グラフの平行移動は数学的には中学校の数学か高校の数学の初歩であろうか。
それについていつか詳しい数学エッセイを書いたことがある。そのときに愛媛県数学教育協議会で先輩だった故矢野寛(ゆたか)さんが書かれた論文があることを知っていた。
それをいつか読んでみたいと思っていたが、数か月前にそれを読む機会があった。その論文では2次関数のグラフの平行移動が論じられていた。
そしてその末尾のほうにグラフの平行移動は本質的なことではないとあった。そして、力学の落下運動のような定加速度運動が本質なのだからとあった。
確かに、2次関数の話に限るとそういうことになろう。しかし、私はそれを読んで思ったのは三角関数の平行移動であった。
たとえば、cos xはsin xをx軸の負の方向に90度、ラディアンでいうと\pi /2だけ平行移動させたものである。こういう風にグラフの平行移動を2次関数の限らないとすれば、話は変わってくるのではないか(注)。
この三角関数の平行移動をうまく説明できるといわゆる三関数の還元公式を普通の説明とはちがって説明できるのではなかろうか。
私がグラフの平行移動が大切と思った機会は実は波動現象の説明であった。周期的な現象があれば、これはある場合には振動現象であろう。さらに波動現象となれば、これはある空間的なある場所での振動現象が周りの空間とか媒質に伝わっていくことである。
グラフの平行移動がよくわかっていると振動から波動への移り変わりがよく理解できると思う。
高校でも物理の時間に振動から波動ができるプロセスを講義で物理の先生から教わったことを覚えているが、なんだかよくわからなかったことを覚えている。というかもう一つ納得できなかった覚えがある。
それがいつか、これはもう大学の教師になって10年以上経っていたと思うが、「フィジックス」という雑誌がその当時出版されていて、そのある号で「波動の数学的表現」という論文があった。
それを読んでそこにあった数式をフォロウすることでようやく波動についての基本が理解できたと感じたのであった。
波動とグラフの平行移動とは本当は別のことかもしれない。しかし、空間のある一点での振動が空間に伝わっていくのを理解するのに利用できると感じた。
波動は時間と空間に関係する。振動は振動しているその場所を変えないで、その場所での時間的な運動の変化である。また、グラフの平行移動は時刻など関係しない。
だから、ちがうと言えば、波動とグラフの平行移動とはちがうのであるが、そこに理解のアナロジーを感じている。
(注) 三角関数におけるグラフの平行移動の重要性を教えられたのは大学の元同僚であった、Kさんによる。特にKさんがこのことを強調していたとも思われないが、私は彼の思考からこのことを学んだと思う。
グラフの平行移動でcos xとsin xとの平行移動もわかるが、たくさん出てくる還元公式も理解できる。そのときにグラフの平行移動の基本を理解していないと、この還元公式をグラフ的に理解するときの障害になる。
このグラフの平行移動で三角関数の還元公式を説明するエッセイを書くことは以前から計画しているのだが、まだ書いていない。