がないなどとは思っていない。これは私自身の体験に基づいてもわかる。英語を学んでそのあとにドイツ語を第2外国語として学んだのだが、これはまったくもってわからなかった。
それでいつも言うのだが、「ドイツ語を分かる人はどんな頭のよい人なんだろう」と勝手に思っていた。
そういう時が2年ほど続いた。大学院に行こうかと思い出したのは大学3年のことであったが、そのころは英語以外に第2外国語の試験があった。それでしかたなくNHKのラジオのドイツ語放送を聞き始めた。
そのころは朝の時間帯にしか放送がなかったと思うが、だいたい朝に弱いのに朝起きて聞く羽目になった。そのころはいまよりも教え方がしっかりしていて、ドイツ語の特徴としての文章の枠構造を十分に意識して教えられていた。
それで、「ああドイツ語は英語とは動詞の位置がちがうのだな」とようやくわかった。最近ではNHKのラジオとかテレビの放送でもその点はあまりしっかり教えないのは教え方の退歩ではないかと思っている。
一時は不定詞句の中で動詞が一番最後にあるのが、ドイツ語の特色だが、その動詞の部分が主語の性、数に応じて変化して、これが定動詞して文章の2番目の要素としてくる。そしてその定動詞以外の不定詞句の部分は文末に残ると教えるようになった。しかし、最近はそういうこともあまりあからさまには教えなくなった(注)。
もちろん、きちんと毎回放送を聞いていれば、そういうことはどこかで講師の先生が話をしてはいるのだが、どうもそういう点が私がドイツ語を学び始めたころよりは、おろそかになっている。
もう英語全盛の時代だから、ドイツ語学、文学者が昔みたいに一生懸命に学生にドイツ語を教えることをやってみてもせいがないとでもいうのだろか。
実際に初歩のドイツ語を教えている先生方の率直な考えを知りたい。
(注)今晩友達と映画に行く heute abend mit einem Freund ins Kino gehen という不定詞句がある。このとき、ドイツ語では 行くという動詞が不定詞句の最後に来ている。
それがたとえば、彼女 Sie がと主語がきまれば、
Sie geht heute abend mit einem Freund ins Kino.
彼女は今晩友達と映画に行く
となる。一番最後にあった不定詞のgehenは主語が決まったので、gehtと変化して、文の2番目の要素にくる。定動詞第2位の原則である。
主語以外のものが文頭に出ることもある。
Heute abend geht sie mit einem Freund ins Kino.
となっても定動詞のgehtは文章の第2位の位置に来ている。語としてはHeute abendの次だから第3番目の位置であるが、意味上heute abendは一つの塊として文の要素としては一つと数えるので、定動詞の第2位の原則は守られている。
Mit einem Freund geht sie heute abend ins Kino.
もありである。このときもMit einem Freundは文の要素としては一塊である。
(注)ドイツ語の特徴として、二つ挙げられる。一つはこの本文で述べた文章の枠構造(der Rahmenbau)である。もう一つは冠飾句(das Linkattribute)である。
こちらはあまり初歩の段階では出てこないし、書き言葉で主に出てくるので、こちらも大きな問題ではあるが、あまりドイツ語を学ぶときの直接的な障害とはならないであろう。
もちろん、どういう格変化語尾がつくのかの原理は知っていることは前提とされるではあろうが、実際にドイツ語を話すときにはなかなか正しくは話せないのが、現状である。慣れるしか方法はない。
(注)上で書いた用語のLinkattributeは『独和辞典』(郁文堂、1990)にも載っていない。Rahmenbauのほうはもちろん載っているが。