「和食:日本人の伝統的な食文化」が本年(2013年)12月、ユネスコの「無形文化遺産」(世界遺産)に登録されたことを受けて、早くもこれにちなんだ講演の予約をいただいている。私は先回りして1年ほど前から準備を始め、12/21(土)には、NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」の2013年納会で、「食の文化史~祝!「和食」世界遺産登録」という40分の講話をさせていただいた。アンケート結果を見るとご好評いただいたようで、ホッとしている。今後はこれに手を入れて、通常(90分)の講話として、完成させていく予定である。
12/21の講話では「日本料理は6変化」として、日本の料理様式が①神饌料理(神さまに供えた)→②大饗料理(平安貴族の料理)→③本膳料理(武士の料理)→④精進料理(禅宗寺院で発達)→⑤懐石料理(=茶懐石。茶の湯で提供)→⑥会席料理(江戸時代。日本料理の完成形)と変化してきたことを示し、「正統派の日本料理は会席料理です」と強調した。しかし40分の講話では、それを写真などで詳しく説明する時間が取れなくて、とても残念だった。そこで以下、京都の竹茂楼(たけしげろう=美濃吉本店)でいただいた会席料理の写真をもとに、その全貌を紹介したい。
「竹茂楼」(京都市左京区粟田口鳥居町65)は、平安神宮の近くにある。地下鉄東西線の東山駅から徒歩5分。お訪ねしたのは12/15(日)、会社の先輩(OB)が作る「京都食べ歩き同好会」の第28回だった。いただいたのはお昼の会席料理(10,500円税込み・サ別)だった。紅葉も終わり、京都は静まりかえっていたが、この日は「大安」とあって、お店では平安神宮で式を挙げたカップルの披露宴が行われていた。静かにいただかなければ(しかし、やはり大宴会となってしまった)。Wikipedia「会席料理」によると、
この絵葉書は、当日名刺交換したN嬢(竹茂楼のチーフ・
ブライダルアドバイザー)から、礼状として送られてきたもの
会席料理は宴席に供される料理である。本膳料理が廃れた現在、日本料理に於いては、儀式などで出される最も正統な料理形式である。会席とはもともと連歌や俳諧の席のことであり、呼称の似た「懐石料理」と混同されがちだが、ルーツは同じであるものの、近世以降は明確に区別されている。
懐石料理は茶を楽しむためのものだが、会席料理は酒を楽しむためのものである。江戸時代には会席が料理茶屋で行われるようになり、酒席向きの料理が工夫されるようになった。会席料理の献立は、一汁三菜(吸い物・刺身・焼き物・煮物)が基本である。さらにお通し・揚げ物・蒸し物・和え物・酢の物などの酒肴が加えられ、最後に飯・味噌汁・香の物、水菓子となる。
伝統的な例
1.先付(さきづけ) ・・・ 前菜
2.椀物(わんもの) ・・・ 吸い物
3.向付(むこうづけ) ・・・ 刺身
4.鉢肴(はちざかな) ・・・ 焼き物
5.強肴(しいざかな) ・・・ 煮物
6.止め肴 ・・・ 原則として酢肴(酢の物)、または和え物
7.食事 ・・・ ご飯・止め椀(味噌汁)・香の物(漬物)
8.水菓子 ・・・果物
先付(オードブル)。レンコンは雪の結晶のように切ってあった
ご飯、止め椀、漬物は同時に供される。ただし上記以外にも油物(揚げ物)や蒸し物、鍋物が出ることがある。油物が供される場合には一般に強肴のあとである。飲み物は基本的に日本酒、または煎茶である。近年はほうじ茶やコーヒーが出されることもある。明治時代以降は肉も出される。シチューなどの洋食の皿が交えられたり、デザートとして洋菓子が供されたり、ご飯の代わりに蕎麦やうどんが出されることもあり、上記のような献立の流れに必ずしもとらわれるものではない。
吸い物(椀物)は、スッポンの真蒸(しんじょ=真薯)、舞茸、下仁田葱
鯛とヨコワの刺身
竹茂楼の献立は、写真の通りである。ベースとなる「一汁三菜」(吸い物・刺身・焼き物・煮物)は、スッポン・舞茸・下仁田葱の吸い物(椀物)、鯛とヨコワの刺身、ブリの味噌柚庵(ゆうあん)焼き、聖護院蕪仕立ての小鍋である。
揚げ海老芋、アナゴのうま煮
和食の世界で「椀刺(わんさし=椀差)」という。椀物と刺身のことで、一汁三菜の会席料理のなかでも、これが主役である。椀物の汁でその店の「命のダシ」のレベルを計り、刺身で素材の良さと包丁さばきを知るのである。竹茂楼の椀物(スッポンのしんじょ・舞茸・下仁田葱の吸い物)は汁も具も、驚くほどの美味しさだった。寒い日のスッポンは、誠に有り難い。刺身も、申し分ない。
ブリの味噌柚庵(ゆうあん)焼き
椀刺と、もう1つよく知られる言葉が「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」である。「割烹」といわれるが、刺身など食材を切り割いてそのまま食べる生もの(割)が主、煮たり焼いたりする料理(烹)は従、ということである。
聖護院蕪仕立ての小鍋
すると、日本料理→会席料理→一汁三菜→椀刺→刺身 という順番になる。料理道のことを「包丁道」などというが、やはり包丁さばきが問われる刺身がキーポイントになるのだ。
ウナギの蒲焼・湯葉あんかけ
この日のご飯ものは、ウナギの蒲焼・湯葉あんかけ、米は魚沼産コシヒカリであった。同席したYさんが「おお、このウナギはうまい!」といって、追加注文できるか聞いていた。仲居さんの回答は「1,000円でお出しできますが、30分以上お待ちいただきませんと…」とのことで、Yさんは諦めた。
紅茶(アールグレイ)のシャーベット、オレンジ、キウイ…
確かに竹茂楼のHPには《当亭名物 鰻蒲焼 「裂き3年、串打ち7年、焼き一生」といわれている当亭名物「鰻蒲焼」。 背開きにして裂いた後、竹串にて串打ちし、一度白焼きをしてから、鰻専用の蒸し器である、いわゆる「蒸篭」にて約30分蒸し上げた後、昔ながらの「秘伝のタレ」を用いて、炭火にて丹念に焼き上げたものでございます》とあった。蒸篭(せいろう)で蒸すのに30分かかるのだ。
わらび餅(温)と抹茶
デザートまで、すべていただいて、大満足・大満腹であった。和食の王様・会席料理の醍醐味と、竹茂楼の料理の腕前、そして店員さんの「お・も・て・な・し」すべてを堪能させていただいた。同行したTさんも、Facebookに《第28回『京都食べ歩き会』例会 美濃吉本店・竹茂楼に行って来ました。料理はとても美味しく、仲居さんの応対もすばらしく、大満足の1日でした》と書いておられた。
「和食:日本人の伝統的な食文化」の世界遺産登録で、来年も痩せるヒマがなさそうです!
12/21の講話では「日本料理は6変化」として、日本の料理様式が①神饌料理(神さまに供えた)→②大饗料理(平安貴族の料理)→③本膳料理(武士の料理)→④精進料理(禅宗寺院で発達)→⑤懐石料理(=茶懐石。茶の湯で提供)→⑥会席料理(江戸時代。日本料理の完成形)と変化してきたことを示し、「正統派の日本料理は会席料理です」と強調した。しかし40分の講話では、それを写真などで詳しく説明する時間が取れなくて、とても残念だった。そこで以下、京都の竹茂楼(たけしげろう=美濃吉本店)でいただいた会席料理の写真をもとに、その全貌を紹介したい。
「竹茂楼」(京都市左京区粟田口鳥居町65)は、平安神宮の近くにある。地下鉄東西線の東山駅から徒歩5分。お訪ねしたのは12/15(日)、会社の先輩(OB)が作る「京都食べ歩き同好会」の第28回だった。いただいたのはお昼の会席料理(10,500円税込み・サ別)だった。紅葉も終わり、京都は静まりかえっていたが、この日は「大安」とあって、お店では平安神宮で式を挙げたカップルの披露宴が行われていた。静かにいただかなければ(しかし、やはり大宴会となってしまった)。Wikipedia「会席料理」によると、
この絵葉書は、当日名刺交換したN嬢(竹茂楼のチーフ・
ブライダルアドバイザー)から、礼状として送られてきたもの
会席料理は宴席に供される料理である。本膳料理が廃れた現在、日本料理に於いては、儀式などで出される最も正統な料理形式である。会席とはもともと連歌や俳諧の席のことであり、呼称の似た「懐石料理」と混同されがちだが、ルーツは同じであるものの、近世以降は明確に区別されている。
懐石料理は茶を楽しむためのものだが、会席料理は酒を楽しむためのものである。江戸時代には会席が料理茶屋で行われるようになり、酒席向きの料理が工夫されるようになった。会席料理の献立は、一汁三菜(吸い物・刺身・焼き物・煮物)が基本である。さらにお通し・揚げ物・蒸し物・和え物・酢の物などの酒肴が加えられ、最後に飯・味噌汁・香の物、水菓子となる。
伝統的な例
1.先付(さきづけ) ・・・ 前菜
2.椀物(わんもの) ・・・ 吸い物
3.向付(むこうづけ) ・・・ 刺身
4.鉢肴(はちざかな) ・・・ 焼き物
5.強肴(しいざかな) ・・・ 煮物
6.止め肴 ・・・ 原則として酢肴(酢の物)、または和え物
7.食事 ・・・ ご飯・止め椀(味噌汁)・香の物(漬物)
8.水菓子 ・・・果物
先付(オードブル)。レンコンは雪の結晶のように切ってあった
ご飯、止め椀、漬物は同時に供される。ただし上記以外にも油物(揚げ物)や蒸し物、鍋物が出ることがある。油物が供される場合には一般に強肴のあとである。飲み物は基本的に日本酒、または煎茶である。近年はほうじ茶やコーヒーが出されることもある。明治時代以降は肉も出される。シチューなどの洋食の皿が交えられたり、デザートとして洋菓子が供されたり、ご飯の代わりに蕎麦やうどんが出されることもあり、上記のような献立の流れに必ずしもとらわれるものではない。
吸い物(椀物)は、スッポンの真蒸(しんじょ=真薯)、舞茸、下仁田葱
鯛とヨコワの刺身
竹茂楼の献立は、写真の通りである。ベースとなる「一汁三菜」(吸い物・刺身・焼き物・煮物)は、スッポン・舞茸・下仁田葱の吸い物(椀物)、鯛とヨコワの刺身、ブリの味噌柚庵(ゆうあん)焼き、聖護院蕪仕立ての小鍋である。
揚げ海老芋、アナゴのうま煮
和食の世界で「椀刺(わんさし=椀差)」という。椀物と刺身のことで、一汁三菜の会席料理のなかでも、これが主役である。椀物の汁でその店の「命のダシ」のレベルを計り、刺身で素材の良さと包丁さばきを知るのである。竹茂楼の椀物(スッポンのしんじょ・舞茸・下仁田葱の吸い物)は汁も具も、驚くほどの美味しさだった。寒い日のスッポンは、誠に有り難い。刺身も、申し分ない。
ブリの味噌柚庵(ゆうあん)焼き
椀刺と、もう1つよく知られる言葉が「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」である。「割烹」といわれるが、刺身など食材を切り割いてそのまま食べる生もの(割)が主、煮たり焼いたりする料理(烹)は従、ということである。
聖護院蕪仕立ての小鍋
すると、日本料理→会席料理→一汁三菜→椀刺→刺身 という順番になる。料理道のことを「包丁道」などというが、やはり包丁さばきが問われる刺身がキーポイントになるのだ。
ウナギの蒲焼・湯葉あんかけ
この日のご飯ものは、ウナギの蒲焼・湯葉あんかけ、米は魚沼産コシヒカリであった。同席したYさんが「おお、このウナギはうまい!」といって、追加注文できるか聞いていた。仲居さんの回答は「1,000円でお出しできますが、30分以上お待ちいただきませんと…」とのことで、Yさんは諦めた。
紅茶(アールグレイ)のシャーベット、オレンジ、キウイ…
確かに竹茂楼のHPには《当亭名物 鰻蒲焼 「裂き3年、串打ち7年、焼き一生」といわれている当亭名物「鰻蒲焼」。 背開きにして裂いた後、竹串にて串打ちし、一度白焼きをしてから、鰻専用の蒸し器である、いわゆる「蒸篭」にて約30分蒸し上げた後、昔ながらの「秘伝のタレ」を用いて、炭火にて丹念に焼き上げたものでございます》とあった。蒸篭(せいろう)で蒸すのに30分かかるのだ。
わらび餅(温)と抹茶
デザートまで、すべていただいて、大満足・大満腹であった。和食の王様・会席料理の醍醐味と、竹茂楼の料理の腕前、そして店員さんの「お・も・て・な・し」すべてを堪能させていただいた。同行したTさんも、Facebookに《第28回『京都食べ歩き会』例会 美濃吉本店・竹茂楼に行って来ました。料理はとても美味しく、仲居さんの応対もすばらしく、大満足の1日でした》と書いておられた。
「和食:日本人の伝統的な食文化」の世界遺産登録で、来年も痩せるヒマがなさそうです!