百醜千拙草

何とかやっています

JCBの新戦略

2016-05-27 | Weblog
月日の経つのは早いもので、日本の科学会を揺るがしたSTAPスキャンダルからすでに2年余り。久しぶりにKnoepflerのStem Cell blogを覗いたら、Oさん、「STAP HOPE PAGE」とかいうWebsiteを立ち上げたという話題がありました。そのWebsiteに示されているSTAPがあるという「証拠」のデータが余りに説得力がない、と切り捨てています。去年のNatureのSTAP否定論文で正式にケリがついて、もうまともな研究者は誰も相手にしないというのに、何のためにやっているのだろう、と不思議に思っておりましたが、どうやら、世間には彼女のファンらしい人々がいるのです。しばらく前に出たOさんの手記のアマゾンの書評を見てみました。評価が最高と最低に分かれており、中間がほとんどありません。最低評価を付けている人はどうも多くが研究と科学が理解できる業界関係の人々、一方、5つ星を付けている人は、多くが研究業界の内情を知らない一般の人のようですが、その一般の人の多くの人が、どうも「Oさんは、ステムセル利権争いに利用されて捨てられた被害者であり、本当の黒幕は別にいる」という陰謀論を信じており、すべての現象をそれによって説明したいという願望があるようです。ある人は「この本で真実がわかりました」というようなコメントを書いていて、思わずのけぞりました。嘘のかたまりのようなこの論文を書いた本人の手記でどうやって真実がわかるのでしょうか。昔のアステアの歌、「俺が生まれてこのかたずっと嘘つきだったことを知っているくせに、どうしてお前は、愛していると言った言葉は信じられたんだ?」を思い出しました。

また、彼らは科学的な内容を十分に判断はできないにもかかわらず、専門家は常に彼らを騙そうとしているので専門家の言うことは信用できないとも信じているようです。先日、ファンの恨みを買って刺されるという事件があったこともあり、私、ちょっと怖くなりました。これはもう「信仰」の問題であって、事実の解釈を科学的に議論しようとしても、信者の人とは会話は成り立ちません。なるほどファンというものは宗教の信者であって、信仰の前には膨大な客観的事実も取るに足らない瑣末事ものなのだ、と納得した次第です。触らぬ神に祟りなし、もうこの話題には近寄りません。

話変わって、JCBからの広告メール。かつての細胞生物の最高峰の一つ、JCBも南下傾向の昨今、最初の投稿分はJCBのフォーマットにしなくてもよい、とい新しいポリシーを発動させたようです。BioRxivと連動し、BioRxivに発表した論文をそのまま、JCBに投稿できるらしいです。
現在のところ、bioRxivに出ている論文は、あまりクオリティーのよくないものが多いような感じで、普通のレビュー付きのジャーナルに通すのは厳しいといういうよな仕事をとりあえず発表したいという人が利用しているという印象です。しかし、こうした有名雑誌と組むことで、質が上がっていく可能性がありますね。
JCBの思惑は、多分、他のジャーナルと同じでしょう。NatureやCellから系列雑誌を順番に落ちてきたぐらいの比較的高品質の論文をすくい取るという目的でしょうね。ジャーナルのトップ集団から脱落しつつあるとJCB自身が感じているような様子です。果たして、どうなるのでしょうか。かつての憧れの雑誌がその人気を失っていくのを見るには寂しいものですね。しかし、世に変わらぬものはありません。雑誌も研究者も常に世の中に沿って変化することによって、自分というものを保っていく必要があります。随処に主となれば立処皆真なり、変わることによって変わらぬ価値を維持していく努力をしないといけない、と新ためて感じた次第です。
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