先日、平成十八年度防衛予算概算要求に関しての記事を掲載した。
そのなかにおいて陸上自衛隊の次期戦闘ヘリコプターAH-64Dの予算要求が一機であることを記載したが、今回はこれに関連した記事を掲載したい。
現有のAH-1Sは約90機が配備され、各方面隊に一個対戦車ヘリコプター隊、そして教育用に0.5個ヘリ隊が編成されている。これは、上空からの対戦車攻撃に非常に強力な装備である事が認知され、特に想定されたソ連軍機甲部隊撃破n切り札として導入されたものである。

“空飛ぶ車引きから空飛ぶ騎士へ”1985年9月、帯広に第一対戦車ヘリ隊が編成された際の賛辞として言われたものだ。OH-6に多銃身機銃を搭載することを計画したが、性能不充分とされ、AH-1S導入に至った訳だ。
導入の際の技術研究として、第二戦車大隊(当時)の戦車約50両の攻勢に対して、普通科一個中隊が陣地防衛にあたり、AH-1S二機が支援についたそうだが、機関砲・TOWを駆使して瞬く間に戦車部隊を壊滅させ、ヘリは二機とも撃墜されるも、陣地に辿りついたのは損耗80%以上、一個中隊を切っていたという。
こうした経緯で導入されたAH-1Sであるが、運用研究の為の要求は陸幕の4機と、内局の2機案、大蔵省の1機案でおお揉めに揉め、結果、一機案となった。
こうして高価なAH-1Sであったが、各方面隊に一応の機数が揃った事は前述の通りだ。

他方で、問題となるのは後継機の問題である。
現在配備中であるのは、AH-64Dで、イラク戦争では、天王山となったカルバラ地峡攻防戦において戦略予備たるイラク軍の精鋭、共和国防衛隊戦車師団をMLRSとともに撃破し、名前を上げた。
1991年の湾岸戦争で活躍した従来のAH-64Aとの相違点を挙げれば、ローター上部に搭載されたロングボウレーダーで、公表されている情報を信じるならば、木々の梢の振動も感知できる精度という。この最も重要な点は、光学装置による情報よりも、デジタルデータとして目標を探知するロングボウレーダーであれば、情報交換が迅速且つ容易で、RMA時代へ陸上自衛隊を一気に推し進めるという意味で非常に大きな意義があるわけで、同時に提案されていたAH-1Zよりもこの点で完全に先進的であった。

問題は価格で、英軍のボーイング社からの直輸入価格も1999年時点で57億円、日本の調達価格では72億円で、18年度予算では支援機材含め価格は103億円(!)に達していた。
当然、これではAH-1Sと1:1で交換する事は叶わない。結果、AH-1Sは16機で一個飛行隊を構成していたが、森野軍事研究所の『次世代の陸上自衛隊』によれば、AH-64Dは12機で一個飛行隊を構成するという。だが、これでも5.5個飛行隊を編成するには66機が必要で、年間4~5機の調達が必要となろう。
AH-1Sに近代化改修を施し構造寿命を延長させると言う事も考えられるが、どうしても限界がある。結果的にはAH-64D調達ということになろう。若しくは、データリンク装置を搭載したAH-64Aを導入するという事も視野にいれられようが、やはり高価な事には変わりない。
一方で、AH-64Dの調達は、海上自衛隊のP-X配備開始、そして航空自衛隊のF-X調達開始時期と必然的に重なる為、また次期戦車とも重なってしまう。場合によっては、新規調達による対戦車ヘリ隊維持は困難となる公算が高いのである。
しかしながら、方面隊1に対して対戦車ヘリ隊1を維持しなければ、特に緊急展開能力の大きい戦闘ヘリの不在はヘリボーン作戦を決定的に左右し、脅威地域にヘリボーンを行う事は著しく困難になる為、作戦運用に大きく響く。

ここで、年間現実的に調達可能な数量を考えたい。
AH-1Sは富士重工でライセンス生産されたが、最終調達価格は、年間調達数が一機であった為、48億と量産効果を最低限に下げた場合価格が高騰するとこを端的に示す結果を生んでいる。
従って、年間調達数は2~3機、中期防あたり12機程度が限界となろう。すると、66機の定数が満たせる頃には初号機の用途廃止が迫る事になるし、何よりもAH-1Sの用途廃止度合に間に合わない結果となろう。
では、部隊数を維持しつつ現実的に装備化を進めるにはどうすればよいのか。
考えられるのは、航空自衛隊のB-767導入計画のように中古のAH-64A乃至AH-64Dを探す方式である。米陸軍であれば中古の機体も考えられるし、C-130Hの事例もある為、検討に値する案であろう。
代案としては、リース方式である。確かオランダ空軍が第11空中機動旅団支援用のAH-64Dを導入する際、米陸軍からリースという方式で導入し、後に購入という方式を用いている。これは海軍のノックス級やペリー級フリゲイトの外国への貸与でもよく用いられる方式である。米空軍の次期空中給油機も、民間会社からリースした機体に所要の装備を取り付け運用するという方式を用いる為、これも検討に値するであろう。

中古機を導入する案に関しては、耐用年数に限界があり、用途廃止までの期間が短く、またリース案は、場合によっては(F-104のような例外を除けば)返還時に武器輸出と解釈される可能性があるが、新規調達と比較考量すれば現実的な案ではあるといえる。
無論、国内の整備機能維持の観点から、ライセンス生産を前述のように富士重工において年間2~3機しつつ、2~3機のリースを行うという方式が現実的だ。
財務省あたりでは対戦車ヘリ隊の削減を考慮しているが、方面隊削減をも視野に入れる一大改革を行う長期ビジョン、防衛戦略に基づいた提案であるとは考えにくい。
中古機体は旧式化したAH-64Aがオランダから15機ほど市場に出ており、これからも出るだろう。また、米陸軍、特に州兵の機体は中古が期待できる。また、同盟国であり、アメリカに対してリースの要請を行えば、高い確率で実現するといえる。
例えば第三次大戦のような中古機体が大規模紛争勃発により払底しており、米軍からのリースも作戦上余剰の機体が皆無というならば、対戦車ヘリ隊削減も止む無しといえるが、そうした努力もなく声高に、若しくは単純に部隊削減を叫ぶのは、どうだろうか。
HARUNA