物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

ドイツ語の特徴

2010-03-05 17:21:52 | 外国語

ドイツ語の特徴は「枠構造」と「冠飾句」であるといわれる。

私が英語からドイツ語に入って戸惑ったのは実は冠飾句ではなくて、枠構造の方であった。

ドイツ語を学び始めてから数年間は、ドイツ語を読めるとか、わかる人はどんなに頭のいい人なんだろうと思っていた。それくらいドイツ語の語順にとまどっていたのだ。

これはドイツ語の文のつくり方は英語と同じだと思っていたら、私には全然わからない言葉のならべ方をしていたからである。完全なるカオスであった。

50年以上前に私が大学で学んだドイツ語の文法書は文の構造にはまったく触れず、ただひたすら冠詞、名詞、動詞の変化を教えるのみであった。こんなに無味乾燥で、眠たいものはまた他になかった。

大学3年になったときにそれでも大学院へ行こうかと思い出した。そのころは今と違って大学院の入学試験に第二外国語が課されていた。

それでしかたなく、ラジオのドイツ語のテクストを買って、少しドイツ語を勉強しようと思った。その頃にラジオの講座を担当されていたのは東京外国語大学の藤田五郎先生であり、それまでのラジオの講座の講師として有名だった関口存男先生が心臓発作か何かで急死した後を受けてだった。

その後、E大学に勤めるようになって、東京外国語大学を卒業した、ドイツ語の先生から聞いたところでは藤田先生は大学での授業をドイツ語でなさっていたという話だった。ラジオ講座の方はそういうこともなくわかりやすく、丁寧であった。

そのころ聞いたことでは分離動詞のことを説明するのに、万年筆のたとえをされた。これは使うときにはキャップをはずして使うが、分離動詞はそれと同じようだと言われていた。

ラジオ講座でやっとドイツ語の文には枠構造(付記参照)という重要な特徴があることを知った。この枠構造は現在完了の文とか助動詞構文に特によく使われる。だが大学のドイツ語の講義でこのことを聞いた覚えがまったくない。

大学の先生はドイツ文の枠構造についても話したのかもわからないが、何回も強調されないとそれは一度や二度聞いたくらいでは身につかないのであろう。

ただ、私のドイツ語がわからなかった経験は他の言語を学ぶときに役に立ったと思う。それは英語風の語順が唯一ではないことを身にしみて知ったから。

とはいうものの、たくさんの外国語を知っているわけではない。少し長くやっているのはドイツ語とフランス語くらいで、あとは何十年も昔にロシア語の講習会に半年ほど出たとか、同じようにイタリア語の講習会に半年ほど出たことがあるくらいである。いずれもものにはまったくならなかった。

2年後輩のO君はその外国語としてロシア語をかなり勉強して辞書があればなんとか読めるくらいになったと聞いたが、その後どうしたかは知らない。

彼は生物物理に関心があって、長く大学の医学部の研究所かなにかにいて、年中大腸菌を相手に顕微鏡を覗いていると聞いたが、定年後はどこかで物理を教えている。

(2012.2.21付記) ドイツ語の枠構造とは?

   Ich (kann) Deutsch (sprechen). (イッヒ カン ドイチュ シュプレッヘン:私はドイツ語を話すことができる)(注)

という例文から典型的にわかるようにkannという助動詞とsprechenという本動詞が離れており、人称に応じて語尾変化する定動詞は文章の2番目の位置にあり、本動詞は文末に来る。そしてこの二つで文の枠構造をつくっているということを指す。

このごろは文の不定詞句から文章が作られるという観点から、説明が行われている。すなわち、Deutsch sprechen k"onnenという不定詞句からk"onnenが主語の人称に応じて変化してkannとなり、主語ichのつぎの文の2番目の位置に来る。Deutsch sprechen はそのまま文末に残る。

このようにして、Ich kann Deutsch sprechen. という文がつくられるという説明が現在ではされている。もともとDeutsch sprechen k"onnenとsprechenとk"onnenとは不定詞句ではくっついている。

この説明だと分離動詞の前綴りが文末に残ることも同じような考えで説明できる。

同様に現在完了の文で、einen Kuchen gekauft haben(一つお菓子を買った)という完了の不定詞句から現在完了の文 

    Er (hat) gestern einen Kuchen (gekauft). (彼は昨日一つお菓子を買った)

という文の助動詞habenが3人称のerに応じてhatと定動詞となり、文の2番目の位置に来たというわけである。einen Kuchen gekauft はそのまま文末に残っている。

こういう説明は何十年も昔はされていなかったと思うので、ドイツ語の教育の仕方も改善されている。

「冠飾句」の方はドイツ語の会話では出てくることはなく、これはドイツ文を書いたり、読んだりするときに出てくるので、ドイツ語のもう一つの特徴ではあるが、ドイツ語の初心者をそれで惑わすことは少ない。

(注) 上の文でkannとsprechenで枠をつくられていることを強調するためにこの二つの語をかっこでくくって、(kann)と(sprechen)としてある。強調以外にはこのかっこに意味があるわけではない。

Ich (kann) Deutsch (sprechen)は、英語なら I can speak Germanとなる。can speakという風には、ドイツ語ではk"onnenとsprechenとが続かない。