小津安二郎が父親に宛てた手紙や、小津の愛したソフト帽、もちろん映画に関する膨大な資料が一人の蒐集家の手によって集められたことを知った。また、小津研究家として一家言をなす研究家が札幌在住であることも知ることができた特別展だった。
映画監督として名匠の誉れ高い小津安二郎の生誕120年・没後60年を記念して北海道立文学館で開催されている。(と言っても会期8月20日までなのだが…)
私は特別の小津ファンではないのだが、特別展の開催を知って関連事業に意識的に参加しようと努めてきた。参加できたのは、映画会「東京物語」、講演会「小津安二郎と北海道」、無声映画会「突貫小僧」と「出来ごころ」である。実は、このほかにも映画会で「東京暮色」、「秋刀魚の味」を観る予定にしていたのだがスケジュールが合わず断念した経緯があった。
断念したことで、一連の関連事業に参加した後に特別展を観覧しようとしていたのだが、その熱も冷めかけていた。ところが先日、ある方から「特別展のチケットがあるが、都合が悪くて行けないので、どうでしょうか?」という嬉しいお誘いがあった。私に断る理由などない。有難くチケットを譲っていただき、本日午後道立文学館に赴いたというわけである。
特別展は会期末とあってか結構な人たちが観覧に訪れていた。展示されていたのはもちろん小津映画に関連するポスターやシナリオ、関連する小物などであったが、小津安二郎が父親に宛てた手紙の実物なども展示されていた。(小津は一時父親とは別居していた時代があった)また、小津が愛したソフト帽やワイシャツ、あるいは腕時計なども展示されていた。
その展示物のほとんどが築山秀夫氏(長野県立大学教授)という一人の蒐集家の手によるものだと展示会の一つのコーナーで知った。相当に精魂込めて集められたに違いない。素晴らしいコレクションである。
蒐集家ではないが、札幌にも小津研究においては高名な方が存在していることを知ることができた。その方は、公益財団法人北海道文学館の副理事長で、武蔵女子短大教授である中澤千磨夫氏である。氏は小津に関する著書を二冊も出版し、今回の特別展開催にあたって中心的な役割を果たした方だという。
※ 特別展「小津安二郎」展が開催されている北海道立文学館の外観です。
小津安二郎映画は、よく黒澤明監督と対比されて語られることが多い。黒澤映画の派手な活劇を中心とした映画に対して、小津映画のそれは市井の人たちの日常を描くものが多い。どちらがどうということではなく、お二人ともに映画の世界において世界に名を轟かせたという点において私たち日本人には誇ることのできるお二人ということが言えるのではないか。今やお二人とも鬼籍に入られたが、二人の創った映画はいつまでも残されている。機会を見つけてこれからも二人の創った映画を楽しみたいと思う。