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被災地に、いま必要なもの

2011年06月01日 | 日々是雑感
新潮45 2011年 06月号 [雑誌]
特集 震災後をどう生きる
新潮社

「SNSけいはんな」という地域限定のSNSがある。「けいはんな地域SNS研究会」が母体となって、07年にスタートした無料の会員制サービスである。なおSNS(Social Networking Service)とは、mixiのような会員制のWebサービス(日記、掲示板、メールなど)のことである。

知人のFさん(建築学が専門の大学教授)が、このSNSけいはんなの「日記」に《岩手の被災地を一日がかりで案内していただいた遠野市のSさんと電話で話した。なんと小一時間話し込んだ。話したいことがいっぱいある、お互いに。以下その要約》として、Sさんと電話で交わされたお話を要約して書かれていた。「勘違いがあるかも…」とのことだが、承諾をいただいたので、被災地の貴重な声として、ここで紹介する。日記のタイトルは「被災地に今必要なもの」。

復興と言われてもピンとこない。元気が出ない。まず必要なもの、今は仕事、雇用だ。その見通しだ。それがあれば、元気が出て希望が持てる。希望が持てる支援、それには仕事につながる経済活動の展望。

仮設住宅をいくら作っても、仕事がなければ、もしあったとしても職場に通えなければ、入居できない。子供の学校、買い物をする店…何もない山の中では住めない。遠い山の中に仮設住宅を建てている。

仮設住宅の入り手が少ないようなので、県も建設戸数を減らしている。かろうじて仮設住宅に住んで、生きていけるのは年金生活者の高齢者だけだろう。しかしそれも、支えてくれる近所の人が全然いないところでは住めない。元の集落では、高齢者を隣のお母さんが面倒みていたなんて話はいっぱいある。

気仙は一つのコミュニティという説もあるが、元の集落単位にこだわる人々は多い。(注:気仙とは、旧気仙郡の陸前高田市・大船渡市・住田町のこと。当地は大きなコミュニティといえるので、集落単位ではなく、個人単位のくじ引きでバラバラに仮設住宅に入居しても構わないといわれるが、やはり元の集落単位にこだわる人は多い。)
なので、元の集落の近くに仮設住宅にしては緊急的な、いわば仮設の仮設を作ったところがあるが、これはニーズがある。

仕事が無いと若い世代(注:高齢者ではない世代)は元の町をでて、仕事がある町に行く。東京とか。

会社そのものがなくなっている人が多い。数人を雇っていたような会社は、これを機に辞める人がたくさん出てくるだろう。人がいなくなると、陸前高田市が陸前高田村になる。市が、町が、村が成り立たなくなる。社会が崩れる。

大工は大工道具も、車も、作業所もない。色々全部そろわないと仕事にならない。建築士にも 直す仕事はいっぱいある(注:しかし、おカネはすぐには入ってこない)。

漁師の場合、漁船が残り、魚をとることはできたとしても、市場がない。売る場所、仕組みがない。イオンの社長は魚を買ってくれると言っている。こんな話は元気が出る。まず漁業、農業など一次産業を再生することが大事だろう。

被災地の更地になったところを、国がまとめて買い上げ、只で貸すから大きな工場とか会社をやるところは手をあげてというコンペはどうか。被災地に芸術家村を作るなんてのはどうだろう。元気が出る、そんな提案が欲しい。

いかがだろう。現地の生の声とは、こういうものなのだ。仕事(雇用)については、様々に報道されてきた。MSN産経ニュース(5/24付)「被災者の雇用にミスマッチの壁」には《東日本大震災の被災地で雇用の“ミスマッチ”が出てきた。首都圏などで被災者を雇用しようと名乗りを上げる企業は後を絶たないが、求職者が地元志向を強めているためだ。被災者には深刻な傷痕が残る地元を離れることへの抵抗感もあり、被災者雇用の難しさを浮き彫りにしている》。

《日本総合研究所の山田久主席研究員は「震災が奪ったのは単なる働き口ではなく、職場というコミュニティー。県外に就職先があっても、コミュニティーがないと不安になる」と語る》《山田氏は「ハローワークをはじめ、求職の入り口が個別対応であることの限界が、震災で浮き彫りになった。企業と地域全体のマッチングなどを自治体などが積極的に行う必要がある」と話している》。

仮設住宅については、宮古市などで地区丸ごとの入居を推進している。岩手日報WebNews(5/30付)「抽選せず地区ごと入居推進 仮設住宅で宮古市」によると《同市の特徴の一つは街区公園(児童公園)への建設だ。今月26日現在、63カ所のうち街中の公園が約20カ所を占める。多くが1カ所に10~20世帯。仮設住宅が立っている間は公園機能を休止する。公園活用は、高齢者の孤独死などが問題になった阪神大震災を教訓に「コミュニティーの維持・形成への配慮」を重視するからだ》。

《市が掲げる原則は▽地域一括▽被災地近接▽世代間融合▽通学の利便―など。孤独を感じることなく安心で快適に暮らしてもらうため、可能な限り被災前の住居近くで地区ごとに割り振る意向だ》《まだ完成と入居完了は6カ所422戸(26日現在)。市は抽選せず、被災者の希望地を基に入居意思を一件一件確認している。仮設住宅の全戸完成は7月中旬予定。市は「今後数年間の暮らしやすさを考えれば選定に時間を費やしたい。入居遅れへのご批判は覚悟している」(滝沢肇市建築住宅課長)と慎重に作業を進める》。

産業復興策としては、まずは一次産業だろうが、Sさんのお話にあった《被災地の更地になったところを、国がまとめて買い上げ、只で貸すから大きな工場とか会社をやるところは手をあげてというコンペはどうか》という提案は、検討に値する。新たなものづくりの拠点が東北に誕生するのだ。

上記Fさんの日記には、2人のSNSメンバーがコメントを寄せていた。《まず復興職場から、というのがよくわかります(テレビではそのあたり、あまり伝わってきません)》《年金生活者は(自分もそうだから分かるんだけど)、ぎりぎり安全に生きていける所ならどこでも「最低」生活は可能です。それらを超えてあるのは、今まで働き生活してきた「故郷意識」ですね。それを実質化するには、被災地域に早く「仕事を」、早く「安心・安全な生活を」です》。

テレビや新聞の断片的な報道ではピンと来なかった被災地の実態が、Sさんのお話で浮き彫りになった。被災地から離れた場所に住んでいる私たちにとって大切なことの1つは、被災地に「思いを致す」ことだ。日々、被災地のニュースのウエイトは少なくなり、こんな時に国会では、政局がらみの不信任騒動である。そんなことをやっている場合ではないだろう。

Fさん、現地の声を紹介してくださって、有難うございました。これからも、被災地に心を傾けてまいります。
※トップ画像は、Fさんご推薦の「新潮45」6月号
コメント (2)
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