今月になってから、数人の知らない若者から研究室に来たいというメールをもらいました。残念ながら、来年以降の研究費を確保できる保障がないので、断らざるを得ません。今一緒にやってくれている人たちは、私の研究に興味があったからというわけではなく、なんとなく成り行きで来てくれたという感じで、私もこれまで研究員の人を正式に募集したことはありません。そんなこんなで、ずっと零細研究室で自転車操業でこれまできました。大学院をちゃんと出た若者(だいたい私自身、医学部で学位をもらった、いわゆる「なんちゃって博士」です)が私の研究室に興味を持ってくれるというのは、想像するに、世間の環境が世知辛くなって、私の研究室のようなレベルでもいいか、と希望レベルが下がったのだろうと思います。研究者を目指す若者にとって、将来のことを考えたら、一流の研究室に入り込むことは大変重要です。とある有名研究室からその後独立した人は、その研究室の無給のポスドクのポジションを求めて数年待つポスドクの人も珍しくなかったと言っていました。二流研究室から始めることは、色々な意味でレバレッジがないので、一から十まで自力で頑張るしかありません。論文というプロダクトの面から見れば、大変、効率が悪く、またポジションも研究費も論文次第という現状から考えると、将来にわたってずっと苦労することになります。逆に言えば、そういう環境で生き残れれば、色んな意味で実力はつくとは言えます。ただ、その実力が役に立つかはわかりません。
STAP論文の話、忘れるつもりでしたが、どうも内部に近いバイオインフォーマティシャンの人が、Natureの論文にリンクされたChIP-seqのinput dataを解析して、STAPだと言っている細胞のゲノムDNAは元になったマウスの細胞のゲノムとは異なっており、単純なサンプルの取り間違えなどでなければ、STAP細胞といういうもの自体が存在しないのではないか、という主張しているのを知りました。このウェッブサイトで示されているデータを私はよく理解できないのですが、どうも、Illumina sequencerで読んだゲノムのリードのマッピングのパターンが、もとの細胞とSTAPでは異なるのに、STAPとESでは酷似している、と言っているようです。私は思うに、ゲノムのシークエンスのリードマッピングのパターンが異なるというのは、STAPのソースがもとの細胞ではない、ということを示しているというよりは、ChIPの際のDNA断片化のされ方やライブラリー作成時のバイアスがもとの細胞とSTAPでは異なるというテクニカルな問題の話ではないかと思うのですが。もとの細胞とリプログラミングされた細胞ではクロマチン構造が異なるでしょうから、DNA断片化のされ方も異なり、よってシークエンスリードの種類も異なるという可能性があると思うのですが、誰か解説してもらえませんか。またこのサイトでは、あと二つの証拠を出して、STAPとされている細胞はもとの細胞と異なる可能性が論じてあります。一つはコピーナンバーの遺伝子多型(CNV)をゲノムシークンスのリードから推測して、そのパターンを比較するという方法で、この解析では確かにSTAPともとの細胞は異なっているように見えます。(しかし、シークエンスリードからCNV多型を推測するというやりかたは一般的に認められたものではないので、どれほど信頼できるのか、私には判断できません)もう一つは、Oct4周辺のリードマッピングの差を示しています。このデータも私はどう解釈するのかよくわかりませんが、このブログ著者の人の解釈では、もとの細胞はOct4の遺伝子座にGFPが存在しているが、それから作ったはずのSTAP細胞のOct4にはGFPが入っていない、と言っているようです。一方、STAP細胞にはGFPのシークエンスがあったことから、STAP細胞と論文で呼ばれているものは、GFPのトランスジェニック細胞ではあるが、Oct4-GFPではなく、おそらく対照実験につかわれたCAG-GFPが入っているESと同一の細胞ではないか、と推測されています。
私は、このサイトに示されたデータを正しく理解することができませんから、この人の結論、「STAP細胞が存在しない」ということが正しいかどうか、わかりません。しかし、もしこの理論が正しいとすると、おそらく、若山さんが作ったキメラに使われた細胞は、胎盤にも多少分化するES(過去に理研が胎盤にも寄与できるES株を作ったという話を聞いたことがあります)であろうということになります。もしこれらが全て同じCAG-GFPトランスジェニックから作られたものであれば、若山さんが持っている細胞を調べても鑑別は困難かも知れません。
これまでわかった数々のこの人の不正の手口を見ると、STAP細胞そのものがでっち上げだったというのもあり得えない話ではないと思います。それにしても、このようなすぐにバレるような研究不正を平気でやってしまう人の精神病理の不思議を思わざるを得ませんでした。
(もっとも、精神病と言えば、アベ政権の方がもっと病んでいますが)
捏造なら捏造でウソでした、で終わりですが、もうちょっとタチの悪いのもあります。「捏造のようで捏造でない、本当のようで本当でない、それは何かと尋ねたら、、、、ベンベン」みたいな論文を量産する研究室があって、その研究室のしばらく前のCellに掲載された論文がこの間の内輪の会で、話題にのぼりました。ある骨由来の物質を欠くマウスは脳の発生と行動に異常をきたし、その物質の投与によってそれが改善されるという話です。過去にこのグループの話を真に受けて、人々が何度も迷惑したのを私は覚えているので、私はこの論文は読んでいませんでした。ただ、話題にのぼったので話をよく聞いてみると、認められたマウスの脳発生の異常というのは、そもそも実験に使われている系統のネズミでは、普通、7割で認められる異常でなのした。つまりこの研究は、もともと特殊な脳発生の異常と行動異常のあるマウスを使って、研究対象の遺伝子のその脳発生異常への影響を調べた、ということになります。いくらコントロールを取っているとはいっても、もうそれだけでもうアウトでしょう。多分、この研究室では研究者としてのSloppyさとDogmaticであることが相乗的に働いてしまって、このようないい加減な論文がでてしまうことになるのでしょう。この研究室、一度はNatureのフロントページで随分、叩かれたのに懲りないのだなあ、と思いました。ただ、彼らは捏造はしないのです。都合の良いデータだけを選択して話を作り上げるので、データが信用できないだけのことです。それだけに余計、タチが悪いのです。
STAP論文の話、忘れるつもりでしたが、どうも内部に近いバイオインフォーマティシャンの人が、Natureの論文にリンクされたChIP-seqのinput dataを解析して、STAPだと言っている細胞のゲノムDNAは元になったマウスの細胞のゲノムとは異なっており、単純なサンプルの取り間違えなどでなければ、STAP細胞といういうもの自体が存在しないのではないか、という主張しているのを知りました。このウェッブサイトで示されているデータを私はよく理解できないのですが、どうも、Illumina sequencerで読んだゲノムのリードのマッピングのパターンが、もとの細胞とSTAPでは異なるのに、STAPとESでは酷似している、と言っているようです。私は思うに、ゲノムのシークエンスのリードマッピングのパターンが異なるというのは、STAPのソースがもとの細胞ではない、ということを示しているというよりは、ChIPの際のDNA断片化のされ方やライブラリー作成時のバイアスがもとの細胞とSTAPでは異なるというテクニカルな問題の話ではないかと思うのですが。もとの細胞とリプログラミングされた細胞ではクロマチン構造が異なるでしょうから、DNA断片化のされ方も異なり、よってシークエンスリードの種類も異なるという可能性があると思うのですが、誰か解説してもらえませんか。またこのサイトでは、あと二つの証拠を出して、STAPとされている細胞はもとの細胞と異なる可能性が論じてあります。一つはコピーナンバーの遺伝子多型(CNV)をゲノムシークンスのリードから推測して、そのパターンを比較するという方法で、この解析では確かにSTAPともとの細胞は異なっているように見えます。(しかし、シークエンスリードからCNV多型を推測するというやりかたは一般的に認められたものではないので、どれほど信頼できるのか、私には判断できません)もう一つは、Oct4周辺のリードマッピングの差を示しています。このデータも私はどう解釈するのかよくわかりませんが、このブログ著者の人の解釈では、もとの細胞はOct4の遺伝子座にGFPが存在しているが、それから作ったはずのSTAP細胞のOct4にはGFPが入っていない、と言っているようです。一方、STAP細胞にはGFPのシークエンスがあったことから、STAP細胞と論文で呼ばれているものは、GFPのトランスジェニック細胞ではあるが、Oct4-GFPではなく、おそらく対照実験につかわれたCAG-GFPが入っているESと同一の細胞ではないか、と推測されています。
私は、このサイトに示されたデータを正しく理解することができませんから、この人の結論、「STAP細胞が存在しない」ということが正しいかどうか、わかりません。しかし、もしこの理論が正しいとすると、おそらく、若山さんが作ったキメラに使われた細胞は、胎盤にも多少分化するES(過去に理研が胎盤にも寄与できるES株を作ったという話を聞いたことがあります)であろうということになります。もしこれらが全て同じCAG-GFPトランスジェニックから作られたものであれば、若山さんが持っている細胞を調べても鑑別は困難かも知れません。
これまでわかった数々のこの人の不正の手口を見ると、STAP細胞そのものがでっち上げだったというのもあり得えない話ではないと思います。それにしても、このようなすぐにバレるような研究不正を平気でやってしまう人の精神病理の不思議を思わざるを得ませんでした。
(もっとも、精神病と言えば、アベ政権の方がもっと病んでいますが)
捏造なら捏造でウソでした、で終わりですが、もうちょっとタチの悪いのもあります。「捏造のようで捏造でない、本当のようで本当でない、それは何かと尋ねたら、、、、ベンベン」みたいな論文を量産する研究室があって、その研究室のしばらく前のCellに掲載された論文がこの間の内輪の会で、話題にのぼりました。ある骨由来の物質を欠くマウスは脳の発生と行動に異常をきたし、その物質の投与によってそれが改善されるという話です。過去にこのグループの話を真に受けて、人々が何度も迷惑したのを私は覚えているので、私はこの論文は読んでいませんでした。ただ、話題にのぼったので話をよく聞いてみると、認められたマウスの脳発生の異常というのは、そもそも実験に使われている系統のネズミでは、普通、7割で認められる異常でなのした。つまりこの研究は、もともと特殊な脳発生の異常と行動異常のあるマウスを使って、研究対象の遺伝子のその脳発生異常への影響を調べた、ということになります。いくらコントロールを取っているとはいっても、もうそれだけでもうアウトでしょう。多分、この研究室では研究者としてのSloppyさとDogmaticであることが相乗的に働いてしまって、このようないい加減な論文がでてしまうことになるのでしょう。この研究室、一度はNatureのフロントページで随分、叩かれたのに懲りないのだなあ、と思いました。ただ、彼らは捏造はしないのです。都合の良いデータだけを選択して話を作り上げるので、データが信用できないだけのことです。それだけに余計、タチが悪いのです。