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空にいるような軽い気分で・・・

「オリバー・ツイスト」を観て思ったこと。(ネタばれ)

2008年04月12日 15時08分02秒 | テレビ・ネット・映画
少し前になるがテレビでポランスキー監督の映画「オリバー・ツイスト」を観た。この映画は何十年も前に別の監督作品のものを観た。ディッケンズの小説が映画化されたものを続けてやっていたのかも知れない。と言うのは、「二都物語」を同時期に観たからだ。こちらの方は、えらく感激して本を買い夢中で読んだ。しかし「オリバー・ツイスト」の方は、主人公オリバーが少年スリ集団を率いるフェイギンの住み家に行って、スリ技を披露されて驚くシーンあたりしか覚えていなかった。「二都物語」が圧倒的に印象深くて「オリバー・ツイスト」は影薄く本も読んでいない。

映画を観に行くことは久しくなくて、テレビでやる時に偶然観るという程度の映画好きでしかないけれど、ポランスキーの映画は昔たまたま映画館で「チャイナ・タウン」を観たことがあった。ジャック・ニコルソンが、チョイ役で出た監督に小鼻を切られるシーンとラストのシーンが忘れられない。望遠レンズで、大きな夕陽が撮られ、それに向かって行く車に銃が発射され、車がゆっくりと止まり、車内が映される・・・。

そして今回、そのポランスキーが監督をした「オリバー・ツイスト」をこれも又たまたまテレビでやると知って期待を持って観たのだ。正直なところ、莫大な制作費をかけたという時代考証のセットに一番感銘を受けた。下層階級、中層階級、そして、上流貴族階級の感じがよく解った。あれが当時のイギリス、そしてヨーロッパ・・・という感じでわたしの記憶回路にしっかりインプットされた。

作品としての感想はここで述べようとは思わない。「小公子」や「小公女」のような、あるいは、「安寿と厨子王」のようなものかな・・という印象だ。本を読まなければ、ディッケンズの書きたかった意図はあまり解らないだろうと思われるし、名作を映画化することはなかなか大変なんだろうな・・などという不遜な感想まで持ってしまった。

それより、以前の作品で記憶していたシーンがそっくりこの作品でも踏襲されていて、そこがやはり印象深かった。オリバーがロンドンに歩いて向かう途中で粗末な食事を振舞ってもらうことはあったが、それ以外では初めて大人に親切に温かく迎えられて仲間を得た場面だからなのだろう。この映画では何たってフェイギン役がすばらしかった。この人は『ガンジー』を演じたサー・ベン・キングズレーという名優だそうだ。あの映画も良かった。勉強になった映画だった。

さて、フェイギンのこと。子供を手なずけて悪事を働き、盗品を売って稼ぐ老獪な悪党ではあるが手荒なことは望まない。やさしい面があり、言葉巧みに少年達を操っていて、既に年寄りなのに老後の蓄えと称して、貴金属宝石を鍵付きの箱に入れて秘密の場所に隠している。オリバーに対して優しいのは、オリバーの風貌が将来有望で女を手玉に取ってだまし、いくらでも貢がせたりできる筈だと見究めているからでもあったのだろうと思わせるセリフがあった。

そうなのか、やはり風貌、顔立ちが人生を左右する大きな要因なのか・・・。この映画ではオリバーの憂いを含んだ眼差しが大きな転機となる条件になったというシーンがある。この作品の主人公は、憂いを含んだ顔立ちの将来女性に持てるだろう美少年でなければならないのだ。

さて物語の最後、幸運にも最良の安寧を得たオリバーが(これも実は映画では彼の性格描写やその因果関係はあまり出てこないので、ほとんど風貌のおかげ)フェイギンに親切にされたことが忘れられなくて、彼に面会に行くシーンがある。牢にいるフェイギンはほとんど気が狂っているのだが、オリバーに対して老後のために貯めていたあの宝石類を『全部おまえにやる』と言うのだ。その演技とシーンがすばらしい。
人はモノではなくキモチのものだ。そんな事を感じさせてくれた映画だった。


コメント
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