何事かがなければ客人を招き入れることのない本堂の奥座敷。中庭には、幹がほとんど空洞化してしまった老木の梅が人知れず毎年花を咲かせている。二間続きのがらんとした部屋。普段は、静まり返った中にもゆったりと、そこだけは特別なゆとりを持ったかのような時間が流れる空間。亡き実父が最も好んだ部屋。Jayとジェシンタを招き、じわーっと若い活気が満ちていく……。
三百年にはなる寺の歴史。「戦争」の話も婆さまに聴きたかったJayだが、「わるいかな」という思いを抱いたようだ。遠慮した。声だけはよく通りしっかりしているが、足元がかなり危うい、おぼつかない足取りの姿を見てそう思ったのか、話題的にまずいと思ったのか。以前から、寺での暮らしに興味を持つJay、オージーのお坊さん!?
目的地への移動には遠回り、“ちょっと一目”だけでも、の観光案内をする。前方正面に見る「左大文字」を、車内で身を乗り出すように見入っている。“おぼん”を知り、送り火の映像を見たことあるというJayだ。日本人の感覚を伝えるのは難しいが。
「ありがとう、おかあさん」
「レイトナイト・ショッピングがしたい」ジェシンタから聞いた最初のご希望。なるほど、買い物好き。さっと、気にいると手に取り簡単に欲しいという。お金を払って買い物の実地体験を重ねる。
パパラッチをしてくれという母親サラからの要望、かなえました。だから、ジェシンタのリポートがどのようなものとなったか、その報告を頼みますよ、サラ。
そっと後ろを向きながら目鼻を押さえるジェシンタ。別れの時。
see you again! … in Jessie’s new house…in this year... maybe…
『「あー、たのしかった!」?』 サラからお礼のメールあり。母親のもとへ。
「東京より京都が好き」「ありがとう、おかあさん」
Jayの言葉を思い出しながら……。