1月28日の朝日新聞に「天才からの贈り物」という記事があった。これは1922年にアインシュタインが日本にやってきたとき、宿泊した帝国ホテルの彼の部屋のベルボーイにチップ代わりに渡したメモが多額で競売で売れたという話である。
ここでお伝えしたいことはその話の内容ではない。ではなくて、その記事についていたアインシュタインのメモの文章についてである。新聞記事ではアインシュタインの写真の右横にそのメモの写真があった。ところがこの写真が小さくて、なかなか文字が読みとれない。「ルーペはあるかな」と妻に聞いたら、「あそこにあるよ」とありかを教えてくれた。それでその文章を読み取ろうとしたのだが、なかなかわからなかった。
その日本語の訳は新聞に出ていたので、ようやく判断して読みとったのが次のような文章である。
Stilles bescheidenes Leben gibt mehr Gl"uck als erfolgreiches Streben verbunden mit best"andiger Unruhe. Albert Einstein
(シュティレス ベシャイデネス レーベン ギープト メア グリュック アルス エアフォルクライフェス シュトレーベン フェアブンデン ミット べシュテンディガー ウンルーへ)
カナで表記した発音はドイツ語を読めない人のための単なる手がかりだから、少しおかしいのは我慢をして頂きたい。
この訳は新聞に出ていたのでそれをそのままここに書いておく。
「静かで質素な生活は、絶え間ない不安に駆られながら成功を追い求めるより、多くの喜びをもたらす」。
いかにもアインシュタインらしい警句とも思える文章である。
「質素な」をbescheidenという形容詞を使っているとか、「不安」をUnruheとか言っているところとかがなかなか読みとるのが難しかった。今週のドイツ語のクラスでこの文章について話題にしてみたい。私はbescheidenは「控えめな」という意味で覚えていた。「質素な」という訳語からはschlichtとかいうような形容詞を予想したのだが、違ったようだ。
ちょっと自信がないのは形容詞とか動詞の語尾変化が正しくないかもしれない。これは私のドイツ語力の限界である。
(注)erfolgreiche Streb をerfolgreiches Strebと書いていたが、いま辞書を引いたら、Strebは女性名詞だったので、形容詞語尾のsを落とした。としていたが、もとにerfolgreiches Strebenに戻すことにした。これはドイツ人R氏の指摘による。
私が一時的にerfolgreiche Strebとしたのは、独和辞典でStrebが女性名詞だとみたからであったが、実は Streb は「支柱」とか「はすかい」とかと訳語であるので、「努力」とかいう意味はない。
独和辞書を引くとstrebenという動詞があるが、これが「努力する」という意味を持っている。それを名詞化したものが Streben である。動詞を名詞化するとドイツ語では、すべて中性名詞となるということを知っていれば、R 氏の指摘がわかる。なんだか面倒な説明だが、こういう説明を R 氏から聞いたわけではない。ここらあたりは私の判断である。
さらに、mit best"andigen Unruheを mit best"andiger Unruheと形容詞語尾を修正した。Unruheは女性名詞だからである。ここら辺はなかなか難しい。
bescheidenという語の代わりに私の思いついた「質素な」というドイツ語はschlichtであった。この語のことに触れたら R 氏は「schlichtにはちょっとネガティブなニュアンスがあるかもしれないね」と言われた。