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令和二年-新年防衛論集:日本の防衛世界の平和【3】自由と開放への戦争は待ってくれるのか

2020-01-04 20:00:48 | 北大路機関特別企画
■不寛容と閉塞の地域公序拡散
 現代の国際公序は自由と開放を基調としたものです、しかし不寛容と閉塞を基調とする国が存在し、その拡散を進めている状況があるのですね。

 戦争は待ってくれるのか。戦争という概念は国家間の直接的な軍事力を投射する武力紛争という基本的な概念から、国家間の闘争を示す全般的な、冷戦を含め、広い概念のものへ拡大して考えますと、北東アジア地域において大きなレジームチェンジが生じつつあり、このレジームチェンジは北東アジアに端を発し西太平洋全体に伸びつつある現状がある。

 南西諸島での緊張が顕在化したのは2010年代に入ってのもので、元々南西諸島における対立の火種は1970年代後半に海底資源の可能性が確認された時点から始まってはいるのですが、その頃には中国に充分な海軍力が無かった、という状況があります。海軍力の問題は同時に台湾海峡を挟む問題に対しても沖縄の在沖米軍が武力紛争を抑止し得た事でもある。

 武力紛争の可能性、実は冷静に北東アジア情勢と共に東南アジア情勢まで俯瞰しますと、南沙諸島や西沙諸島を巡っては小型艦艇に限定されますが海軍艦艇同士の衝突は不定期的に発生しています。また朝鮮半島を俯瞰しますと離島へ砲撃や国境地域での非正規戦等は不定期的に発生しており、必ずしも日本国土は万全安全、との状況にはなかったのですが。

 懸念すべき命題は、中国の海軍力増強、そして空軍の新世代戦闘機増強により、中国周辺部に限られてきました武力紛争の火種が徐々にその周辺部の概念が拡張し、日本本土が入るように転換した点でしょうか。特に沖縄県や九州南部へ接近する中国航空機への航空自衛隊による対領空侵犯措置が、冷戦時代にもなかった水準まで突沸した事は記憶に新しい。

 京阪神地区沖へのミサイル爆撃機の展開、中国の軍事圧力は沖縄の話であったのは2000年代までで2010年代に入りますとその圧力が九州まで延びてきましたが、驚いたのはミサイル爆撃機の編隊が紀伊半島沖まで接近し、その圧力は遂に京阪神地区まで、地元までやってきた、という事でしょうか。グローバルな話題からローカルな話題となった訳ですね。

 レジームチェンジ、これは急激に経済力を成長させた隣国大陸中国が、周辺地域に自由と開放の国際公序を不寛容と閉塞の国際公序に切り替えようとして消費させている実情があります。自由と開放の国際公序は一種欧州的な概念でありアメリカ的な概念、深層部分では異なるのですが求めるものが欧州とアメリカが一致し、グローバルなものとなりました。

 グローバルな国際公序は、しかし第二次世界大戦に不寛容と閉塞という概念を日本とドイツを中心とする枢軸諸国が、日本は海洋安全保障秩序へ、ドイツと欧州の枢軸諸国は自己実現への人権秩序で、国際公序に挑戦し敗北しました。その後は自由と開放を目指す国際公序は、その手法の視点から社会主義的なものと自由主義的なものに置き換わっています。

 不寛容と閉塞、この懸念は我が国周辺の大陸中国と北朝鮮が醸成する概念であり、共に一党独裁であり移動の自由を含めて領域を閉塞化します。問題は前者について、領域の閉塞化と共にこの概念を公海上に延伸し、公海上に人工島を造成してでも海洋への閉塞主義を醸成し得る点です。そして海軍力と共に建設力も大きく閉塞の海は急速に広がりつつある。

 東西冷戦を比較しますと、アメリカとソ連の超大国同士は互いを牽制しつつ、その両国が最大規模の武力衝突を行った場合にはどういった結果をもたらすかは両国の指導者が共に認識しており、国際政治学者ジョンギャディスが表現した“ロングピース”というべき不安定な平和状態が自然醸成されていましたが中国とアメリカの関係にはこれが及びません。

 ロングピース、この不安定な平和さえ実現しにくい現状は中国とアメリカの絶望的なまでの核戦力の格差があり、国際レジームへのチャレンジャーとして中国が位置している為、摩擦は中国が均衡を目指すまで継続的に推移するでしょう。その過程に置いて摩擦が局地的に火を起す可能性がある、問題は太平洋を挟む米中と異なり、日本は中国に近いという。

 不寛容と閉塞は、近年、自由主義の一端を担う要諦の一つ、自由主義経済を通じて経済圧力という形で不安定を展開させる現状があります。一つの形態は膨大な中国による対外借款を通じての債務不履行国への政治介入、一つの形態は一帯一路政策と共に内政への圧力、更なる経済支援を提示し実質的に忖度を強いるという構図が不寛容を広げてゆきます。

 平和的な概念でありつつ、平和の定義が不明確であるがゆえに、自国勢力圏が拡大する事が平和の要諦である、とする中国の施策は、結果的に衝突を醸成しかねません。不寛容と閉塞、この難しさは、我が国を始め欧州諸国やアメリカが混迷期の中国に競うように支援の輪を差し伸べて経済成長を促したのは、経済成長が次の変化を促すと期待した為です。

 自由主義、とまでは直結せずとも人権や自己実現への権利を国が国家の成長への要諦へ認める程度に、経済成長が余裕を持たせるのではないか、という期待が在った為ですが、残念ながら不寛容と閉塞の基本に変化の兆しは見えません。更には急激に進化するIT情報通信技術やAI人工知能技術を応用し、監視と管理について、その能力を強化している様にも。

 ウイグル人権問題や強制収容所の問題はAFPやロイターにより繰り返し報道されていますが、ロイターでは中国市場に関係するスポンサーの圧力が存在したことで結果的に中国に関する人権報道が、同時並行して進展していました香港民主化運動の報道を自粛するという構図で自由主義の根幹へ報道の自由へ報道しない自由を求める圧力が醸成されました。

 不寛容と閉塞は要するに軍事侵略を経ずしても、国境を越えて拡大し得る、という懸念を示すものとなったのですね。ただ、現時点では経済力が基本であり、軍事力による不寛容と閉塞の輸出というべき状況が為される段階には在りません、自陣営にはいれと軍事圧力を加えるには戦略展開能力が基本的に不足していたのですね。そう、不足していた、と。

 山東型航空母艦一番艦竣工、結局経済力による圧力に限定される段階が最終段階なのか、と考えますと、2019年12月に竣工した新しい航空母艦の一番艦、続く航空母艦の量産が、中国第一主義を標榜するように自陣営の拡大を試みる動向を高めるのではないか、軍事力による砲艦外交を展開させる段階に進むのではないか、という懸念が生じる訳です。

 日本国土は難攻不落、こう考えて日本本土が戦場となるまでは時間があると開き直る事は、実のところ可能です。しかし、不寛容と閉塞はグローバル企業を通じて我々の生活に影響を及ぼす可能性は高いですし、また気付けば不寛容と閉塞を受け入れて法制化する諸国が我が国の自由と開放という概念そのものを拒否する諸国となって包囲する可能性もある。

 安全保障による関与、日本の選択肢は、しかし現段階ではまだ数多い。軍事力による砲艦外交が南へ伸びた際に、近傍に自由と開放を標榜する諸国の一員として、これは同盟国アメリカを含め、ポテンシャルを発揮出来るならば、建前と本音、国際法を駆使し、善隣条約ではなく所謂良き隣人としての関係を維持できるかもしれません。戦争は防ぎ得ます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (人民の目)
2020-01-05 13:02:34
ステレオタイプな中国脅威論は止めて頂きたい。
あなたの意見は、公平性や客観性を欠いた全く独善的な意見でしかない。日本側から見た日本に都合の良い中国観であると指摘しなければならない。

中国が国力を高め、相応の地位を国際社会で占める事を妨害して何の得が日本にあると言うのか?日中関係をゼロサムゲームで見るような考え方は帝国主義的、前時代的である。日本の保守主義者の思想的背景から治療する必要があるだろう。

当たり前の話であるが、中国が中国の近海に自国防衛の施設を建てたり、日米の軍事行動を監視するのは国際法が認めた権利である。
年間どれほどの自衛隊機や日本軍艦が中国に敵対的行動を取っているか。この事実をわざわざ中国が日本に抗議しているだろうか?日本側のヒステリックな振る舞いとは対照的である。

事実に基づいた冷静な議論を待ちたい。
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