接続法第一式について学んだことがなかったわけではないが、つい最近までこのときの動詞の語尾変化が語幹にeをつけたものが基本になるとは知らなかった。知らなかったというのが言い過ぎならば、認識をしていなかったとでも言えば、ちょっときれいに聞こえるであろう。
ラジオのNHKの「まいにちドイツ語」放送などほぼ45,6年も聞いているのにである。それも接続法の第二式は知っていたが、第一式はあまり会話ではでて来ないので、知らなくてもそれで困ったということはなかった。これは私のドイツ語は主に話すドイツ語であり、書いたり読んだりするドイツ語ではないといことが基本にある。
日本でドイツ語に関係している人の多くはドイツ語を読んだり、書いたりことが多いのかもしれないが、私にとってのドイツ語は基本は話す言葉としてである。だからあまり文章を読んだりしたことはない。昔、大学院の学生のころにドイツ語の本をセミナーで1冊読んだことがあるが、これはスウェーデン人の書いたドイツ語であったので、いわゆる冠飾句(das linke Attribut)などはでて来なくて比較的簡単なドイツ語であった。
同じ物理の本でもパウリの量子力学の本などは冠飾句でいっぱいである。これはドイツ語を母語にしている人のドイツ語だから当然なのであろう。私たちの読んだ本は実はSpringer Verlagという出版社のHandbuch der Physikという叢書のパウリの量子力学の後に付いているQuantenelektrodynamikという部分であった。
もっともドイツ語よりも数式があまりよくわからなかったから、この本を読んでファインマン・グラフの計算ができるようになったわけではない。ファインマン・グラフの計算が見よう見まねでできるようになったのは別の英語の本を読んでからである。
ファインマン・グラフの計算はある種の積分であるが、それを運動量空間で計算するとこれは何次かの積分はデルタ関数で自動的にできるが、それでもまだ積分が残る場合がある。この積分を数値的にするためにガウス数値積分をコンピューターで行ったことがある。
話を元に戻そう。接続法の話であった。この接続法一式はあまり会話で使うことがないから、それを知らなくてもあまり不便に感じることはなかった。
もちろん、ドイツに根を下ろして生活するならば、電気製品を買ってそれを使うときなどにその使用説明書を読まなくてはならないだろう。そういうときには使用説明書は接続法の第一式で書かれているはずである。たとえば、man benutze・・・とか書いてあるかもしれない。
もう半世紀近く前のことになるが、大阪のゲーテ・インスティチュートでドイツ語の能力試験のためのテストを受けたことがある。このときゲーテの先生からお前はそこそこ会話はできるが、もう少し文法を学ばねばならないと言われたことがあった。どこをまだ学ばねばならないのかわからなかったが、これはそのときにでてきた間接話法でer habeとか出てきたら全部まちがいとして、er hatの方を正しいとしたからであったのだと今にして思う。しかし、そのときはそんなことを思いもしなかった。
この能力試験は資格検定のためではなく、ドイツのゲーテでのどのコースに入るのがいいのかを判定する試験であった。そのときは、まったくの初心者のコースA1ではなくA2という初歩のドイツ語を復習強化するコースに入ったが、そこでは残念ながら接続法の第一式などでて来なかったように思う。
そういうことで八十数歳になる現在まで接続法第一式の動詞の変化の基本がわかっていなかった。これはあまりに遅かったとしても、この接続法第一式を知らないで人生をおわるよりはよかったと今では思っている。