「素粒子論研究」の最新号の研究会報告にKさんとOさんの講演が載っている。二人とも場の理論的なアプローチを得意とした学者である。
Oさんは坂田先生に自分の研究の話をするときには必ず場の理論的な側面をはずして話していたとのことである。きわめて場の理論家としては肩身の狭かったことであろう。
Oさんはしかし場の理論以外のこともやっているし、その素粒子理論へのU(3)の導入は彼とIさんの大きな業績でもあるから、坂田先生からそれなりに評価はされていただろう。
確かに50年代から60年代の場の理論の勢いはあまりなかったというのは本当だろう。しかし、湯川とか朝永はやはり場の理論を主軸とした研究をやっていたといえるだろうし、また場の理論から離れてはいなかっただろう。特に朝永は1955年以降は論文を発表はしていないが、密かな研究としては場の理論的な研究を目指していたらしい。
今回の研究会ではある程度広島大学付置だった「理論物理学研究所」に焦点があたっているが、広島大学の素粒子論研究室には光はあたっていない。その辺が不満である。
しかし、それはある意味では武谷の業績の軽視でもあるような気がする。朝永、湯川、坂田はもてはやされるが、武谷以下の人たちの寄与はどうも無視される傾向にある。もちろん、武谷の寄与が前の三者ほど華々しくない。学問の世界も「やはり勝てば官軍である」ことは紛れもない事実であろう。