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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【4】戦域概念の果てる事無き拡大進む時代

2020-01-05 20:20:32 | 北大路機関特別企画
■最大規模の再編が必要だ
 世界を視ればドイツ連邦軍やフランス陸軍とイギリス陸軍は現在陸軍兵力を二個師団に集約しています、緊張緩和の影響もありますが装備体系の変容も影響していましょう。

 戦域の急激な拡大、上記視点背景には近年の各種誘導弾の世界規模での急激な射程増大が挙げられ、結果としての戦域面積の増大を考慮せねば成りません。従来は、とはいっても第二次世界大戦中ですが一個師団の正面範囲はわずか22kmとなっていました、故に戦線が100kmに達する場合には一個軍団を置く必要があった、しかし、時代は変わりました。

 2003年イラク戦争、もう20年近く前の話題であることに率直に驚くのですけれども、その時点で事実上イラクを崩壊に追い込んだのがアメリカ陸軍第3機械化歩兵師団、これを支援する米英2個師団ではありましたが、楔を打ち込んだ師団が旧第24師団という我が国とは太平洋戦争中と戦後の進駐軍として縁のあった師団のたった一つにより実施された。

 一個師団は一国単位での作戦範囲を有するに至った事に驚かされます。これはデータリンクにより一個師団が作戦範囲を広げた背景もありますが、同時に各種装備の射程が冷戦時代には考えられないほどに延伸した現実を突きつけられる構図でしょう。イージスアショアとともにイージス艦のスタンダードSM-6の射程はまさにこれであり、戦域を広げました。

 一昔には弾道ミサイル迎撃用のスタンダードSM-3の射程が1300kmといわれたものを自衛隊が導入する事となった際、遂にこういう時代かと感慨深い思いを巡らせたものですが、自衛隊のスタンドオフ装備導入により1000km前後の射程を有する航空機用誘導弾装備が具現化した事で成る程といえる程の時代と世界規模の軍事技術発展を考えさせられました。

 スタンドオフ兵器の導入は同時に我が国周辺情勢、ロシア軍の艦載巡航ミサイルがカスピ海からシリア領内をねらう想定以上の射程や中国軍における中距離弾道弾の配備数増大など、懸念とともに具現化した一種の鏡面世界といえる。ミサイル射程増大とともに世界では特に欧州を中心にヘリコプターの高性能化が進んでおり、数的にも最適化されています。

 NH-90多用途ヘリコプターやEC-725中型輸送ヘリコプターというような高性能ではありますがかつてのUH-1系統の十倍以上の費用を要する機種が輸送における主力を形成しています。自衛隊の統合運用における深化は、例えばこの種のヘリコプターについても、もちろん現在試験中のUH-2を含め高性能機種以外の機体は用途を再考するべきでしょう。

 UH-2,軽多用途ヘリコプターや救急ヘリコプター等に留め、川崎重工がライセンス生産するAW-101系統のCH-101や三菱重工がライセンス生産するUH-60JA系統に収斂してゆく必要はないか、と。中距離弾道弾の脅威とともに前述の地対空ミサイルの航続距離延伸は着上陸阻止を念頭とした伝統的な専守防衛を想定した場合でも戦域拡大の重みは大きいもの。

 着上陸を仮定しましょう、海岸堡に長射程地対空ミサイルが揚陸された時点でUH-1系統の戦闘行動半径よりも内陸部までミサイル脅威下に収められる懸念が払拭できないという。CH-101を方面航空隊へ配備すべし、と安易に表現するのは、この部分は特に強調したいのですが、必ずしもありません、安易に高性能機を導入しますと確実に防衛費が不足します。

 結局十機十五機揃えるだけでほかの装備体系を圧迫し均衡を破綻させたまま調達終了となることは目に見えています。戦域の拡大とともに方面隊ごとに方面航空隊を置く方式は方面隊の枠外までミサイル射程が延びる時代には合理性が薄くなり、航空集団を中央に置き、平時の災害派遣等に備える即応航空機については分遣隊を進出させる方式に転換すべきだ。

 より率直に言うならばフォースユーザーとフォースプロバイダーに区分するべきではないか、と。防衛費を増やせという反論には、それならばもっと我々が働いて稼ぎ納税額を大きくしなければ無理だ、と対案を出します。労働時間を五割増やして過労死しなければ、それも可能でしょう。1:1で置き換えようにも装備は高性能が求められ高価格化している。

 フォースユーザーとフォースプロバイダーの運用分離は海上自衛隊が既に実施しており、この方式が確実に成果を示したのは2011年東日本大震災という明白な実戦の機会でした。陸上総隊が創設されたのですから、方面隊が有する師団や旅団を包括して総隊直轄部隊として移管する、こうした施策はあるはずです。無論、地域司令部として方面隊は維持する。

 方面隊は地域司令部として需要です、特に文民保護の自治体協定や地誌研究等は機動運用部隊には難しい。駐屯地業務隊や倉庫兵站と教育訓練や曹士人事は地域司令部として必要ですし、即応部隊として警備隊を置く必要もある。しかし、師団旅団規模の部隊は方面隊が掌握してしまいますと、隣接方面隊協力制度はあるにしても、集約が難しくなります。

 陸上総隊が在るのですから全ての部隊を集約すればよい、現状のまま地域配備師団や旅団を残す事は、結局のところ運用に時間を要する中間結節点を増やしているにすぎません。師団旅団についても整理する必要があり、これは師団の規模が水陸機動団や即応機動連隊創設で吸い取られ続け、実質師団でも諸外国の旅団以下という事例が出つつあるためです。

 師団を減らす、反論はあるでしょうが、現実を視るべきでしょう。一方、フォースユーザーとフォースプロバイダーへの区分化により、方面隊よりも巨大な師団、というものが生じた場合でも指揮階梯を損なうものではありません、必要な事態となれば方面総監を頂点とする統合任務部隊司令官隷下に全国の師団を置く方式への転換の意味とはこういうこと。

 師団は減らす、これはもう一つ、将官ポストが不足するためです。将官ポストは余っているように思われていますが、調整会議に明け暮れた東日本大震災に際して実際には不足し全国の方面隊から指揮官を調整要員としてかき集めています、現状は多数ある師団と旅団がそのポストとして文字通り、有事への余裕、というものを自然に醸成しているのですが。

 航空集団が必要だ、上記視点は、将官ポストが足りなくなる、という視点の背景です。航空集団司令官には将官が必要です、第1ヘリコプター団長とは比較にならない規模なのですから。統合運用の深化は自衛隊の各種学校を包括しなければ、例えば現在の即応機動連隊を一つとっても諸職種混成部隊の常設には対処できません、教育集団というものが要る。

 教育集団司令官には実質方面総監と同等のポストが必要です、訓練を包括化するとともに調整と実地運用研究を行うのですから富士学校長とは比較になりません。陸上支援集団として輸送調整を行い、国内の倉庫兵站や協力民間企業との連携を担う中央司令部が必要ですし、病院などを包括し衛生部隊の統括運用を行う衛生集団というものも必要でしょう。

 いわば、自衛隊が有事の際に一体となって戦う際に必要な連携の基盤を構築するには中央に集団司令部を置かねば成り立たず、そのためには既存の師団を整理してでも将官ポストを再編し、充てなければならない、ということ。指揮官というものは一朝一夕に養成できません、そして練成した上級指揮官の能力はそのまま防衛力の多寡にも直結しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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