葉がくるっと巻かれている。さわってみると、中から小さな茶色のものがぱらぱらっと落ちる。虫の卵で巣だとするなら、これが「落とし文」と言われるものだろうか。
オトシブミ科の昆虫が、ナラ・クヌギ・クリなどの広葉樹の葉を巻いて中に卵を産みつけ、地上に落とす。中の幼虫は内側を食べて育つのだそうだ。この地上に落ちた筒状の巻き葉が、巻紙の手紙に似ている。そこで付いた「落とし文」という名。京都あたりでは「ホトトギスの落とし文」と呼んだらしい。
公然とは言えないことを匿名の文書にし、わざと路上などに落としていく。(落書)
“思いを伝えたい人がいる”、どこかで聞いたセリフだけれども。
人知れず恋心を伝えるために、その人の通り道に手紙を置いてみる。密かに反応を、返事を待って……、抑えた気持ちの中にもロマンがあるような。
気になる人の前でハンカチを落とす、何かをわざと落として拾ってもらう。それによって生まれる出会いに賭ける、ウソかほんとか、昔・昔のお話もだけれど、今はメールで直結。
“恋の手を変え、品を変え”、和歌が詠めなきゃ恋もできない時代でなくてよかったのかしら……。
大江健三郎氏の講演会があった。「言葉を正確にする」と題して。ことばを正確に覚えて使うことが大切であることをお話しされた。言葉の使われ方の現状として、「きちんと文章を引用する習慣がなくなってきた」といわれる。大江さんの親の世代までは、源氏物語の文を引用する人も珍しくはなかった、と。ことばを正確に伝えながら、覚えることの大切さを述べられた。ノーベル賞作家。
恋の歌でもさがそうかしら…
(和菓子 落とし文)