透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

北杜夫再読

2011-11-09 | A 読書日記

『黄いろい船』
『どくとるマンボウ青春記』
『どくとるマンボウ途中下車』 
『どくとるマンボウ追想記』
『どくとるマンボウ昆虫記』
以上読了。

今回は「航海記」を外そうと思っていたが、読んでおくことにした。やはり「どくとるマンボウ」シリーズで「航海記」は外せない。

  

 『マンボウ雑学記』 以前この新書を手にしたとき、岩波新書も変ったものだと思った。「はしがき」に北杜夫は次のように書いている。**これは伝統ある「岩波新書」にはふさわしくない本である。むしろ、中学生や高校生むきのエッセイといってよい。**

内容は総じて難しくて対象が中高生かどうか。著者の謙遜もあるだろう。

『どくとるマンボウ昆虫記』は岩波新書、いや中公新書でもよいかもしれない。相当詳しく昆虫のことが書かれている。

**ある年の夏の終り、私は燕岳(つばくろだけ)から大天井へゆく尾根道にねそべっていた。すでに豊かだった夏は移ろうとしていた。斜面に残雪もなく、華やかだった花畠にもかげりが見えていた。それでもハクサンフウロの桃色の花は今を盛りで、その色彩の中から高山の蝶たちがとびたち、また花の間におりていった。** 

自然科学を扱った新書には出てこないような文学的な表現に続き、次のようにチョウの名前がいくつもでてくる。

**地味なジャノメチョウの仲間のベニヒカゲやクモマベニヒカゲが、最後の享楽に酔っていた。(中略) スピード狂のタテハチョウの仲間でも、コヒオドシは特別せっかちだ。彼女は岩の上にとまり、二、三度翅を開閉させると、もう電光形に空をきってどこかへ消えていってしまう。次には同類のクジャクチョウが同じ身ぶりをした。**(157頁)

北杜夫は私のような昆虫の名前を全く知らない者とは違った景色を見ていたんだな、と思う。

「航海記」を読む前に1冊寄り道をしよう。今日、その本を買い求めなくては・・・。