念が特記事項により土地収用や測量期間等を事由として免責される事も多く、一例としてインドネシア高速鉄道延期や南カリフォルニア高速鉄道無期限延期などの問題を発生させています。全土国有地を自由に収用し直線軌道を建設できる国は多くありません。

 単線新幹線は、用地収用でも複線の半分で完了するため、一例として土地収用への退去要請も半分の面積で対応できるほか、2500m半径のカーブに対応できる新幹線性能は、線路計画予定地に既に人口密集地域や公共施設と地形障害等が存在する場合にも直線線路を求められカーブを安全に通過するには減速の必要がある中国高速鉄道に対し優位にあります。

 狭軌軌道という日本の鉄道は1067mmのレール幅で狭隘地形に対応しました、新幹線は1435mmで欧米では標準軌と呼ばれる規格で建設されています。しかし東南アジア地域を中心に狭軌規格の鉄道は尚多く、これは狭隘地形という日本と共通する地形的特性があるともいえます。ここで敢えて単線新幹線を提案する事は現地需要にも合致しているのです。

 日本の新幹線方式が中国高速鉄道方式に対し、大きく遅れているのは現地化の努力でしょう、日本の新幹線方式は海外で建設される場合、基本的に日本企業が技術協力を行い、建設指導から要員教育まで行い現地で運行できる方式を全力で支援する、日本の台湾高速鉄道建設では台湾運用基盤構築支援へ車両メーカーからJRと建設会社まで協同しました。

 しかし、中国高速鉄道では建設をすべて中国人労働者が実施しており、これは中国人労働者以外に現地へ賃金が落ちないという難点が日本では指摘される一方、既に高速鉄道建設に実績を持つ熟練労働者を派遣する事で確実な建設を行うという利点があります、そして運行全般初期数年間は中国が全面的に責任を負う利点は日本ではあまり知られていません。

 ケニアに中国が敷設した初の電鉄路線では中国が最初の四年間を車両整備や保線業務はもちろん、駅業務から列車運転士に車掌まで全てを中国鉄道要因が対応する方式を採りました、ケニア人鉄道要員はこの四年間をOJT方式で研修に参加し、四年後から徐々にケニア人職員に移管を開始し、十年程度を要しながら完全に現地化するという方式を採っている。

 電鉄線をいきなり完成させ、車両と制御システムだけそのまま譲渡されても、要員教育を完了させなければ車両を確実に動かすことはできません。徐々に整備不良や量が出始め、結果的に放置され、つかわれない車両と保線不良や電線設備や変電施設など鉄道システムは末端から徐々に老朽化し、そのまま放置されるようになりかねず、現地化は重要です。

 アフリカ開発に際し、日本企業はアフリカでの営業努力を十分実施していないことで中国に対し後れを取っている、ジェトロ調査に対しアフリカ各国から日本企業の現地進出が完全に中国企業の後塵を拝する形となった厳しい現状が指摘されています。上記ケニアの実例をみても、いきなり電鉄路線を渡されるよりも中国方式の方が、安心であることは確か。

 JR東海の運転士に来期は東海道新幹線の東京名古屋間からアフリカ路線へ出向してもらう、と広域人事異動を行う事は、国鉄末期の広域配置転換、大阪から九州へ、東京から北海道へ、という人事異動が一種の労組交渉での報復人事の代用として用いられた歴史を鑑みますと、東京からアフリカまでの配置転換は、直行航空路線もほぼなく非常に難しい点です。

 駅業務一つとっても京都駅からアフリカ新駅へ、新大阪駅から中央アジアの新駅へ、と広域配置転換を発令された場合にはどうしても戸惑う事でしょう。JR東南アジア、JR西アフリカ、JR東インド、新会社でも建設しなければ、突然の世界規模での広域配置転換を行う事には限度があります。労働力不足もあり、移民を制限する日本では逆現地化も難しい。

 しかも世界の高速鉄道需要は日本の新幹線建設需要よりもはるかに上回る長距離路線を多数必要としていますので、運転士養成一つとっても日本国内で支援を行うには、ダイヤの合間を縫って試運転列車を運行することも難しく、そもそも教育過程そのものが日本語以外を想定していません、国内新幹線での外国人OJT受け入れという選択肢もあり得ません。

 IoT方式による車両部品管理の遠隔化や、制御システム運行支援での日本本土からの遠隔協力、列車運行および運転支援の施策により、現地化を広域配置転換に依拠せず、実現する新しい方式の模索が中国高速鉄道方式への対抗策となり得ます。そしてその意味や意義を、現地雇用への最大限の配慮という表現で現地化を図る事が、一つの解決策となるでしょう。

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1 コメント

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Unknown (北京亭すぶた)
2020-10-07 23:16:01
単線でも土工の施工幅は半分にならないので、コストダウン効果は弱そうな気がします。それより、フルもミニも選択できる新幹線のメリットをもっと活かせないですかね?JR東海がリニアに全力投球で海外展開の気力を失ってるので、JR東日本にもっと頑張ってもらいたいものです。
あと人材育成の面ですが、こういった案件こそ「外国人研修生」が生きるんじゃないでしょうか?本国の鉄道当局が身元保証してる有能な人材が身近に増えれば、我が国の内側からの国際化、しいては国外での日本人の活躍にも繋げられるのでは、と考えます。
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