土曜日に熊本史談会でお話をさせて戴くにあたって、その中に「えいとう節」の事が出てくるので、松野国策先生の貴重な記録「熊本城築城地搗音頭」を読んでいる。
読みながら若い頃の楽しい思い出がよみがえってきた。
私は長く建築設計の仕事に携わってきたが、御施主さんや建設会社その他のお付き合いで、随分お酒の付き合いがあった。
ある年などは、12月の忘年会を20日ほどやったことがある。一ト月ほとんど二日酔いであった。
昔は「御座敷」で飲む機会も相当あって、いろんな人たちの御座敷芸を楽しませていただいた。
勢いこちらにも出番が回ってくるから何かご披露しなければならない。
そこで仲居さんにお願いして、一升瓶、はたき、長めの麻ひもを準備してもらう。
昔は料亭や旅館には掃除用に「はたき」は必需品でおいてあった。この柄の端っこに麻ひもを結び柄の方から一升瓶に落とし込む。
指名がかかると、仲居さんに頼んでこれをうやうやしく持ち出してもらい、机の上に置いてもらう。
麻ひもを低い位置でひっぱると、「はたき」は上り、緩めると下に落ちる。そしてはたきの布は御幣の如く踊り出す。
これで地搗き歌「えいとう節」を歌うのである。幸い仲居さんが「えいとう節」をいくつかご存じだったから大いに助かった。
これが受けて私は大いに面目を施した。
これはある病院の落成の時の話なのだが、あとで聞いた処によると、これを病院長がレバトリーに入れられたそうで、麻ひもを4・5本にして皆で引っ張ってもらうとおおにぎわいになったと得意げであった。
ご自身は、眼鏡状に五円玉に紐を通したものを鼻に付けられて、見事な安来節を踊られた。
その他、割り箸をタクト代わりにして、人が歌い出すと指揮をしたり、「ちょちょんがちょん」の振り付けを只ひたすらに何遍も繰り返す踊りを披露したりした。
参加者全員が私の後ろに並び、仲居さんも交じって座敷を何周もして座は盛り上がった。
ある時は、熊本城の花見に出かけ二の丸広場でこれをやったら、大いに受けてみて居た人が踊り出したことがある。
これをやり出すと「家元」と呼ばれたが、残念ながら最近はこういう機会がなく、私のこの御座敷芸?をご披露する機会はない。
20代のころには、通っていたお茶の先生主催の新年会で「何かやれ」といわれて、座布団を三枚程重ねて落語の小噺をやったが、これは見事にはずし赤っ恥をかいたことも忘れ得ぬ思い出である。
すっかり時代が変わり、新年会や忘年会さえ若い人たちは嫌うというし、ましてや御座敷で何か披露しろなどとなると、噴飯ものなのだろう。
要請があればご伝授したい。