『3Dグラフィックスのための数学入門』(森北出版)というタイトルの本が出た。実際の書籍にお目にかかっているわけではないので、どんな本かわからないが、インターネットでの本の紹介を見た限りでは『CGのための線形代数』(森北出版)を改訂したもののように思われる。
私が『四元数の発見』(海鳴社)を昨年出したときにCGの数学を扱ったものとして、『CGのための線形代数』を参考文献にあげておいたが、これには四元数は扱っていないと書いた。これはその通りであった。
その後、私の本の出版からほぼ一年を経て、『3Dグラフィックスのための数学入門』が出て四元数のこととか、球面線形補間のことを取り扱った書が私の本以外にも出版されたわけである。
すでに、金谷(Kanatani)健一さんの『幾何学と代数系』(森北出版)が四元数だけでなく、広くクリフォード代数その他を取り扱っており、私は四元数に特化して、四元数と回転について詳しく取り扱った。球面線形補間も同様に詳しく取り扱った。
もちろん、球面線形補間の説明はすでに金谷(Kanaya)一朗さんが書いた『3DCGプログラマーのためのクォ―タニオン入門』(工学社)があり、さらにDunn & Parberryの『ゲーム3D数学』(オライリー・ジャパン)もあった。
金谷(Kanaya)さんの本を読んでも球面線形補間についてはよく分からなかったし、それは『ゲーム3D数学』についても同様であった。それでそれらを四苦八苦して読んだわけだが、私はCGの専門家ではないので、その道の専門家であったなら、当然知っているようなことがわからなかったのであろう。
しかし、小著『四元数の発見』で球面線形補間について述べた10章は34ページにわたり、私のわからなかったところを詳しく解説した。多分、日本ではここまで詳しく球面線形補間について述べた書はなかっただろうと思う。
先月の10月に出た郡山彬さんたちの『3Dグラフィックスのための数学入門』が球面線形補間とクォ―タニオンについてどのくらい詳しく取り扱っているのかはインターネットでは十分にはわからない。しかし、多分今までの書に比べれば格段にわかりやすくなっているのであろう。
インターネットによれば、『3Dグラフィックスのための数学入門』の5章がクォ―タニオンと回転の章となっている。球面線形補間についてもどう書いてあるかを書店ででも見てみたい。
(注)午後からジュンク堂に行って、『3Dグラフィックスのための数学入門』がどこにあるかを調べたが、なかなか見つからなかった。もうあきらめて帰ろうかなと思って、コンピュータのCGのところを探したらあった。
立ち読みであるからしかとは言えないが、第5章はあまりすっきりした書き方とは思えなかった。しかし、苦労してわかりやすくしようと努力しているらしいことはわかった。四元数とかその球面線形補間は分かりやすいテーマではないから誰が書いても難しいのはしかたがない。
(2022.6.3付記) 上記『3Dグラフィックスのための数学入門』をようやく購入した。なかなか経済的に本を1冊購入するにも苦労する。これは私がもう現役ではなく、退職したものであるから、収入が少なくなり、定価3,000円を超える本の購入には躊躇してしまうからである。
図書館にもこういう本はあまりおかれていない。大学の図書館には研究用の著書としてはあるのだろうが、なかなか研究用の書籍を借りるのは気が重い。
(2023.10.14付記)『3Dグラフィックスのための数学入門』の球面調和関数の箇所の評はこのブログには書いていないが、あまり感心しない記述である。これは球面線形補間についてこの本を書かれた段階でまだ十分な理解を著者たちがなされていなかったためと思われる(この点については私のブログのどこかですで述べてあるかとも思うが)。
私の本『四元数の発見』のほぼ一年後に発行されたこの本だが、私の本を読む機会がまだなかったためであろう。残念なことである。しかし、それほど球面線形補間の式の導出は難しかったという証かもしれない。
なんでもわかってしまうと「なあんだ」ということになるが、わかるまでは誰でも苦しむのであろう。ともかくこの本の球面線形補間の記述は十分に私たちを納得させることができるものでない。
誤解をまねかないために言うと、この本の他の箇所についてとやかく言っているわけではないことをご理解いただきたい。
(2023.10.14付記) 昨日このブログの付記を書いたところだが、球面線形補間で補足しておいた方がよいと考えた。金谷(Kanaya)さんの書いた本とかインターネットではよくわからなかった球面線形補間の導出について「数学・物理通信」に書いた。『四元数の発見』の第2刷のときに書こうと原稿を書いて送ったのだが、残念ながら採用されていない。これは出版社の事情のためである。
私自身には金谷(Kanaya)さんの球面線形補間の導出についてもう疑点は残っていない。しかし、元の金谷さん記述はあまり正確でないと思っている。正しい導出は「数学・物理通信」をインターネット検索して読んで下さい。