透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

最後の長編の前の寄道

2007-07-16 | A 読書日記



『博士の愛した数式』はベストセラーになって映画化もされた小川洋子さんの小説だが、この小説は小川さんの「本流」の作品ではない、と思う。

小川さんの作品は登場人物が日本人なのかそうでないのか国籍不明、舞台も日本なのか外国なのか判然としない。そう、翻訳小説のような雰囲気が漂っている。

『薬指の標本』がフランスで映画化される(された?)と知っても別に違和感を覚えなかった。その作風からごく普通のことのように思われた。

さて、この『国境の南、太陽の西』もおそらく村上春樹の作品の中では本流には属さない小説だろう。暗喩に満ちた彼の一連の作品からは遠い。

主人公の始(はじめ)と作者を重ね合わせて、人気作家となった彼自身の、そのような状況の否定と作家としてのありようを模索する姿をそこに見るということも可能かもしれない。

でも、この作品を通俗的な恋愛小説と読んだとしても、それはかまわないだろう・・・。初恋のひと、島本さんとの再会と別れ。この小説に僕はそれ以上のものを読み取ろうとは敢えてしなかった。どのように読もうとそれは読者の自由だ。

常識的な結末ではあったけれど、恋愛小説としても出来のいい作品だろう、熱心な春樹ファンの評価はそれほど高くはないだろうとは思うが・・・。

それにしても始の前から消えてしまった島本さんはどうしたのだろう、彼女の消息が気になる。

『風の歌を聴け』
『1973年のピンボール』
『羊をめぐる冒険』
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
『ノルウェイの森』
『ダンス・ダンス・ダンス』
『国境の南、太陽の西』
『ねじまき鳥クロニクル』
『スプートニクの恋人』
『海辺のカフカ』

『アフターダーク』

これらの長編小説、いよいよラストは『ねじまき鳥クロニクル』だがその前にちょっと寄道をして『TVピープル』を読むことにする。




たかが絵本されど絵本

2007-07-16 | A 読書日記


『みちの家』 子どもたちが「家(建築)」と向き合うために企画された絵本シリーズの1冊。建築家の伊東豊雄さんが自身の建築論を小さな子供たちに分かりやすく伝えようとつくった絵本。

「白いみちの家」「チューブの家」「大きな巻き貝の家」「ワープするみちの家」「音の洞窟」などと題して伊東さんの代表作品がとり上げられ、平易に設計意図が説明されていて興味深い。ちなみに「チューブの家」というのは「せんだいメディアテーク」のこと。

『羊男のクリスマス』 羊男がクリスマスのための音楽の作曲を依頼された。期間が四ヵ月半もあって楽勝に思われたのだが・・・。一向に曲が出来ない羊男が羊博士に相談すると、呪われているのが理由だと指摘される。「呪いがかかれば、羊男はもう羊男ではなくなってしまうんだ。君が羊男音楽を作曲できん理由はそこにあるのだ。うん」

羊博士の指示に従って、呪いを解くために家の裏の空き地に穴を掘った羊男。穴に落っこちた羊男がつぎつぎに出会う人や動物たち。トンネルや森を抜けて、最後に到達した部屋では・・・。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に雰囲気が似ていなくもない。

登場人物や状況設定、ストーリーのプロットに村上春樹の小説のエッセンスが凝縮されていて、氏の構想する物語の理解の一助にすることができそうな楽しい絵本。

春樹旅行はまだ続く・・・。