「数学公式ハンドブック」(共立出版、2011)という本を購入した。定価が5、000円なので前から購入したいと考えてはいたが、なかなか購入に踏み切れなかった。
それが先日思い切って購入したのだ。まだよく読んではいないのだが、序文によると使う公式の違った形でも重複を恐れずに別の形として収録をしてあるという。
最近でも2項展開の公式を使おうと公式集などを探したときに、思う形の式が出ていなくて、いくつかの書籍を当たったりした、経験をもっているので痛いほどこの気持ちはわかる。
それで、その宣伝文句に引かれて、この公式集の購入に踏み切った。出版社と編者とか訳者がセールスポイントの売り込みに成功した一つの例となった。
ところが、まったく相反する考えなのだが、私が「電気電子工学科ミニマム」(以後ミニマムと略記)という小冊子を編集したときには、その目的は反公式集を作るという意識であった。これはまったく目的意識が反対で考えてみるとおかしいことであった。
そのときのはしがきの一部をここで再録しておくと
このミニマムは主として基礎的な数学の公式や物理定数等をまとめました。編集の方針はできるだけ少ない量の公式や定理を収録することです。普通の意味の公式集ではなく、いわば‘アンチ’公式集を意図しています。したがって、何から何までというわけには参りません。
私などはなんでも億劫がる方なのか、公式集を手元において参照することもあるけれども、それをしないで知っている知識から紙の上で必要な公式などを導いて計算に使うということも多い。
特に冬に夜中に一人でコタツに入ったままに取りとめもなく計算をしていたりするときに、書棚の公式集をとりだして参照することなど億劫でする気がしない。
そういうときに役立つような最小限の知識をまとめておこう。そして、それを電気電子工学科の学生の勉学の便に供したいなどと、たいそれたことを考えたのであろう。そしてそれを自分の研究費で数百部印刷して数年にわたって一年生とか二年生の学生に無料で配った。
もっとも学部の一年生とか二年生からは余りいい評判を聞いたことがない。
それどころか、私が書いた量子力学講義ノートは有料で売っていたので、こちらと混同して高い値段で買わせたりしてと悪評までもらった。だが、事実はこちらの電気電子工学科ミニマムは無料で配布したのであり、有料で売ったことはない。
一方で配布の対象とならなかった、卒業研究をしている4年生や大学院生の評判は上々で、密かにこのミニマムをほしいという学生が多数出てきたのである。
結局、私のつくったミニマムは1年生や2年生にはそれがまったく価値がわからず、評価されなかったが、かなり高度な研究に入っている高学年の学生には結構評判がよかったという結果であった。
学科の中には最近は数学の先生も居られるので、そういう先生方は自分の教えておられる講義を学生があまり熱心に聞いてくれないのではないかという恐れもあったのだろうか、こういう反公式集まがいのミニマムには冷淡ないしは批判的な方も居られたのではないかと思う。
それぞれの立場が変れば、それぞれ観点や気持ちが異なるのはだから、しかたがなかった。
それに対する私の言い訳は学生もいつまでも学生であるわけではなく、いつかは学生でなくなる。学生は技術者や教師になったりする。そのときにはこのミニマムは役立つのではないか。教育を学校での教育に限る必要はない。むしろ人生の大部分は学生ではないのである。
このミニマムはインターネットからアクセスできるので、関心のある方は「電気電子工学科ミニマム」で検索をしてほしい。いまなら、書き換えたいところもあるが、それを改訂する機会と時間はいまのところないのでこのままの形でしばらくご辛抱をお願いしたい。
(2016.7.8付記) このブログを書いていたときはまだインターネット上で「電気電子工学科ミニマム」を私のホームぺージ上で見ることができたのだが、現在はそのホームページがなくなってしまってから数年が経つ。だから私のブログの読者がどこを探してもそれは見つけることができないのは残念である。
再び、自分のホームページを持ちたいとは思っているがいろいろな理由でもつことができない。それにいまこういう数学公式集まがいのものをつくるなら、またちがったものを志向するだろう。なかなか難しい。