京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「落とし文」

2009年06月14日 | 日々の暮らしの中で
  

葉がくるっと巻かれている。さわってみると、中から小さな茶色のものがぱらぱらっと落ちる。虫の卵で巣だとするなら、これが「落とし文」と言われるものだろうか。

オトシブミ科の昆虫が、ナラ・クヌギ・クリなどの広葉樹の葉を巻いて中に卵を産みつけ、地上に落とす。中の幼虫は内側を食べて育つのだそうだ。この地上に落ちた筒状の巻き葉が、巻紙の手紙に似ている。そこで付いた「落とし文」という名。京都あたりでは「ホトトギスの落とし文」と呼んだらしい。

公然とは言えないことを匿名の文書にし、わざと路上などに落としていく。(落書)

“思いを伝えたい人がいる”、どこかで聞いたセリフだけれども。
人知れず恋心を伝えるために、その人の通り道に手紙を置いてみる。密かに反応を、返事を待って……、抑えた気持ちの中にもロマンがあるような。

気になる人の前でハンカチを落とす、何かをわざと落として拾ってもらう。それによって生まれる出会いに賭ける、ウソかほんとか、昔・昔のお話もだけれど、今はメールで直結。
“恋の手を変え、品を変え”、和歌が詠めなきゃ恋もできない時代でなくてよかったのかしら……。

 

大江健三郎氏の講演会があった。「言葉を正確にする」と題して。ことばを正確に覚えて使うことが大切であることをお話しされた。言葉の使われ方の現状として、「きちんと文章を引用する習慣がなくなってきた」といわれる。大江さんの親の世代までは、源氏物語の文を引用する人も珍しくはなかった、と。ことばを正確に伝えながら、覚えることの大切さを述べられた。ノーベル賞作家。

恋の歌でもさがそうかしら… 

  (和菓子 落とし文)

コメント (4)
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