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大滝ダム地滑り問題、国の上告断念を望む

2011年07月15日 | 奈良にこだわる
川上村(奈良県吉野郡)に、「白屋(しらや)」という字面も美しい地区(大字)がある。『角川 日本地名大辞典(29)奈良県』によると《吉野川上流右岸に位置する。集落は標高400mの南向き斜面にある。白屋岳の山麓に白土を産する所があり、国栖紙の漂白剤として使用された。ここから流れ落ちる川が時々白濁したので、白谷といい、のち白矢に転じ、さらに白屋になったという(吉野郡資料)》《江戸中期から当地で産出する白土が紙に漉きこまれるようになり、そのため川上郷内では比較的「繁栄の村方」といわれた。延宝4年の家数35、うち本百姓18・水呑17、天保6年の家数105・人数458(川上村史資料編)》。
※トップ画像は、近畿地方整備局のホームページより拝借

7/14(木)、この村里をめぐるニュースが、全国を駆けめぐった。産経新聞(7/14付)によると《地滑り移転 国に賠償命令 奈良・大滝ダム 住民側が逆転勝訴 大阪高裁》《奈良県川上村の大滝ダムの試験貯水で地滑りが発生し、集団移転を強いられた同村白屋(しらや)地区の元住民12人が、国に約9千万円の国家賠償を求めた訴訟の控訴審判決が13日、大阪高裁であり、松本哲泓(てつおう)裁判長は請求を棄却した1審奈良地裁判決を変更し、国に約1200万円の賠償を命じた》。

《判決で松本裁判長は、着工前の地質調査で深さ70メートル付近に粘土層が見つかるなど、軟弱な地盤が確認されていた点を重視。「国は地滑りの危険性を予見できたのに、大滝ダムは安全性を欠いていた」と指摘した。その上で「住民は仮設住宅での不自由な生活を余儀なくされ、多大な精神的苦痛を受けた」と述べ、慰謝料などとして原告1人につき100万円の賠償を命じた。昨年3月の1審判決は国の安全対策の不備を認定する一方、「財産的損害はすでに補償を受けている」と慰謝料請求を退けたが、松本裁判長は「精神的損害は補填(ほてん)されていない」と判断した》。

《判決によると、大滝ダムでは平成15年3月に試験貯水が始まったが、直後から白屋地区内の各所に亀裂が発生し、全37世帯が仮設住宅に移転。その後、別地区や同県橿原市などに転居せざるを得なくなった。判決後に会見した原告の井上兼治さん(67)は「ふるさとを追われることほどつらいことはない。判決で少しは心が落ち着いた」と話し、国に上告断念を求めた。国土交通省近畿地方整備局の上総(かずさ)周平局長の話「国の主張が認められず残念。判決内容を慎重に検討し、関係機関と協議して対処したい」》。

2003年(平成15年)の試験湛水時には、私も見学に行った。巨大なダム湖に接した急斜面に張り付くように点在する白屋の家々や段々畑を眺め、即座に「これは危なっかしいなぁ」と感じた。不謹慎なたとえで恐縮あるが、若草山に家々が建ち並び、すぐ麓に満々と水を湛えた深い湖があるような具合なのである。斜面はあまりにも急だし、村落は湖面に近い。木を伐ってしまったので、湖までは全く無防備である。私なら、酔った勢いでダム湖に転げ落ちるかも知れない(若草山なら、フェンスや芝生が受け止めてくれるのだが)。何より、家自体がダム湖に滑り落ちそうに見えた。当時、国土交通省(旧建設省)は「地滑り対策は万全」と主張していたが、本当にそんなことが断言できるのだろうか。

果たして、直ちに問題が持ち上がった。Wikipedia「大滝ダム」によると《ダムは2002年(平成14年)に本体が完成し、試験湛水を行い2003年(平成15年)に完成する予定であった。しかし試験湛水中の4月25日、川上村白屋地区で斜面に亀裂が発見された。住民からの通報により国土交通省は直ちに計器類を設置するなど監視を行い、5月11日には試験湛水を中断した。だがその後も亀裂は拡大し、白屋地区では家屋に亀裂が入るなど深刻な状況となった。事態を重視した川上村・川上村議会・川上村議会ダム対策委員会は国土交通省に対し抜本的な対策を要望、7月には特に亀裂が深刻な6戸について仮設住宅への移転を開始した》。

《川上村の紀の川流域における地盤については、かねてから脆弱性が指摘されており、地滑りの危険性は1974年頃には既に金沢経済大学の吉岡金市や和田一雄らから問題提起されていた。実際に1967年には上流の大迫ダム建設地点で地滑りが発生しており、建設を強行しようとした農林省と川上村住民が小競り合いを起こしてもいた。建設省は地滑り対策について1999年(平成11年)に「貯水池斜面対策検討分科会」において深度50mまでのボーリング調査を行い、過去に地滑りを起こした形跡がない事、脆弱な地盤は範囲が狭いなどの検査結果を示した。これを基にして現在深度50mまでの地滑り域に対する恒久的地滑り対策を実施している。だが、公共事業の問題点追求を全国的に展開している「国土問題研究会」などは建設省(国土交通省)の対応について、地滑り危険度や地滑り対策の十分な検討を待たずに建設を急いだ事、亀裂が発生した後直ちに湛水を中止しなかった事などを厳しく非難している》。

地滑り防止工事などを手がける有限会社横井調査設計も、HPで問題点を指摘している。《大滝ダム「白屋地区」の地盤変動から何が読みとれるか 外帯の地質を知らない単純地すべり屋が行った失敗》《私は大滝ダム本体は勿論、「白屋」についても取り付け道路関連の法面以外、殆ど関係は持っていませんが、本体工事が始まった頃から、上流の関連工事の関係でしばしば国道169号を走ることになりました。その時、「白屋」を始め、大滝ダム湛水域の様子を、嫌でも眼にすることになります。その時、「こりゃこのダムは水を貯められん! … 水位が上がるとあちこちで地すべりが動き出すので、結局水は貯められないだろう」という印象を持ちました。ほんとにそうなっちゃたので、こっちの方が驚いた位です。但し、それが「白屋」とは思いませんでした。何故なら、「白屋」こそが、大滝ダムの象徴、国土交通省(旧建設省)が、面子を掛けて取り組んだ地すべり対策の筈だったからです。20年近い時間を費やした裁判、地区末端斜面を覆い尽くすばかりのアンカーの列、あれは一体何だったのでしょうか》。

上記の産経新聞で国交省は「国の主張が認められず残念。判決内容を慎重に検討し、関係機関と協議して対処したい」とコメントしているが、「協議」した末に上告するというのだろうか。原告を含め、村民は高齢化しているのだ。川上村は、奈良県下で初の限界集落(限界自治体)となった。こんな状況で、国はいつまで争うつもりなのだろう。1審判決だって「国の安全対策の不備を認定」しており、争点は「精神的損害」が補填されているか否かということだった。裁判が長引けば長引くほど原告の「精神的損害」が大きくなるのは、理の当然である。国交省は、潔く上告を断念すべきである。

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2 コメント

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無駄 (tenbou)
2011-07-16 21:42:18
無責任と無駄を絵にかいたような事業ですね
周辺住民の方々の苦悩が改めて分かるように思います
2006年8月に白屋岳に登ろうとして白屋に行きましたが 地滑りで登山道は通行禁止でした
止む無く武木林道から足ノ郷越に出て白屋岳の東斜面から登りました
春にはシャクナゲの美しい山ですが いまでも登山は禁止でしょう
あれからでももう5年以上になります
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失われた連帯 (tetsuda)
2011-07-17 05:24:58
tenbouさん、いつもお世話になっています。コメント有り難うございました。

> 無責任と無駄を絵にかいたような事業ですね
> 周辺住民の方々の苦悩が改めて分かるように思います

奈良新聞(7/14付)には《元住民らは林業やわずかな農地を耕し生計を立て、秋祭りには全員で地区の神社に豊作を感謝するなど、肩を寄せ合いながら暮らしてきた》《全37世帯77人が集団移転を迫られ、自宅も解体することに。プレハブの仮設住宅暮らしが3年半におよんだ後、元住民らは村内外へ散り散りに。連帯感あふれる共同体は失われた》とあります。伝統ある村落共同体が失われてしまい、それがお気の毒でなりません。

> 春にはシャクナゲの美しい山ですが いまでも登山は
> 禁止でしょう あれからでももう5年以上になります

シャクナゲの咲く山だったのですか。それはかえすがえすも残念です。
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