STAP細胞論文問題、まだ調査中で結論は出ていないようですが、しばらく前に宇和島市議会議員の方が「藤波先生」(間違えました、難波先生でした)というどうも免疫学の専門家らしい人の詳細な論文の解析をシリーズで転載しているのを見つけて読みました。「難波先生(訂正)」の解析力に、舌を巻きました。私は、STAP細胞は本当かどうかわからない、と考えていましたが、これを読んで、ますますy混乱してきました。画像の細工の跡、マウスの胎盤写真の使い回し、方法の記述での剽窃、過去の筆頭著者の論文での疑惑、と論文の結論とは関係のない部分とはいえ、ちょっと問題が多過ぎるのが余計悪いです。
科学的な疑問点については、出来た細胞が分化した細胞のリプログラミングの結果であるとする証拠のデータについて議論しています。さすがに専門家の眼力、データ解釈の深さというのはすごいものです。あるべきところにあるべきものがないことに気づくには、ないはずのところにあることに気づくよりも難しいです。つまり、この論文のデータでは体細胞遺伝子再構成をおこしたT細胞から作ったSTAP細胞のTCR再構成の解析がしてあるのですが、STAP細胞では再構成を起こしていない遺伝子のバンドもあるにもかかわらず、もとのT細胞にはそれが認められないのです。これは確かにちょっとおかしいです。PCRのエラーとかinnocentな理由ももちろんあるとおもいますが、そのレーンの写真だけ嵌め込んだような跡があるのが怪しいです。ただ、このデータからはSTAP細胞の細胞のレーンには再構成のバンドが確かにあるわけですから、おかしいけれども、STAPがウソだという証拠にはなりません。
それから、解説を読んで私もはじめて「ハッ」と思ったのですが、この細胞からマウスを作ったという実験に関して、もしもマウスが遺伝子再編成を起こしたT細胞をリプログラムした細胞からできているのであれば、このマウスではT細胞の体性遺伝子再構成が発生の最初から存在しており、故に、このマウスのリンパ球は限られた種類(もしくはクローナル)のT細胞から構成されているはずです。であれば、おそらく重症の免疫不全を発症しているのではないかという指摘です。その辺のことは論文にはありません。どうなのでしょうか。(下に後で付け足しましたが、理研のプロトコールで明らかになったことの一つは、TCRの再構成を起こしたものはどうもステムセルのラインにならないようです。これだけで、ちょっと問題だとは思いますが、そうであればマウスの免疫不全はないだろうと思われます)
専門外の人間が普通に論文を読むと、すごいねーという感想で終わってしまうわけですが、専門の人間が一つ一つのデータを懐疑的に吟味すれば、論文に出ているデータだけから、これだけのことがわかってしまうのです。しかし、だからと言って論文の結論がおかしいと短絡的に結論を出してしまえるわけではありませんが。
世間では、この細胞への期待は減退ぎみようで、Knoepfler研究室のブログによると、この細胞はウソだろうと思っている人が週を経る度に増え、今では8割弱の人が信じていないようです。STAP再現性の実験のupdateも止まったままで、成功例の報告はまだありません。やはり、疑われている本人が釈明しないこと、論文の結果が再現されていないこと(共著者の若山さんの研究室でさえ、研究室を移動後、成功していない)ことが大きいですね。
そのブログサイトで、若山さんとの直接のやりとりした様子が上げてあったので、適当に訳してみます。括弧内は筆者の補足で原文にはありません。
ここまで、書いた時点で、理研から実験プロトコールが発表(リンクはPDFです)されました。マウスは1週齢未満のものを使わないと、効率は大変悪い、とあります。また、系代培養したMEF(マウス胎児繊維芽細胞)ではダメで、フレッシュに分離した一次培養細胞を使えとあります。実験を再現しようとしたグループがうまくいかなかったのはひょっとしたら、この辺の問題であったのかも知れません。酸性液での処理は500ulのHBSSに1 x 10^6の細胞を入れるとあります。これは、そこそこの数の細胞を比較的少量のバッファー力の弱い液につけることになり、PHが25分、本当に保たれているのか、疑問に思いました。再現できなかったグループが気づいた問題点が、酸性溶液のpHを一定に保つことが難しいという点だったからです。
いずれにせよ、マウスの年齢が大きな要因であったり、なぜか継代した細胞はダメであったりと、理由のよくわからない制限条件があるのがすっきりしません。
その後、もう一度Knoepflerのサイトを見てみると、早速、理研のプロトコール発表を受けて、コメントがありました。上のT細胞でのTCR遺伝子再構成のデータに関して、理研のプロトコールで次にように発表したことが矛盾しているのではないかと疑義をあげています。
ちゅーことは、STAP細胞はOct-4などを出しているにせよ、ほとんどがステムセルラインにすることはできず、その中の一部に存在するステムセルになりやすい細胞だけが、継代培養可能に過ぎないということのようです。つまり、iPSのように、成熟して分化した細胞を初期化してステムセルラインを作るというよりは、むしろ最初から組織に存在しているかも知れないストレスに強いステムセル様細胞を(他の細胞を酸で除去することによって)セレクトしているに過ぎないのでは、という疑問が出てきます。日本の別のグループは昨年に、組織中に存在するストレスに強い間葉系ステムセルを分離する方法を発表していますから、実は、それと同様なのかも知れません。以前から、体の組織にはside populationと呼ばれる細胞群があって、強いポンプ作用で色素や毒素を細胞外に排出することができ(それを利用して分離します)、ステムセルの性質を持つ細胞があることは知られています。STAPは最初、毒素のストレスでも作れる、と言ってましたから、ますます、これは成熟細胞のconversionではなく、side population中に含まれる内在性ステムセルのselectionだろうという気がします。しかし、仮にそういう細胞をセレクトしているだけであったとしても、そのような細胞がマウスにまでなる胚性ステムセルの性質を持つ可能性は低いだろうと考えられるので、STAPからSTAP-SC樹立の間に何らかのconversion(コンタミでなければ)があったのであろうと考えられます。
このプロトコールの発表は、正直、この細胞への期待をむしろ萎ませたのではないかと思います。1週令未満の赤ちゃんネズミの細胞でしかうまくいかず、宣伝ほど簡単でもない、加えてSTAPからSTAP-SCを作る部分も、iPSのように本当のリプログラミングした成熟細胞由来なのかどうか怪しいとなれば、特にtranslational researchの目的でSTAPを考慮している人は、もう興味を失ってしまっているでしょう。私も、結局はこの論文はちょっと誇大広告だったのではないかと思います。なぜ、TCR再構成が起こってしまったT細胞からはSTAP-SCが樹立できないのか、なぜ1週令未満のマウスしかダメなのか、そのあたりのメカニズムなり現象をもうすこし詰めてから、発表すべきではなかったかと、実験プロトコールを読んで思いました。(そこまでやっていれば、逆にNatureにはアクセプトされなかったかも知れませんが、少なくとも、このようなスキャンダルに発展することは避けれたでしょう)
結局、この件に関しては、酸性刺激だけでリプログラムできる、という結論が、余りに人々の常識を覆すものだったので、問題がここまで大きくなり、そして、論文に複数の問題があることがわかって、急に人々の疑惑をよんでしまったと思います。ガリレオの例を挙げるまでもなく、人間というのは、刷り込まれた「常識」に盲目的に従う習性があり、それに反するものはいくら論理的であっても、しばしば、考えてみることすら拒否するものです。その常識を否定するような言説には、その反論の根拠を示さず感情的に反応してしまうのが人間の習性でしょう。科学的思考は、そこの感情の問題を排し、判断を一旦括弧に入れて、まず証拠を集めて議論をつくした上で結論を出すという態度でしょう。これには多少のトレーニングが必要です。
科学は方法的懐疑に基づき、常識を疑うところから出発して、世の中をできるだけ統一的な理論によって理解しようとする活動のはずで、本来、感情的な反発というものは入り込むべきものではないのですが、結局、人間は感情の動物です。人間の行動は理性よりも感情に支配されています。それを理解した上で、デカルトは「感情の問題」を切り離し、理性によって真実を見ようとしました。懐疑するのはあくまで単なる方法上の手段であって、「ウソだ、信じたくない」という感情に立ってしまっては、科学になりません。このSTAP論文のレビューでも「この論文は過去の先人の努力と知識を冒涜するものだ」とかいうコメントを書いたレビューアもいたそうです。仮にも科学者であれば、レビューにこのような感情的なコメントを書くことを恥ずかしいと思うべきだと私思います。われわれは科学という「ゲーム」をしているのですから、守るべきルールがあります。
インターネットの匿名の科学フォーラムなどを見ると、論点から離れて、感情的に根拠もなく議論の相手を貶めるようなコメントが平気で書き散らされているのをかなりの頻度で目にして、毒気にあてられます。昔から、私は、このように論理的な根拠も示さずに感情的に相手を攻撃したり侮辱したりする非生産的で有害な行動をとる人々の心理は何なのだろうか、と不思議に思っていました。相手の話を聞きたくないならそのフォーラムから出て行けばいいだけのいい話で、わざわざ自分の時間を費やして、有害無益ななコメントを書く必要はありません。多分、自分の優越性を示したいというエゴなのでしょう。いずれにせよ、科学者も人の子、科学においてさえ、感情の問題を切り離すことはなかなか難しいということでしょう。STAP論文の顛末に関しては、経過を見守りましょう。
科学的な疑問点については、出来た細胞が分化した細胞のリプログラミングの結果であるとする証拠のデータについて議論しています。さすがに専門家の眼力、データ解釈の深さというのはすごいものです。あるべきところにあるべきものがないことに気づくには、ないはずのところにあることに気づくよりも難しいです。つまり、この論文のデータでは体細胞遺伝子再構成をおこしたT細胞から作ったSTAP細胞のTCR再構成の解析がしてあるのですが、STAP細胞では再構成を起こしていない遺伝子のバンドもあるにもかかわらず、もとのT細胞にはそれが認められないのです。これは確かにちょっとおかしいです。PCRのエラーとかinnocentな理由ももちろんあるとおもいますが、そのレーンの写真だけ嵌め込んだような跡があるのが怪しいです。ただ、このデータからはSTAP細胞の細胞のレーンには再構成のバンドが確かにあるわけですから、おかしいけれども、STAPがウソだという証拠にはなりません。
それから、解説を読んで私もはじめて「ハッ」と思ったのですが、この細胞からマウスを作ったという実験に関して、もしもマウスが遺伝子再編成を起こしたT細胞をリプログラムした細胞からできているのであれば、このマウスではT細胞の体性遺伝子再構成が発生の最初から存在しており、故に、このマウスのリンパ球は限られた種類(もしくはクローナル)のT細胞から構成されているはずです。であれば、おそらく重症の免疫不全を発症しているのではないかという指摘です。その辺のことは論文にはありません。どうなのでしょうか。(下に後で付け足しましたが、理研のプロトコールで明らかになったことの一つは、TCRの再構成を起こしたものはどうもステムセルのラインにならないようです。これだけで、ちょっと問題だとは思いますが、そうであればマウスの免疫不全はないだろうと思われます)
専門外の人間が普通に論文を読むと、すごいねーという感想で終わってしまうわけですが、専門の人間が一つ一つのデータを懐疑的に吟味すれば、論文に出ているデータだけから、これだけのことがわかってしまうのです。しかし、だからと言って論文の結論がおかしいと短絡的に結論を出してしまえるわけではありませんが。
世間では、この細胞への期待は減退ぎみようで、Knoepfler研究室のブログによると、この細胞はウソだろうと思っている人が週を経る度に増え、今では8割弱の人が信じていないようです。STAP再現性の実験のupdateも止まったままで、成功例の報告はまだありません。やはり、疑われている本人が釈明しないこと、論文の結果が再現されていないこと(共著者の若山さんの研究室でさえ、研究室を移動後、成功していない)ことが大きいですね。
そのブログサイトで、若山さんとの直接のやりとりした様子が上げてあったので、適当に訳してみます。括弧内は筆者の補足で原文にはありません。
1. Vacantiの研究室とSTAP細胞での共同研究はどのようにはじまったのか?研究が始まった当初のことを教えてください。
テル(若山):Vacanti研究室のDr.コジマがキメラ(マウス)の実験で協力を依頼してきた。当初、プロジェクトは不可能に思えたが、だからこそ、引き受けた。不可能なプロジェクトが好きだからだ。最初にDr.オボカタが変った細胞を持ってきた時、ブラストシスト(初期杯)へ注入したが、キメラはできなかった。しかし、二年ほど後に、Dr. オボカタが非常によいSTAP細胞をつくる方法を発見した。それで、キメラをつくることが出来た。
2。最近、Dr. Vacantiやオボカタと話をしたか?もしも彼らが話そうとしないのなら、それは何故だと思うか?
テル;私はDr. Vacantiと話をしたことはない。Dr. オボカタとは話をしたが、日本でのことで、主たる問題は、再現性のことではなく、(ゲルの)バンドの写真の間違いのことだ。今は理研や第三者がこの問題を調査中だ。研究室のなかでは、彼女はSTAP細胞を作れると言っている。
3. 現時点で、STAP細胞におけるあなた自身の自信のほどはどうか?より不安になってきているか?
テル;理研を出る前に、脾臓からSTAP細胞を作ることに成功した。ただ一回だけだが。そのときDr.オボカタがよく指導してくれた。今では、(日本国外の)数人の私の知り合いが、部分的に成功した(Oct4の発現のみ)というメールを送ってきた。だから、一年以内には誰かが再試したデータを発表するだろうと信じている。
4.大勢の人と同様、私自身はマウスのSTAP研究はしっかりしたものだと考えているし、あなたは一流の科学者と評価されている。人々は(論文や研究者ではなく)STAP細胞そのものについて、より具体的な問題を感じている。もっともよくある疑問は、STAP細胞はESやiPSのようなステムセルのコンタミにすぎないのではないかという疑問だ。その可能性はあるか?
テル;コメントをありがとう。STAP細胞から私は何度か、STAP-SC(ステムセル)を樹立した。コンタミが毎回起こるとは考え難い。加えて、われわれはSTAP-SCを129b6GFPマウスから作ったが、実験の当時、われわれはその種類のマウス由来のES細胞は持っていなかった。STAP-SC樹立に成功したとき、オリジナルのSTAP細胞のOct-4の発現は大変強かった。この状況では、ブラストシストからES株を樹立するよりも(STAP細胞からSTAP-SCを樹立する方が)もっと簡単だ(と思う)。更に、mRNA発現データはSTAP-SCはES細胞とは異なることを示している。
5. STAPステムセルはあなたの新しい研究室では動いていないと言っていたが、方法的な意味で、なぜだと思うか?何が違っているのか?また、理研にいたときには動いていたと言っていたが、もうちょっと詳しく教えてくれませんか?あなたがSTAPの誘導を全てやったのか?ESやiPSが培養中に入り込む可能性は?
テル;私はDr.オボカタに一度、指導を受けただけで、その後、理研を離れた。かつて実験室を移動した後、自分自身の技術を再現するのが難しかったことを覚えているだろうか?私がハワイからロックフェラに映った時、マウスクローンをつくるのに半年費やした。これは私自身の技術であったが、それでも時間が必要だった。STAPは私の技術ではないし、違う研究室が再現するのが困難なのは、当然だ。Dr.オボカタの指導の元で、私は自分で全てをやってみた。同様に、私の大学院生もSTAP-SCの樹立に成功している。(筆者- 若山さんはSTAPをつくることに成功したと言っているのか、STAPの細胞からSTAP-SCを作ることに成功したと言っているのかよくわかりません。再現性の問題はSTAP-SC樹立ではなく、STAPそのものさえ作ることができないという点なのですが)これらの実験期間の初期にはわれわれはESもiPSも培養していておらず(コンタミの可能性は低い)、その後、コントロールとしてES培養もし始めた。
6.世界中で多くの人がSTAPを試していますが、思わしい結果が出ていない。方法の詳細を書いた論文を準備中であるのは知っているが、事の重大性を考えて、直ちに詳細な実験プロトコールを発表する気はないか?私の自分のブログに載せても良いし、それは論文の発表には問題ないと思う。
テル;はい、理研はすぐに詳細な方法を発表すると思う。私はキメラ作成の部分を書いた。しかし、キメラ作成は通常の実験であり、別に特別なものではない。残念ながら、現在全ては理研の責任下にあり、私は理研を去った身だ。私も(どうなっているか)知りたいが、知り得ない。
最後に、あなたは私が触れなかった事でなにか、疑問や言いたいことなどはあるか?
テル;私は逃げるつもりはない。私のデータでは全てのことは本当だからだ。しかし、それを再現するのに時間はかかるだろう。例えば、最初のクローン動物のドリーは、発表から1年半も再現されなかった。ヒトクローンES細胞の論文は未だに再現できていない(筆者ーまさか、韓国の捏造論文のことを言っているわけではないでしょうね)とういうわけで、少なくとも1年は待って欲しい。その間に誰かあるいは、私自身が再現に成功すると信じている。
テル(若山):Vacanti研究室のDr.コジマがキメラ(マウス)の実験で協力を依頼してきた。当初、プロジェクトは不可能に思えたが、だからこそ、引き受けた。不可能なプロジェクトが好きだからだ。最初にDr.オボカタが変った細胞を持ってきた時、ブラストシスト(初期杯)へ注入したが、キメラはできなかった。しかし、二年ほど後に、Dr. オボカタが非常によいSTAP細胞をつくる方法を発見した。それで、キメラをつくることが出来た。
2。最近、Dr. Vacantiやオボカタと話をしたか?もしも彼らが話そうとしないのなら、それは何故だと思うか?
テル;私はDr. Vacantiと話をしたことはない。Dr. オボカタとは話をしたが、日本でのことで、主たる問題は、再現性のことではなく、(ゲルの)バンドの写真の間違いのことだ。今は理研や第三者がこの問題を調査中だ。研究室のなかでは、彼女はSTAP細胞を作れると言っている。
3. 現時点で、STAP細胞におけるあなた自身の自信のほどはどうか?より不安になってきているか?
テル;理研を出る前に、脾臓からSTAP細胞を作ることに成功した。ただ一回だけだが。そのときDr.オボカタがよく指導してくれた。今では、(日本国外の)数人の私の知り合いが、部分的に成功した(Oct4の発現のみ)というメールを送ってきた。だから、一年以内には誰かが再試したデータを発表するだろうと信じている。
4.大勢の人と同様、私自身はマウスのSTAP研究はしっかりしたものだと考えているし、あなたは一流の科学者と評価されている。人々は(論文や研究者ではなく)STAP細胞そのものについて、より具体的な問題を感じている。もっともよくある疑問は、STAP細胞はESやiPSのようなステムセルのコンタミにすぎないのではないかという疑問だ。その可能性はあるか?
テル;コメントをありがとう。STAP細胞から私は何度か、STAP-SC(ステムセル)を樹立した。コンタミが毎回起こるとは考え難い。加えて、われわれはSTAP-SCを129b6GFPマウスから作ったが、実験の当時、われわれはその種類のマウス由来のES細胞は持っていなかった。STAP-SC樹立に成功したとき、オリジナルのSTAP細胞のOct-4の発現は大変強かった。この状況では、ブラストシストからES株を樹立するよりも(STAP細胞からSTAP-SCを樹立する方が)もっと簡単だ(と思う)。更に、mRNA発現データはSTAP-SCはES細胞とは異なることを示している。
5. STAPステムセルはあなたの新しい研究室では動いていないと言っていたが、方法的な意味で、なぜだと思うか?何が違っているのか?また、理研にいたときには動いていたと言っていたが、もうちょっと詳しく教えてくれませんか?あなたがSTAPの誘導を全てやったのか?ESやiPSが培養中に入り込む可能性は?
テル;私はDr.オボカタに一度、指導を受けただけで、その後、理研を離れた。かつて実験室を移動した後、自分自身の技術を再現するのが難しかったことを覚えているだろうか?私がハワイからロックフェラに映った時、マウスクローンをつくるのに半年費やした。これは私自身の技術であったが、それでも時間が必要だった。STAPは私の技術ではないし、違う研究室が再現するのが困難なのは、当然だ。Dr.オボカタの指導の元で、私は自分で全てをやってみた。同様に、私の大学院生もSTAP-SCの樹立に成功している。(筆者- 若山さんはSTAPをつくることに成功したと言っているのか、STAPの細胞からSTAP-SCを作ることに成功したと言っているのかよくわかりません。再現性の問題はSTAP-SC樹立ではなく、STAPそのものさえ作ることができないという点なのですが)これらの実験期間の初期にはわれわれはESもiPSも培養していておらず(コンタミの可能性は低い)、その後、コントロールとしてES培養もし始めた。
6.世界中で多くの人がSTAPを試していますが、思わしい結果が出ていない。方法の詳細を書いた論文を準備中であるのは知っているが、事の重大性を考えて、直ちに詳細な実験プロトコールを発表する気はないか?私の自分のブログに載せても良いし、それは論文の発表には問題ないと思う。
テル;はい、理研はすぐに詳細な方法を発表すると思う。私はキメラ作成の部分を書いた。しかし、キメラ作成は通常の実験であり、別に特別なものではない。残念ながら、現在全ては理研の責任下にあり、私は理研を去った身だ。私も(どうなっているか)知りたいが、知り得ない。
最後に、あなたは私が触れなかった事でなにか、疑問や言いたいことなどはあるか?
テル;私は逃げるつもりはない。私のデータでは全てのことは本当だからだ。しかし、それを再現するのに時間はかかるだろう。例えば、最初のクローン動物のドリーは、発表から1年半も再現されなかった。ヒトクローンES細胞の論文は未だに再現できていない(筆者ーまさか、韓国の捏造論文のことを言っているわけではないでしょうね)とういうわけで、少なくとも1年は待って欲しい。その間に誰かあるいは、私自身が再現に成功すると信じている。
ここまで、書いた時点で、理研から実験プロトコールが発表(リンクはPDFです)されました。マウスは1週齢未満のものを使わないと、効率は大変悪い、とあります。また、系代培養したMEF(マウス胎児繊維芽細胞)ではダメで、フレッシュに分離した一次培養細胞を使えとあります。実験を再現しようとしたグループがうまくいかなかったのはひょっとしたら、この辺の問題であったのかも知れません。酸性液での処理は500ulのHBSSに1 x 10^6の細胞を入れるとあります。これは、そこそこの数の細胞を比較的少量のバッファー力の弱い液につけることになり、PHが25分、本当に保たれているのか、疑問に思いました。再現できなかったグループが気づいた問題点が、酸性溶液のpHを一定に保つことが難しいという点だったからです。
いずれにせよ、マウスの年齢が大きな要因であったり、なぜか継代した細胞はダメであったりと、理由のよくわからない制限条件があるのがすっきりしません。
その後、もう一度Knoepflerのサイトを見てみると、早速、理研のプロトコール発表を受けて、コメントがありました。上のT細胞でのTCR遺伝子再構成のデータに関して、理研のプロトコールで次にように発表したことが矛盾しているのではないかと疑義をあげています。
(理研プロとコールから)われわれはCD45陽性の血液細胞から複数のSTAP-stem cell(SC)を樹立したが、8のクローンを調べた所では、どれにもTCRの再構成が認められなかった。これは、再構成が起こる前の細胞はSTAPからSTAP-SCに成りやすいというバイアスがある可能性を示唆する、、、
ちゅーことは、STAP細胞はOct-4などを出しているにせよ、ほとんどがステムセルラインにすることはできず、その中の一部に存在するステムセルになりやすい細胞だけが、継代培養可能に過ぎないということのようです。つまり、iPSのように、成熟して分化した細胞を初期化してステムセルラインを作るというよりは、むしろ最初から組織に存在しているかも知れないストレスに強いステムセル様細胞を(他の細胞を酸で除去することによって)セレクトしているに過ぎないのでは、という疑問が出てきます。日本の別のグループは昨年に、組織中に存在するストレスに強い間葉系ステムセルを分離する方法を発表していますから、実は、それと同様なのかも知れません。以前から、体の組織にはside populationと呼ばれる細胞群があって、強いポンプ作用で色素や毒素を細胞外に排出することができ(それを利用して分離します)、ステムセルの性質を持つ細胞があることは知られています。STAPは最初、毒素のストレスでも作れる、と言ってましたから、ますます、これは成熟細胞のconversionではなく、side population中に含まれる内在性ステムセルのselectionだろうという気がします。しかし、仮にそういう細胞をセレクトしているだけであったとしても、そのような細胞がマウスにまでなる胚性ステムセルの性質を持つ可能性は低いだろうと考えられるので、STAPからSTAP-SC樹立の間に何らかのconversion(コンタミでなければ)があったのであろうと考えられます。
このプロトコールの発表は、正直、この細胞への期待をむしろ萎ませたのではないかと思います。1週令未満の赤ちゃんネズミの細胞でしかうまくいかず、宣伝ほど簡単でもない、加えてSTAPからSTAP-SCを作る部分も、iPSのように本当のリプログラミングした成熟細胞由来なのかどうか怪しいとなれば、特にtranslational researchの目的でSTAPを考慮している人は、もう興味を失ってしまっているでしょう。私も、結局はこの論文はちょっと誇大広告だったのではないかと思います。なぜ、TCR再構成が起こってしまったT細胞からはSTAP-SCが樹立できないのか、なぜ1週令未満のマウスしかダメなのか、そのあたりのメカニズムなり現象をもうすこし詰めてから、発表すべきではなかったかと、実験プロトコールを読んで思いました。(そこまでやっていれば、逆にNatureにはアクセプトされなかったかも知れませんが、少なくとも、このようなスキャンダルに発展することは避けれたでしょう)
結局、この件に関しては、酸性刺激だけでリプログラムできる、という結論が、余りに人々の常識を覆すものだったので、問題がここまで大きくなり、そして、論文に複数の問題があることがわかって、急に人々の疑惑をよんでしまったと思います。ガリレオの例を挙げるまでもなく、人間というのは、刷り込まれた「常識」に盲目的に従う習性があり、それに反するものはいくら論理的であっても、しばしば、考えてみることすら拒否するものです。その常識を否定するような言説には、その反論の根拠を示さず感情的に反応してしまうのが人間の習性でしょう。科学的思考は、そこの感情の問題を排し、判断を一旦括弧に入れて、まず証拠を集めて議論をつくした上で結論を出すという態度でしょう。これには多少のトレーニングが必要です。
科学は方法的懐疑に基づき、常識を疑うところから出発して、世の中をできるだけ統一的な理論によって理解しようとする活動のはずで、本来、感情的な反発というものは入り込むべきものではないのですが、結局、人間は感情の動物です。人間の行動は理性よりも感情に支配されています。それを理解した上で、デカルトは「感情の問題」を切り離し、理性によって真実を見ようとしました。懐疑するのはあくまで単なる方法上の手段であって、「ウソだ、信じたくない」という感情に立ってしまっては、科学になりません。このSTAP論文のレビューでも「この論文は過去の先人の努力と知識を冒涜するものだ」とかいうコメントを書いたレビューアもいたそうです。仮にも科学者であれば、レビューにこのような感情的なコメントを書くことを恥ずかしいと思うべきだと私思います。われわれは科学という「ゲーム」をしているのですから、守るべきルールがあります。
インターネットの匿名の科学フォーラムなどを見ると、論点から離れて、感情的に根拠もなく議論の相手を貶めるようなコメントが平気で書き散らされているのをかなりの頻度で目にして、毒気にあてられます。昔から、私は、このように論理的な根拠も示さずに感情的に相手を攻撃したり侮辱したりする非生産的で有害な行動をとる人々の心理は何なのだろうか、と不思議に思っていました。相手の話を聞きたくないならそのフォーラムから出て行けばいいだけのいい話で、わざわざ自分の時間を費やして、有害無益ななコメントを書く必要はありません。多分、自分の優越性を示したいというエゴなのでしょう。いずれにせよ、科学者も人の子、科学においてさえ、感情の問題を切り離すことはなかなか難しいということでしょう。STAP論文の顛末に関しては、経過を見守りましょう。