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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

ドキュメンタリー映像作家・久保田徹 ミャンマー情勢を語る?

2023-08-04 20:36:36 | 大学公開講座
 クーデターにより軍事独裁政権を敷くミャンマーの実状を知りたいと思い、会場に足を運んだ。しかし、実際に登壇したのは久保田氏一人ではなく、N HKディレクターの家坂徳二氏と二人によるドキュメンタリー論の交換が主だった…。
  
 久保田徹氏というと、2022年7月にミャンマーにおいて撮影中に 国軍によって拘束され、111日間の獄中での生活を経て帰国した体験を持つフリーランスのドキュメンタリー映像作家である。その久保田氏が札幌に来て「ミャンマー情勢講演会」の講師を務めるということで、8月2日(水)夜、会場の北大学術交流会館に足を運んだ。
 主催は北大大学院メディア・コミュニケーション研究院で、テーマが「ミャンマー情勢から映像作家への思いを語る」ということを会場へ行って初めて知った。そして登壇者は久保田氏一人ではなく、NHKディレクターの家坂徳二氏も登壇され、メディア・コミュニケーション研究院の学術研究員である下郷紗季氏が司会を担当して対談するという形だった。
 家坂氏はNHKのディレクターとして、久保田氏を被対象者としてドキュメンタリー番組NHK・BSスペシャル「君はなぜミャンマーを撮り続けるのか 映像作家・久保田徹 拘束からからの日々」を制作した当人である。
 しかも二人は慶応大学において同じ映像制作のサークルの先輩・後輩という関係にあり、学生時代に二人でミャンマーに赴き、ロヒンギャ問題で共に取材をした間柄だという。(家坂氏が一年先輩で29歳、久保田氏28歳)
 そうしたことから、私が期待していた「ミャンマーの現状を知る」というよりは、お二人による「ドキュメンタリー論」の交換という趣きの対談という色彩のものだった。
  
  ※ フリーランスの映像作家で拘留経験のある久保田徹氏
 久保田氏は、これまでは専ら「撮る側」だったが、BSスペシャルでは「撮られる側」に立ったことで、撮られる側の人間は意外に撮る側の意図が理解できたことが一つの収穫だったと語った。そしてドキュメントとは、撮る側に制作意図が存在するのが常であるが、撮られる側はその意図を汲んで撮られている場合が多いという。つまり撮られる側はカメラが回っていることを分かって(理解して)カメラの前に立っていることをドキュメントを見る側も分かってみることが必要である、ということを言っているのだな、と私は理解した。
  
  ※ NHKディレクターで久保田氏と大学同窓の家坂徳二氏
 一方で、二人の立場に寄るドキュメンタリーに対する姿勢の違いのようなものも垣間見ることができた。久保田氏はフリーランスの映像作家として、できるかぎり真実に近づいたものを撮るという姿勢を貫こうとしていると伝わってきた。ところが家坂氏と一緒に仕事をしてみて、さまざまなことに配慮しながら制作している姿勢にもどかしさのようなものを感じたようである。(先輩に対する遠慮のようなものを滲ませながら…)対して、家坂氏は、「会社(NHK)の意向」、「“作品” というよりは “番組”」というようなことを発した。そこには立場という見えない壁が立ちはだかっているということなのだろうか?  
 私はNHKのドキュメンタリー番組を視聴する機会がかなり多いのだが、そうした制作者側の事情も考慮しながら今後番組を視聴していきたいと思う。
 久保田、家坂両氏がそれぞれの立場で活躍されることをお話を聴いたものと期待したい。