■ ブリヂストン美術館の「ジョルジェット」で村上春樹の短編集『中国行きのスロウ・ボート』中公文庫を少し読んだと既に書いた。この短編集のことは小川洋子がエッセイ集『博士の本棚』でとり上げている。
さて、本題。
このティールームが好みの空間だったことも既に書いた。好みの理由を挙げればシンプルで端正なデザインといったところか。床は無垢のフローリング、その周囲を大理石で縁取りしていた。壁と天井はペンキ仕上げ、やや黄色を帯びた白、いやクリーム色と書いた方が伝わるかもしれない。そしてシンプルな照明。決して長居をしたくなるような雰囲気ではなかったが、ピンと張り詰めた空気がよかった。
ティールームの雰囲気を規定するもの、もちろん床、壁、天井、家具、照明などの建築構成要素が大きく効くだろう。でも他にも窓外の景色やそのときの天気、食器のデザイン、BGM、メニューリストのデザイン、店員の服装や振る舞い・・・、コーヒーの味も関係する。
丸の内オアゾの丸善、その4階のカフェ(名前は覚えていない)の雰囲気も好きだが、両者は共通している。それは、藤森さんが説明した「白い空間」に属するということだ。抽象的な空間だが、私なりに喩えれば定規を使って引いた線で構成された空間と表現できる。抽象度には差があって「ジョルジェット」の方が高いが。
藤森さんの説明を借りれば白の対となるのは「赤」。ものの素材感に因っている空間のことだ。こちらはフリーハンドの線というか面で構成された空間だといえるだろう。このような空間を創る代表選手が藤森さん自身というわけだ。
メニューリストのようなものも含めてトータルにきちんとデザインされているところはいい。トータリティ、これが空間(別に空間に限ったことではないだろうが)デザインの鍵、そう思う。
ところで、好みというのは単純ではない。私は「白」にも「赤」にも魅力を感じる。先に挙げたふたつの「白いカフェ」の他にも居心地が良くて半日くらい本でも読んでいたくなるような「赤い喫茶店」(カフェはどうも白のイメージだ)にも今回出合った。低い天井、レンガ積みのエントランス、暗めの照明、アンティークな柱時計、壁にディスプレイされたお皿・・・。時がゆっくりと流れているような空間、こちらも好き。
写真は「ジョルジェット」のコースター、シンプルで空間の雰囲気にあったデザイン。トータリティとはどこまで気配りができるか、ということでもある。
追記:「赤」と「白」に関して伊東豊雄さんは「白は妹島に任せた。おれは赤に行く」となにやら運動会のようだがそんな宣言をしたとか・・・。