物理学者の戸田盛和氏が昨年の11月に亡くなっていたことを朝日新聞で知った。戸田格子で世界的に有名な方である。
東京教育大に勤めておられたが、教育大の筑波移転に反対だったのかどうかは知らないが、筑波大学には勤務されず、その後千葉大学、横浜国立大学に勤められたと聞く。
朝永振一郎さんを教育大の学長に担ぎ出したり、個人的には研究生活に朝永さんが帰ってほしいと思いながらも、学科や学部を代表して再度学長選挙に出て欲しいと言いに行ったりした。
人間というのは個人的な思いと組織としての意思とが異なる場合もある。戸田さんはおもちゃ博士としても知られていたが、その方面には私自身が関心がないので、よくは知らない。
大学の定年後たくさんの物理のテキストやその他の本を書かれた。しかし、彼の書いた著書「物理学30講シリーズ」(朝倉書店)10巻はどの一冊ももっていない。
新聞には渡辺慎介横浜国立大学名誉教授の言として、「学問の全体を学べ、と若い学徒に訴えたかったのだろう」とあった。これらの本をよく読んだわけでないので、評はできないのだが、どこかいいところがあったのだろうか。どうもそうは思えなかったという感をもっている。
もっともこれはろくろく、このシリーズの著書を読んでいない私の印象だから、まったくあてにはならない。彼の著書「ソリトンと物理学」(サイエンス社)はこの分野の専門家の書として他の人が書けないようなものだし、新物理学シリーズの「振動論」(培風館)も優れた書であると思う。
また、私も戸田さんの著書「ベクトル解析」(岩波)に出ていた立体角について小著「数学散歩」(国土社)で取り扱ったが、戸田さんの記事よりも一歩を突っ込んだ書き方をしたつもりである。
戸田さんは多くのエッセイも書いたようだが、私は彼のエッセイの書は1冊ももっていない。
(2013.1.21付記) 上に「物理学30講シリーズ」(朝倉書店)10巻のことを書いたので、誤解があるといけないから付記をする。
最近の物理学者で物理学のすべての分野をカバーされるようなことをできる物理学者はほとんどいないので、戸田氏のこれらのシリーズ本は快挙であることは間違いがない。それを上に引用した文章で渡辺さんは言われたので、そのことを否定するようにとられたとすると、言葉足らずであった。
ただ、私がこのシリーズの本を個人的には1冊ももっていないが、それらを大学の備品として自分の研究教育用に購入していたことも事実である。だから、まったくこのシリーズを覗いて見たこともないということではない。
ただ、戸田先生の書かれた本としてはちょっと特色が少くないのではないかという、印象をもったということを率直に述べたのが、上の文章となっている。
もっとも詳しく読んではいないので、よく読めば、特色とか他の人があまり書いていないようなことを書いてあるのかもしれない。それだから、これらのシリーズを詳しく読んだ方から、このシリーズ本のここが特色であるとか、これはさすがに戸田先生だと思ったというようなことをコメントに期待した。
もし、このような意見のある方にはどしどしコメントを頂きたい。
彼のエッセイがつまらないというつもりはまったくなくて、私の個人的な経済状況によって購入することができなかっただけであり、かなり多くの彼の書いたエッセイを愛読したと思う。
戸田、渡辺共著の「非線形力学」(共立出版)には、カオスを引き起こす2次式の写像の中に2周期、4周期、・・・が図で示されていたが、山口先生(京都大)の説明を理解するのに自分でも苦しんで、コンピュータで同じような図を描いて納得した直後であったので、とても感心をしたものである。