最近号の素粒子論研究4月号に2004年度のノーベル賞を受賞したGrossの講演の翻訳が載っている。まだ全部読み終わったわけではないが、興味深い。
Grossはいま漸近的自由という用語で知られているnonabelian gauge 場の量子論をつくった人の一人である。ノーベル賞はあと二人の人と共同受賞だが、彼がその中で一番年上でかつ見通しもしっかりしていたと思われる。
また、もう一人受賞者のPolitzerはS. Colemanの学生で漸近的自由をもつnonabelian gauge 場の量子論をつくれるかというのは、Colemanから出された課題であったらしい。
PolitzerとColemanの関係は電弱理論のくりこみを課題として't Hooftに与えたVeltmanと似たような関係にあるようにも思われる。
もっともVeltmanは't Hooftとノーベル賞を共同受賞しているのである程度報われたが、それでもVeltmanの心理的葛藤は大きくて、彼はその後オランダから離れてアメリカの大学に勤めた。
現在ではまた故国オランダに帰っているようだが、そういう心理的な葛藤の問題は量子力学の行列力学の創設者Bornにもノーベル賞を単独受賞したHeisenbergに対して同様にあったことはよく知られている。
私の関心は武谷三段階論との関係からであるが、Feynmanのparton模型のことには言及してあるが、しごくあっさりとしたものでむしろscalingの成立する場の理論を求めたという観点がGrossの見解には強いように思われる。
武谷三段階論の観点からは実体論的段階であるparton模型が重視されるのであろうが、Grossにはそういう感じが彼の語るところではない。
現象論としてのscalingから直接にではないにしても本質論的段階としての摂動的QCDである漸近的自由な場の量子論がつくられたという感じがしている。もう少し詳しく知りたいところだ。
しかし、実際にはparton模型という段階を経ていることがあっさりとした彼の言説の中にも認められる。