研究費申請書の準備、学会準備、論文の投稿とレビューなどが重なり、ちょっと世間から離れております。
私は、昔は心配性で、何か予定があるとそのことが気になって目先のことに集中できないようなタイプでしたが、最近は引き受けたものをギリギリまでホッタラカシにすることにあまりストレスを感じなくなってしまいました。そうなると仕事はどうしても雑になるわけです。しかし、量はとりあえず、こなせます。
私の場合、質と量を秤にかけて、総合的にどちらがより生産的かを見てみますと、多少の完成度は犠牲にしても数をこなした方が良いという結論に達しました。これは人によると思います。基礎研究者の最終プロダクトといえば、とりあえずは論文かと思います。研究をまとめて論文に発表するという点に関していえば、超一流で研究資金に不安のない人で、どうやっても論文は出るという立場の人、あるいは独立を狙っているポスドクの人なら数よりも質でしょう。しかし、私レベルではパーフェクトの論文を1本だす手間を二つに割いて、7割の完成度のものを二本出して、残った3割を後に別の小さな論文に譲る(もしくは追求しない)という戦略でいかないと、生産性を疑問視されて研究費の申請が通りません。私レベルでは責任著者の論文を、1.5流雑誌に数年に一本、その下の専門分野の雑誌に一年一本ラインをキープしていかないと(と言ってもそれでも、現在の小規模勢力では厳しいのですが)数年後にはまた廃業の危機です。だいたい今や、技術も飽和し、手軽にやれることはやり尽くされつつある訳で、そう簡単にそこそこのレベルの論文になりそうなネタは見つかりませんから、一本の当たりを引くために複数の小さな研究を常に同時進行させて見込みのありそうなものを拾い上げていくという地道な活動をやらざるをえません。そういう点からもとにかく量をこなすことが必要です。
ま、そんな自転車操業を繰り返しているうちにツジツマを合わせるのはうまくなりました。
そんな感じで日々、あがいておるわけですが、それでも雑用はやってきます。それをヒョイヒョイと、右から左へと受け流す、という達人のレベルにはまだまだ達しません。受けるだけ受けて単に忘れてしまい、期限が迫ってきてから気がついて慌てるということにしばしばなります。明日の論文紹介の当番に当たっていることは数日前にお知らせが来ました。例によって気軽に引き受けて忘れていました。適当な論文を探しているヒマもないので、自分の研究に絡んでちょっと前に読んだSicenceのmitochondria病のマウスを低酸素で治療するという論文を読むことにしました。インド系アメリカ人の著者は気鋭の中堅、十年ほど前に、彼が開発したマイクロアレイのデータからどの転写因子が動いているかを予測するコンピューターアルゴリズムを使わせてもらったことがあったので、彼の名前は知っていました。しかし、Sicenceに二週連続で論文掲載というのはシブいですな。
ストーリーが単純なので発表はラクできそうだと思ったのですが、そもそもmitochondriaの異常がどうしてあのような多彩な症状につながるのかという分子メカニズムは必ずしも明らかでないようなようです。ATPの産生効率の低下とReactive Oxygen Spiecesの産生過剰、が起こるのでしょうが、そこから病気の発症までの道のりは必ずしも詰められているわけではありません。この論文ではGenome-wide CRISPR KO (GeCKO) スクリーニングで、新たな疾病に影響する遺伝子を同定し、Hif1aの安定化がmitochondria病のモデルの症状を改善することを細胞と動物レベルで示しています。人ごとながら、キレイにCRISPR KOスクリーニングが効いてヒットが見つかったのは、幸運としか言いようがありません。ひょっとしたら、他のスクリーニングで散々ハズした挙句にようやく当たった努力の成果なのかも知れませんが。ま、優秀な研究者は「運」もいいので、普通ならスクリーンニングプロジェクトのような山師的研究は9割以上ハズレに終わるものが、こういうレベルの研究者は5割ぐらいでアタリを引いたりします。
また、mitochondria病の世界も広くて深く、結構、競争も激しい世界のようです。そこで頭一つ抜け出すためには、研究成果に加えて、そのPRが重要な役割を果たしていると私は思います。雑誌のフロントページや新聞で取り上げてもらったり、学会で目立つ、などなど、すなわちコネですな。そうしたものを利用して研究の内容に加えて、研究者の「評判」を高めていくのです。品質に加えてブランド。名前が売れているからこそ、より高値で売れるのはこの業界でも同じでしょう。その研究者ブランドをどうやって確立していくのか、このあたり、ツイている研究者とフツーの研究者の違いが生まれてくるメカニズムも研究すれば、何らかの法則が見つかるのではないかと思うのですが。
私は、無印良品を目指しております。
私は、昔は心配性で、何か予定があるとそのことが気になって目先のことに集中できないようなタイプでしたが、最近は引き受けたものをギリギリまでホッタラカシにすることにあまりストレスを感じなくなってしまいました。そうなると仕事はどうしても雑になるわけです。しかし、量はとりあえず、こなせます。
私の場合、質と量を秤にかけて、総合的にどちらがより生産的かを見てみますと、多少の完成度は犠牲にしても数をこなした方が良いという結論に達しました。これは人によると思います。基礎研究者の最終プロダクトといえば、とりあえずは論文かと思います。研究をまとめて論文に発表するという点に関していえば、超一流で研究資金に不安のない人で、どうやっても論文は出るという立場の人、あるいは独立を狙っているポスドクの人なら数よりも質でしょう。しかし、私レベルではパーフェクトの論文を1本だす手間を二つに割いて、7割の完成度のものを二本出して、残った3割を後に別の小さな論文に譲る(もしくは追求しない)という戦略でいかないと、生産性を疑問視されて研究費の申請が通りません。私レベルでは責任著者の論文を、1.5流雑誌に数年に一本、その下の専門分野の雑誌に一年一本ラインをキープしていかないと(と言ってもそれでも、現在の小規模勢力では厳しいのですが)数年後にはまた廃業の危機です。だいたい今や、技術も飽和し、手軽にやれることはやり尽くされつつある訳で、そう簡単にそこそこのレベルの論文になりそうなネタは見つかりませんから、一本の当たりを引くために複数の小さな研究を常に同時進行させて見込みのありそうなものを拾い上げていくという地道な活動をやらざるをえません。そういう点からもとにかく量をこなすことが必要です。
ま、そんな自転車操業を繰り返しているうちにツジツマを合わせるのはうまくなりました。
そんな感じで日々、あがいておるわけですが、それでも雑用はやってきます。それをヒョイヒョイと、右から左へと受け流す、という達人のレベルにはまだまだ達しません。受けるだけ受けて単に忘れてしまい、期限が迫ってきてから気がついて慌てるということにしばしばなります。明日の論文紹介の当番に当たっていることは数日前にお知らせが来ました。例によって気軽に引き受けて忘れていました。適当な論文を探しているヒマもないので、自分の研究に絡んでちょっと前に読んだSicenceのmitochondria病のマウスを低酸素で治療するという論文を読むことにしました。インド系アメリカ人の著者は気鋭の中堅、十年ほど前に、彼が開発したマイクロアレイのデータからどの転写因子が動いているかを予測するコンピューターアルゴリズムを使わせてもらったことがあったので、彼の名前は知っていました。しかし、Sicenceに二週連続で論文掲載というのはシブいですな。
ストーリーが単純なので発表はラクできそうだと思ったのですが、そもそもmitochondriaの異常がどうしてあのような多彩な症状につながるのかという分子メカニズムは必ずしも明らかでないようなようです。ATPの産生効率の低下とReactive Oxygen Spiecesの産生過剰、が起こるのでしょうが、そこから病気の発症までの道のりは必ずしも詰められているわけではありません。この論文ではGenome-wide CRISPR KO (GeCKO) スクリーニングで、新たな疾病に影響する遺伝子を同定し、Hif1aの安定化がmitochondria病のモデルの症状を改善することを細胞と動物レベルで示しています。人ごとながら、キレイにCRISPR KOスクリーニングが効いてヒットが見つかったのは、幸運としか言いようがありません。ひょっとしたら、他のスクリーニングで散々ハズした挙句にようやく当たった努力の成果なのかも知れませんが。ま、優秀な研究者は「運」もいいので、普通ならスクリーンニングプロジェクトのような山師的研究は9割以上ハズレに終わるものが、こういうレベルの研究者は5割ぐらいでアタリを引いたりします。
また、mitochondria病の世界も広くて深く、結構、競争も激しい世界のようです。そこで頭一つ抜け出すためには、研究成果に加えて、そのPRが重要な役割を果たしていると私は思います。雑誌のフロントページや新聞で取り上げてもらったり、学会で目立つ、などなど、すなわちコネですな。そうしたものを利用して研究の内容に加えて、研究者の「評判」を高めていくのです。品質に加えてブランド。名前が売れているからこそ、より高値で売れるのはこの業界でも同じでしょう。その研究者ブランドをどうやって確立していくのか、このあたり、ツイている研究者とフツーの研究者の違いが生まれてくるメカニズムも研究すれば、何らかの法則が見つかるのではないかと思うのですが。
私は、無印良品を目指しております。