「遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス」藤原正彦
以前、「若き数学者のアメリカ」を読んだが、本作はその姉妹編。
単なるエッセイでなく、英国論となっている。
知識とユーモアあふれる作品だ。
P15
イギリス料理といわれるものはおしなべてまずい。大学食堂で、たまたまイギリス料理に手を出したアメリカ人が料理途中でフォークを置いてしまうのを、二度ほど目撃したことがある。イギリス料理は昔から駄目だったらしい。十六世紀初めにケンブリッジで暮らしたエラスムスも、食物のまずさに音を上げて三年で帰国した。(英国だけでなく、植民地関連のニュージーランド、オーストラリアもまずい。ベトナムは元・フランス植民地だったので、良かった。言葉を換えると、ピューリタン系は駄目で、カソリック系は大丈夫、ということになる)
P189
アメリカでは、アングロサクソンがアイルランド移民を、彼等がイタリア移民を、そして彼等がポーランド移民やユダヤ移民を、といった具合に、常に新参者を食いものにした。新参者はその安い労働力を利用されたうえ、嘲笑の対象ともなった。
P236
いかなる組織においても、もっとも重要な判断は人事である。人事さえうまく行き、有能な人間が集まれば、あとは自然に良い方向へ流れていく。人事に必要なのものは、何と言ってもすぐれた大局観と公平さである。
P247
「無人島に男2人と女1人が漂着した。男達がイタリア人なら殺し合いになる。フランス人なら1人は夫、1人は愛人となってうまくやる。イギリス人なら、紹介されるまで口をきかないから何も起こらない」
そして、
「日本人なら東京本社へファックスを送り、どうすべきか問い合わせる」
【ネット上の紹介】
「一応ノーベル賞はもらっている」こんな学者が濶歩する伝統の学府ケンブリッジ。家族と共に始めた一年間の研究滞在は平穏無事…どころではない波瀾万丈の日々だった。通じない英語。まずい食事。変人めいた教授陣とレイシズムの思わぬ噴出。だが、身を投げ出してイギリスと格闘するうちに見えてきたのは、奥深く美しい文化と人間の姿だった。感動を呼ぶドラマティック・エッセイ。
[目次]
第1章 ケンブリッジ到着
第2章 ミルフォード通り17番地
第3章 研究開始
第4章 ケンブリッジの十月
第5章 オックスフォードとケンブリッジ
第6章 次男が学校でなぐられる
第7章 レイシズム
第8章 学校に乗り込む
第9章 家族
第10章 クイーンズ・カレッジと学生達
第11章 数学教室の紳士達
第12章 イギリスとイギリス人