角運動量とは、量子力学ではスピンの概念も含むが、重要な事項である。もっともそれはなかなかわかりにくい。量子力学を本当に学んだかどうかは、角運動量のことがよくわかっているかどうかで決まると言っても過言ではない。
ヒッポファミリークラブの『量子力学の冒険』は多くの人が書いた量子力学のやさしい書で、読むに値する書であるが、残念ながらこの角運動量については触れられていない。
これは朝永の『量子力学』I, II(みすず書房)がこの角運動量について触れていないためであろう。朝永さんの著書としては別に遺著として『角運動量とスピン』(みすず書房)があり、朝永の量子力学を読破したと胸を張れるのは、この最後の書の角運動量とスピンの章を読んでからであろう(注1)。
もっとも私にしても何十年もの間、量子力学の講義をしてきたが、軌道角運動量を除いて、スピンのことまで含めた本格的な角運動量についてはあまり触れなかった。
ある年には、簡単なスピンの合成の問題を試験に出したこともあったが、これは私がようやく大学院のD1くらいになってわかったことであるから、とうぜん学生のできはわるくほとんど全滅であった。それにこりて、その後は角運動量については軌道角運動量については教えるが、スピンまでは教えないことにした。
もっともこれが理学部の物理学科での講義ならば、スピンとか角運動量について、教えないわけにはいかないだろう。これは学生がわかろうとわかるまいとである。というのはいつかはスピンとか角運動量についてわかることが物理の学生にとって絶対に必要だからである(注2)。
こんなこと書いたのは、実はいま角運動量について、いまこのことを小川修三「量子力学講義ノート」で編集しているから。なかなか書いてあることが理解できず、昨日いろいろな本を引っ張り出しては理解に努めたところであった。
(注1)朝永の『量子力学』I, IIの英訳版(North Holland)には角運動量の章が入っている。英語で朝永の量子力学を読まれた方はだから胸を張って、朝永の量子力学を読破したと言ってもよい。もっとも日本人ならば、英語で読むよりは日本語の原著で読むほうがいいだろう。
原著などといったら、だいたいはドイツ語かフランス語とか最近ならば英語の書であろう。だが、日本語が原著のものはこの朝永の量子力学以外にも久保亮五編纂の『熱力学・統計力学』(裳華房)の演習書がある。こちらもNorth Hollandから英語版が出ていた。
べつに威張るわけではないが、そのことは誇りに思ってもいい。岩波の『数学辞典』も英訳がでており、日本語が原著である。
(注2)角運動量について学ぼうと思ったら、大学演習『量子力学』(裳華房)の第5章を読めばいい。これがわかれば、角運動量は難しいことは別として、基本の理解は卒業であろう。特に角運動量の合成のベクトル模型の項を読まれたらいい。Clebsh-Gordan係数が必要になる場合もあるが、それはまずはあとにしてもよい。
ほかには難しい本なら、ローズの本がある。この本はその後に訳本(『角運動量の基礎理論』(みすず書房))も出ている。この本は大学で力学演習でこの演習の担当された、Y 先生から山内恭彦『回転群とその表現』(岩波書店)とともに約50年前に推奨された。
『回転群とその表現』はちょっと数学的だが、ローズの角運動量の本は物理的でいいと言われた。そんなことを言われた Y さんはまだこのことを覚えておられるだろうか。
もっとも両方とも読み通したことはないのだから、読まなくてもなんとかやっていけるのかもしれない。