「虜人日記」小松 真一
太平洋戦争、著者はフィリピンに軍属として派遣される。
日々の生活、ジャングルでの逃亡生活と抑留体験。
PWという言葉が何度も出てくるが、Prisoner of War、即ち虜人(捕虜)のこと。
読んでいて感じるのは、とても幸運に恵まれていること。
おかげで、生きながらえることが出来た。
同じ南方、それもフィリピンでも、場所によってはもっと悲惨な経験をした方が多数いる。
また、帰らぬ人となった方も少なくない。(同じ捕虜でも、シベリアだと、さらに生還率は低い)
本書は戦中、南方での貴重な記録。
第29回毎日出版文化賞受賞。
P166
平地で生活していた頃は、荀子の人間性悪説等を聞いてもアマノジャク式の説と思っていた。ところが山の生活で各人が生きる為には性格も一変して他人の事一切かまわず、戦友も殺しその肉まで食べるという様なところまで見せつけられた。そして殺人、強盗等あらゆる非人間的な行為を平気でやる様になり、良心の呵責さえないようになった。こんな現実を見るにつけ、人間必ずしも性善にあらずという感を深めた。
タクロバンから収容所に向かう
P202
トラックに乗って収容所に向かう。途中は土民などが口々に、「バカヤロー」「ドロボー」「パッチョンゾー」「コノヤロー」などと、嫌悪の感情をこめた声でわめき立てた。石が投げつけられる。サンカルロスとは大変な違いだ。余程ここの日本軍は土民をいじめていたに違いない。土民の浴びせる悪口は、皆日本軍が教えた言葉ばかりだ。自ら教えて、自ら罵倒される。身から出たさび、大東亜共栄圏理念の末路、猛反省の要ありだ。敗戦の悲哀を身にしみて感ずる。
竹の国ニッポン
P362
兵隊には竹槍、将校には竹光、軍医は竹の子、日本は竹の国とはいいながらこれで決戦とはちとかわいそうだ。(戦争末期は物資不足で、将校も金属の軍刀を入手できなかったようだ。医者はヤブ医者・・・さらに藪の卵なので「竹の子」)
【日本の敗因】P334
これに補足するなら、情報を軽視したこと・・・日本の暗号はことごとく解読されていた。
山本五十六さんも、そのせいで、撃墜された。
【ネット上の紹介】
太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。フィリピンのジャングルでの逃亡生活と抑留体験を、常に一貫した視線で、その時、その場所で、見たままのことを記し、戦友の骨壷に隠して持ち帰った一科学者の比類のない貴重な記録。ここに、戦争の真実と人間の本性の深淵を見極める。第29回毎日出版文化賞受賞の不朽の名著。
【目次】
漂浪する椰子の実
密林の彷徨
虜人日記