tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

第5回なら観光サロン「記紀・万葉プロジェクト」

2011年06月06日 | 記紀・万葉
5/19(木)、第5回なら観光サロンを開催した。今回の演題は「記紀・万葉プロジェクト」だ。県の「記紀・万葉プロジェクト推進チーム会議」リーダーの谷垣裕子さん(たにがき・ひろこ 県観光局ならの魅力創造課 課長補佐)という最適の講師をお招きし、ご講話いただいた。同プロジェクト推進係のメンバーも、全員(谷垣さんを含めて4人)ご出席くださった。

現在このメンバーは、各地で同様の説明活動を展開されている。5/26付の奈良新聞「中南和の観光振興に 記紀・万葉プロジェクト 橿原で勉強会」によると《橿原市久米町の橿原商工会議所で25日、県が平城遷都1300年祭後の事業の柱の一つとして取り組む「記紀・万葉プロジェクト」についての勉強会が開かれた。同商工会議所観光部会や明日香村商工会、高取町商工会が連携して開催。各団体に参加する宿泊施設や飲食店などの関係者ら約30人が出席して意見交換した》。

《『古事記』『日本書紀』『万葉集』を切り口にしたプロジェクトの目指す方向性や、旅行商品の造成と雑誌等の掲載促進の取り組みについて説明した。谷垣課長補佐は「歴史や伝承を知った上で現地に立てば、古代そのままの風景が見えてくる」などと歴史素材を多角的に紹介した県ならではの魅力づくりを提示。産業振興策としては、記紀・万葉のエピソードを活用した奈良ブランドづくりを提案した。出席者からは「1300年祭後のプロジェクトとして期待している」「何かしらのブームをつくっていただきたい」などの意見があり、県と各団体が情報交換をして連携を図ることを確認した》。

今回のなら観光サロンも、同じ流れの勉強会となった。当日の内容に入る前に、県の「記紀・万葉プロジェクト基本構想」から、その趣旨を抜粋しておく。



《『古事記』『日本書紀』が編纂され、多くの万葉歌が詠われた奈良県。「記紀・万葉プロジェクト」は、これら記紀・万葉集に代表される奈良県特有の歴史素材を活用した行政施策を効果的に展開し、「本物の古代と出会い、本物を楽しめる奈良」を確立するための取組みである。すなわち、歴史情報の発信手法や味わい方の提案力を磨き、本県ならではの歴史素材の多角的な紹介を通じて、成功裏に閉幕した平城遷都1300 年祭がもたらした奈良への関心を持続させるとともに、さらに奈良の魅力を再発見して、県内外の人びとに発信していくプロジェクトである》。

《来たる平成24(2012)年は『古事記』が完成して1300 年、さらに平成32(2020)年は『日本書紀』が完成して1300 年という節目の年にあたる。奈良県では、この2 つの節目の年をつないで、平成24 年度から9 年のスパンに及ぶ長期のプロジェクトにより、「日本の原風景」を思い起こさせる本県ならではの存在感を内外に強くアピールしていきたいと考え、「記紀・万葉プロジェクト基本構想」を策定するものである》《本構想の策定にあたっては、平成22 年2 月、県庁内に「記紀・万葉プロジェクト検討委員会」という部局横断的な連携組織を結成し、1年間にわたり検討を重ねた。また、学識経験者や地元有識者に対する聞き取り調査を行い構想に反映した》。

《記紀・万葉集をはじめとする文献には、日本文化の源流につながる様々な記述があり、ゆかりの地は全国各地に存在する。それ故、「記紀・万葉プロジェクト」を端緒にして、奈良県のみならず日本列島の様々な地域の人びとの「自分たちの住む地域の魅力再発見」につながることを目指したい。皆が愛着を持ってふるさとのことを語るようになれば、日本はもっと豊かな国になるだろう。本プロジェクトの推進が、閉塞感漂う我が国を元気にするために本県として貢献できるものとなるよう取り組んでいきたい》。



計画では、2011年度の1年間は、準備期間と位置づけられている。《平成23(2011)年度は、県内外に対するシンポジウム・フォーラムの開催等の情報発信事業を中心として、有識者・研究者からの聞き取り調査等幅広い関連情報の収集と整理を進め、県が主体となって推進する「記紀・万葉」関連事業の方向性と考え方を確立する。併せて、奥深い情報の蓄積による本県の歴史的な強みを存分に引き出すための下地を醸成していく》。

なら観光サロンのメンバーは、直接・間接に「観光まちづくり」に携わる人がほとんどなので、意見交換するには最適の場である。参加者は過去最高の34人。どんな展開になるか、興味津々であった。

谷垣さんにご準備いただいた資料は、PowerPointのスライド24ページ分(A4で6ページに縮小印刷)、A3資料1枚およびA4資料1枚。すべてカラーで、とても見やすい資料だった。部屋が狭くて(出席者が多すぎて)プロジェクターが使えず、谷垣さんにはご不便をかけてしまった。
※当日の配布資料の一部は、「基礎知識集」にも掲載されている



いつもは30分の講話と10分程度の質疑応答で終わるのだが、今回は意見がたくさん出そうだったので、質疑応答(意見交換)には40分ほど時間をとった。まずは谷垣さんのご講話を、かいつまんで紹介する。
※写真撮影は吉田遊福さん、司会と記録はN先輩にお願いした。遊福さん、N先輩、有難うございました!

県下には記紀・万葉集はもちろん各地の民話や伝承などを含め、多くの歴史情報や素材があります。県ではポスト1300年祭の活動としてこれらを観光振興に役立てたいと考え、企画しています。ここに高取城国見櫓(やぐら)址から眺めた現在の藤原京跡周辺の写真があります。何も知らなければビュースポット、美しい風景と思うだけかもしれませんが、万葉集にある藤原宮を讃えた「御井(みい)の歌」を知れば、持統天皇の思いも、当時の感覚も鮮やかによみがえり同じ写真が違って見えてきます。感動も増えます。



記紀・万葉ゆかりの地は全国にあります。奈良県は島根県などと連携し、古事記完成1300年を契機に「本物の古代と出会い本物を楽しめる奈良」の実現をめざします。といっても平城遷都1300年祭のように、お金をかけて大きなイベントをしようというのではなく、各地にある素材や今までの情報を収集・整理し、市町村などに提供して、効果的に事業を展開する予定です。

2012年は古事記完成1300年ですが、日本書記完成1300年の2020年までは9年間あります。古事記・日本書紀に限らず毎年楽しめる何かをテーマとして企画を続けたいと思っています。本日は、行政や報道機関をはじめ、観光振興に関わるたくさんの方々がお集まりです。ここからは皆さまのご意見をお聞きしたいと思います。

Q.NPO法人の代表者・Tさん(奈良出身・東京在住)
NPOを主宰し、関東の学生を奈良に連れてきたりして活動展開しています。東京や島根など他府県との連携をどうされるのか。また、大学などへの働きかけはどうなっているのでしょうか。

A.島根県とは知事同士が話し合っています。島根は来年は(古事記1300年の)7月下旬から11月上旬頃まで「神話博しまね」を開催されますが、それと連動して奈良とリレーフォーラムやリレーシンポジウムなどが出来ないか、また「奈良と島根を結ぶ記紀・万葉の旅」の企画が出来ないかなどを検討しています。



Q.tetsudaからの質問
ご説明はとてもよく分かりましたが、内容が総花式で、何がメインイベントなのか的が絞れていないと感じました。これでは単なる「まるごと古代史」ですね。また、御霊(怨霊)伝説で有名な井上内親王を「女帝達の恋心」として紹介するのには、ムリがあると思います。古事記は難解ですが、かつて読売テレビの「ウェークアップ!」ではナギちゃん・ナミちゃん(イザナギ・イザナミ)というマスコット・キャラクターを作ってニュースの解説に使っていました。このような仕掛けも必要では。

A.奈良県として事業展開するのですから、県下全市町村を網羅した企画にしたいという思いがありました。これから県下各地で情報収集し、現代にも通じる恋物語などのエピソードを抽出していきます。また記紀・万葉だけでなく各地の民話や伝承もプラスすることで全市町村をカバーできますし、古事記の重層構造も見えてきます。

宇陀市菟田野地区には兄宇迦斯(えうかし)と弟宇迦斯(おとうかし)という兄弟の伝承があります。古事記では権力に従った弟(オトウカシ)が評価されていますが、兄をお祀りしているといわれる宇賀(うが)神社が現地にあり、地元では権力と戦って地元を守ろうとした兄の方も大切にしておられるとのお話もあります。古事記と伝承を組み合わせることで、より深い理解につながると思います。



Q.会社経営者・Yさん(兵庫県三田市在住)
三田市からの参加です。備長炭を使った商品などを企画・販売しています。記紀は難しいという思いがあります。あえて原文を読まなくても、口語訳で良いのではと思います。日本人にも難解な古事記ですが、県は事業展開の対象者を国内に限定してお考えですか、海外からの観光客は対象とされないのでしょうか。

A.残念ながら現状では、国内(日本人)限定です。海外までは手が回りません。読まれるのは口語訳でも、もちろんOKですが、記紀歌謡など、声に出して古事記を読み味わう手法がありまして、これがなかなか面白いものですよ。

以下、質問というより「意見」をお聞きした。

Q.県立高校教諭・Tさん
高校生に観光の授業をしています。中学生や高校生に記紀・万葉をどう教えていけばいいか、悩みます。



Q.NHK奈良放送局 放送部長の武中千里さん(第4回なら観光サロンの講師)
テレビ番組を作っています。誰でも美しい花やおいしい食べ物には興味があります。まずは「誰でも知っている分かりやすいもの」で攻めるべきでしょう。記紀・万葉のインデックス(索引簿)をつくることも必要です。例えば「藤」ならどんな歌や、どんな記述がどこに載っているか、など知りたいものです。それと、それらの情報が現代とどう関わるのか、「今日的な意義」などもポイントです(例:NHKの「万葉ラブストーリー」)。

Q.Fさん(南都古社寺研鑽会メンバー)
鳥取県出身、奈良女子大の3回生です。小・中・高校と授業では古事記や日本書紀のことを習ったことはありません。西暦何年に古事記が完成したとか太安麻呂が編纂したとかぐらいしか知識がありませんでした。今回の事業でいろいろのことが分かるのが楽しみです。

Q.Fさん(建築家)
古い町家の保存・修復などの仕事をしています。町家は、修復させることで古いものの価値をあげることが出来ます。記紀・万葉も、広く深く知ることで、日本の美しい文化の価値をあげていくことができます。このプロジェクトを応援します。

A.前向きのご支援のご意見が続き、感激です。頑張ります。



Q.Aさん(自営業)
小さなお店を開業しました。お店の名前は「旅とくらしの玉手箱 フルコト」と言います。「温故知新」で、奈良ゆかりの古き良きものを伝えたいと思います。

A.ご存知の通り古事記は「ふることぶみ」とも読みます。お話を伺うと、ホッとするようなぬくもりを感じるようなお店のようですね。頑張ってください。

Q.Kさん(東大阪市在住・奈良まほろばソムリエ)
ソムリエ友の会が発足し、6/11には総会が開催されます。記紀は難解だという思いがあります。果たして、一般市民の理解は得られるのでしょうか。若い人にはなじみがないかも知れませんが、我々の年代ですと記紀と聞くと皇紀2600年(昭和15年)、戦前の暗い時代のことを連想してしまいます。神話を描いた記紀は、戦後永らく敗戦の反省から封印されていました。今またこれを取り上げることに無理はないでしょうか。

Q.Yさん(元ホテルマン)
65歳ですが、私たちの年代でも記紀は学校では習っていません。難解なものは、視覚に訴えるようにして知らせることが大切だと思います。

A.本日は皆様から、数々の貴重なご意見をお伺いすることができ、感謝しています。今日のご意見を参考に、記紀・万葉プロジェクトがより良きものになるよう、進めてまいります。今後ともご支援をお願いします。


第5回観光サロンの様子は、ざっとこんな感じだった。エース級の人材を4人も投入するなど、県も相当力が入っている。ちょうど「月刊奈良」11年6月号に荒井知事へのインタビュー記事が出ていた。タイトルは「これからの奈良県 平城遷都1300年祭後の奈良県の未来について語る」だ。そこでも、話の中心は、記紀・万葉プロジェクトだ。《古事記、日本書紀は奈良時代のビッグドキュメントです。しかも日本最古のドキュメントです。この古事記、日本書紀をテーマにして、奈良の地域活性化を図るというのが、奈良県の戦略です。万葉集は、長い期間の歌を歌集にして編纂したものですから、少し記紀とは違います。味付け的な位置づけで良いと思います》。



《奈良県は、色々な立場の人に来てもらい、バランス良く理解できるように提示をすることが必要だと思います。古事記、日本書紀がどういうものかを分かりやすく提示できるように、いま県の職員は勉強を始めています。そして、既に、記紀に関するシンポジウムや、県民だよりに関連記事を載せたりする活動を始めています。日本の成り立ちの歴史について、人々の興味が体の奥から出てくれば、自然と意味が深まると思います》《奈良学というと、学者の世界に入ってしまう恐れがあります。そうではなくて、作家やジャーナリスト、一般の人たちに対して、どんなものかを分かりやすく情報提供することが大事です》。

「人物に焦点をあててプロジェクトを進めるという企画があるようですが」という質問に対しては《当時の人物を語り部として選ぼうということです。語り部としては、古事記の完成(712年)に尽力した太安万侶が最適ではないかと思います。「私はこういう理由で作りました」と語らせるのは興味深い。あと、藤原家一族繁栄の基礎を築いた藤原不比等も陰の制作者であり語り部としては良いと思います》《「さてどういう風に書かれたのか」と改めて理解するのはとても面白いことです。それを奈良県として発信していきたい。そうすれば、地域への興味にもつながつていき、ポスト1300年祭の観光の基盤にもなるのではないでしょうか。地域とも連携して、地域にパワーを与えるきっかけとしたいのです》。

古事記 (岩波文庫)
倉野憲司 校注
岩波書店

平城遷都1300年祭と比べて、記紀・万葉プロジェクトに「分かりにくさ」を感じるのは、私だけではないだろう。それは1300年祭の第一次大極殿やせんとくんなど、目に訴えるものがないからだ。おカネをかける必要はないが、例えば豪族の居館(復原)やマスコットキャラクターなどの「ビジュアル」が必要だ。以前、地元の有志が郡山城の天守閣を発泡スチロールで再現したが、知恵を絞れば、できることも多いはずだ。

私はこれから岩波文庫版をテキストに、古事記を勉強しようと思っているところである。古事記が献上されたのは和銅5年正月28日(現在の暦で712年3月13日)。1300年後の同日まで、あと9か月である。ピッチを上げなければ…。                    

谷垣さん、記紀・万葉プロジェクト推進係の皆さん、有難うございました。県民こぞって、このプロジェクトを盛り上げてまいりましょう!
コメント (6)
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