北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【榛名備防録】ゼロ戦,零式艦上戦闘機後継機開発遅延させた”改マル五計画”空母緊急量産計画

2021-09-11 14:17:06 | 防衛・安全保障
■朝令暮改が招いた開発遅延
 臨機応変に状況に対応させる、一見柔軟な思考に見えますが遠回りに見えて朝令暮改は全般の遅延を招く事がある、これは旧軍の教訓ですが今日の日本社会にも繋がる教訓です。

 ゼロ戦こと零式艦上戦闘機、この後継機開発が遅延した背景について、マル急計画とこれに続く改マル五計画という日本海軍の空母量産計画が影響した、こうした視点が理解されていないのかな、こう考える次第です。改マル五計画とは1942年のミッドウェー海戦敗北をうけ一挙に失った空母四隻を補填するべく空母を緊急量産する戦時計画でした。

 航空母艦を開戦半年で一挙に失うとともにアメリカでの空母量産が本格化していて、もともとのカールビンソン法案としてすすめられていた艦隊増強計画に対抗するマル四計画とマル五計画なのですが、空母を緊急に増強する必要が生じたために、朝令暮改ではありませんが、急ぎすぎた空母増強計画をねじ込んだことで、これが変な影響に至ったといえる。

 マル四計画としてして、もともと日本海軍は大鳳型航空母艦の量産を構想しG14型という、一回り大型化した航空母艦3隻の増強を計画していました。一回り大型といいますが、排水量は4万5000tから5万t規模の大型艦となる計画で、実際のところこの大型艦は将来の空母艦載機大型化を念頭としていたものでした。空母艦載機は当然、大型しています。

 赤城や加賀、もともと三段甲板型船体として設計されていました日本海軍の航空母艦が飛行甲板を単一としたのも、艦載機が大型化し飛行甲板を上下に分けた場合でも甲板の長さが充分とれなければ運用できないという実状があったためでして、実際九五式艦上戦闘機より零戦の方が遙かに大きく改大鳳型というべきG14型航空母艦はこれを見越したもの。

 飛龍型航空母艦、ミッドウェー海戦において保有空母4隻を一度に失った日本海軍はG14型航空母艦のような大型艦の建造は時間がかかりすぎるとして断念し基準排水量17300tの中型空母である飛龍の設計を応用した空母ならば短期間で建造できる、こうして改マル五計画に切り替えます。飛龍は優れた設計ですが、決して船体は大型空母ではありません。

 雲龍型航空母艦、この飛龍型として緊急建造されたものは雲龍、天城、葛城、笠置、阿蘇、生駒、こう建造されました。雲龍以外は天城と葛城が竣工、笠置と阿蘇及び生駒は六割から八割建造したところで竣工にいたらず終戦となっていますが、新しく建造される航空母艦は中型空母となっているのですね、零戦後継機はこの中型空母に搭載せねばならない。

 烈風という後継機の開発が進められていまして、エンジン開発が難航したことで量産前に敗戦となってしまいましたが、そもそも零戦の後継機はエンジンを1000馬力級から2000馬力級に強化する基本構想でどうしても大型化は避けられません。そしてG14型航空母艦を見越して大型機を開発していたものが、肝心の空母が中型に転換する急な仕様変更が。

 全体を考えない仕様変更、調整不足と全体計画への知識共有の不十分、これは令和時代の日本社会にも当てはまることでして不思議に思えるのですが、結局新型機の大きさ、空母艦載機を開発するのですから空母に搭載できなければ単なる局地戦闘機です、こうして後継機開発が遅れた背景があるのですね。実際仕様変更の設計への影響は小さくありません。

 一式戦闘機隼、二式戦闘機鍾馗、三式戦闘機飛燕、四式疾風、五式戦、陸軍航空隊の戦闘機を見ますと順調に開発できているように見えます、隼も三型などはエンジンのエタノール噴射装置により制空戦能力が改善されていますし、疾風は大東亜決戦機として4000機が量産された。大きな空母の方針変更、これが零戦の開発を遅延させた一因と云い得ます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 令和三年度九月期 陸海空自... | トップ | 9.11アメリカ同時多発テロ20... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

防衛・安全保障」カテゴリの最新記事