のわかりやすい記述を東京に行っていたときに、読んだ数学の本で見た。それは岡本和夫『微積分読本』(朝倉書店)の冒頭部にあった。
もちろん、こういう導入のしかたは知っていたが、なかなか簡明であった。それで、そういう導入のしかたの記述を文献上で辿るというエッセイを書いておくことは意味があるのではなかろうかと思い始めた。
一応、私の知っている文献をここにあげておく。
新しい順に時間的にさかのぼる。
もっとも新しいと私が思っているのは私の『電気電子工学科ミニマム』(愛媛大学電気電子工学科、2000)第2版 9章 複素数48-49であろう。これは2001年の第3版の第9章にも再録されている(注1)。
つぎに新しいのは冒頭に与えた岡本和夫『微積分読本』(朝倉書店)1-2であろう。発行年は1997年である。
これより前には遠山啓『数学入門』上(岩波新書、1959)195-196にある。それより古い記述は私の使った高校の学習参考書である、藤森良夫『解析の基礎』続(考え方社、1954)628-629である。これはもっと古くほとんど同じ記述が藤森良夫『初等複素関数論初歩』(考え方社、1941)20-21にすでに載っている。
もっともそれよりも古い記述はE. T. Bell(田中・銀林訳)『数学をつくった人びと』上(東京図書、1997)であるが、これの出版はもっと早い段階でされている。私の持っている版が1997年ということだけでもっとかなり早いはずである。それの原書の E. T. Bell ”Men of Mathematics"(Whitefrias Press, 1937)である。
私はこれより古い日本語の本での記述は知らない。だから、数学史等に関心のある人なら、すでにBellの原著を読んでいただろう(注2)。
このBellの書では複素解析の分岐点の定義が普通の複素解析の本とはちがう定義がある。これは訳書ではE. T. Bell(田中・銀林訳)『数学をつくった人びと』下(東京図書、1997)194にある。
(注1)私のタネ本は遠山啓の『数学入門』上(岩波新書、1959)である。
(注2)年末に高知に小旅行して、立ち寄った帯屋町の書店で数学書を立ち読みしたら、ランスロット・ホグベンの『百万人の数学』(日本評論社)下(新訳)の何ぺ―ジかに虚数単位 i を90度の回転として解釈することが触れてあるのを見かけた。
これ以外にもトビアス・ダンチヒの『数は科学の言葉』(ちくま学芸文庫)にも同じような記述があることを見つけた。
これだけいろいろな本に虚数単位 i のことが書かれてあるのに、もっと90度の回転としての説明が普及していもいいのではないかと思っている。トビアス・ダンチヒの『科学の言葉=数』は昔に岩波書店から訳書が出ていたとは思うが、もっとも私は一度もこの書を読んだことがなかった。
ホグベンの『百万人の数学』上、下は筑摩書房版をもっているが、そのことに気を留めたことがなかった。もっともこの説明が新しい訳で入ったのかどうかはまだ調べてはいない。
(注3)長沼伸一郎さんの『物理数学の直観的方法』(通商産業研究社、1987)の第2版を開いてみたら、第4章にe^{i\pi}=-1の直観的イメージというタイトルがついており、実軸の原点から1のところへの線分の180度回転がe^{i\pi}=-1 であることを書いておられる。したがって、この文献も「虚数の導入のしかた」と題するこのブログの文献に入れておかなくてはならない。他にもたくさんの文献があるが、なかなかすべてをつくすことは難しい。
もっとも「第4章 e^{i\pi}=-1の直観的イメージ」という章がいるほど深遠なことはなにもない。実軸の1の位置にある点(1,0)を原点(0,0)のまわりに\pi=180度反時計まわりに回転させれば、-1が得られるというだけである。これはオイラーの公式で\theta =\piとおいても得られるが、こういうやり方はあまり直観的ではない。
(お断り)落とされた文献の著者がみたら、お怒りになるかもしれないが、別に意図しているわけではないので、ご寛容をお願いしたい。私が気がつけば、順次つけ加えていきたい。またはコメントでご注意をいただくのも歓迎である。