透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 1205

2012-06-02 | A ブックレビュー



 NHKテレビの番組「週刊ブックレビュー」は終わってしまったが、この「月刊ブックレビュー」はまだまだ続く(たぶん)。

5月の読了本6冊。

『せいめいのはなし』福岡伸一/新潮社   内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司。以上の4人との「動的平衡」というキーワードをめぐる対談を収めた本。

 **実は分子生物学者が顕微鏡の向こうに見ているのは科学者自身の自画像ではないかと書いたことがあるんです。(中略)実は科学者もまた自身をまるごと対象に投影して、自分を通じて自然現象を捉えているのではないかという気がしたのです。つまり、自分が見たいものを見ているんじゃないかって。**(37頁)内田さんって本質を捉える眼、慧眼の持ち主だなあ。

朝吹さんとの対談で、福岡さんは**細胞は、一個の受精卵が二つに分かれて、細胞同士がちょっとずつ相互に補完しあい、関係しあいながら、分化を進めて行きます。細胞一つ一つは全体のマップを持っていないのに、関係し合いながら、つながりながら、全体としてはある秩序を作れてしまうことが生命現象の最大の特徴なんです。**(91頁)と語る。

更に続けて**人間の中にも、マップラバー(地図好き)という、地図で全体像をマクロに鳥瞰してどこに何があるかを把握してから、具体的な行動を始めるタイプと、マップヘイター(地図嫌い)という、地図などに頼らずまわりの探索行動・試行錯誤を繰り返しながら、自分の目的地に近づいていくタイプがいます。(中略)生命はマップラバーというよりマップヘイターです。鳥瞰的に設計されたものでなく、臨機応変に関係性をたよりに発生してきたものです。**(92頁)と語っている。

生命に関するこの認識はそのまま日本の集落、都市の成長についても当て嵌まり、興味深い。

『生きのびるからだ』南木佳士/文春文庫  私にとって南木さんのエッセイは毎日飲み続ける薬のようなもの。同じ内容の繰り返しだと分かっていても、文庫化されるたびに読んでいる。 

『プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実』朝日新聞特別報道部/学研  そもそも「事」の真相、真実って何だろう・・・。

『空海入門』加藤精一/角川ソフィア文庫  **空海はきわめて明晰な思索力を持っており、中国の仏教理論を十分に読みこなし、真言密教の体系を作り上げる際にも、過去を十分にふまえ、自らの工夫を十分に加えて、整然かつ仏教の本道を進む、堂々たる理論を完成させた。**(114頁) 平安の巨人空海の生涯と思想、哲学。

『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか』鈴森康一/講談社ブルーバックス  **生き物のからだもロボットのからだも、力学的・幾何学的な制約条件の範囲でしか成り立たない。その制約条件下で最適な設計を追求してゆく限り、ロボットは生き物が待ち構える同じゴールに向かわざるを得ないのだ。**(222頁)

知恵を振り絞ってするデザイン。だが、行き着くところには、常に神様のデザインが先回りしている!

『空間の日本文化』オギュスタン・ベルク/ちくま学芸文庫  **言語学者金田一春彦氏によれば、日本語における時間の決定は、行動全体を一望の下に収める拠点には立たず、主観的視点、客観的視点を交代させながら、次々と拠点を移して行われる。**(203頁)

ここに福岡さんの細胞に関する指摘にも通じる、俯瞰的な視点を持たないという言語的な特徴が取り上げられているのは興味深い。

**日本的空間がかくも境界域を重要視するのも、まさに日本的空間の面的広がり性、さらには細胞性の故である。各々の細胞が全体の一部としてではなく、それ自体として存在する分だけ、媒介作用が必要になる。**(205頁)

引用分を載せたが、総じて内容が難しく、文章を目で追うだけで内容の理解には及ばなかった。でも本書に『見えがくれする都市』 槇文彦他 鹿島出版会を再読するきっかけになった引用があったことだけでも良しとしておこう。

さて、もう6月。今月はどんな本を読もう・・・。村上春樹の『1Q84』の文庫本? いや、読むとしても年末だな~。


 

 


城西の道祖神

2012-06-02 | B 石神・石仏

  

 6月1日は松本市城西(城西町)に祀られている道祖神のお祭りの日。幔幕、提燈、旗、そして献酒。

普段は施錠されている石の祠の扉が開けられて、納められている木彫の双体道祖神がその姿を見せている。松本市内には木彫の道祖神が何体もあるとのことだが、これはその内のひとつ。

道祖神は今なお地域の人たちに親しまれ、大切にされている。


 


6「シンプルな名刺ですね」

2012-06-02 | C 名刺 今日の1枚

 *1

6 カフェ バロのYさん

女優・仁科明子(現在は亜季子と表記)はNHKのテレビドラマ、『白鳥の歌なんか聞こえない』でデビューした。原作は『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞した庄司薫の同名作品。仁科明子が演じたのは主人公・薫のガールフレンド役だった。この時の彼女は当時のボクのストライクゾーンど真ん中だった。

カフェ バロのYさんは、仁科明子が演じた薫くんのガールフレンドと同じ名前。このことをボクは何回話したのだろう・・・。年をとると同じ話を何度も繰り返す、このことをさだまさしが詩にしている。そう、百恵ちゃんが歌って大ヒットした「秋桜」で。

昨日(1日)からバロは夏時間営業で夜8時までとなった。で、仕事帰りに寄った。コーヒーはいつもの安曇野ブレンド。昨日も先の話をしてしまった。帰り際に名刺をつくったことに話が及んで、Yさんに6枚目を渡した。

「シンプルな名刺ですね」 マトカのYさんと同じ感想を聞いた。名刺には住所を載せてないから、漢字が少ない。たぶんそのせいだろう。

次に名刺を渡す時、相手はどんな感想を口にするだろう・・・。


*1 写真提供 カクさん 


 

**そんな私が芸能界に足を踏み出すようになったきっかけは、高校3年の夏。この夏、私は、ある雑誌のグラビアに、父といっしょに出た。それが、ちょうど庄司薫さん原作の『白鳥の歌なんか聞こえない』をドラマ化しようと、出演者を探していたNHKのプロデューサーの目にとまり、姉のマネージャーに出演を打診してきたのだ。話が決まったのは、もう二学期の終わりころだった。**『いのち煌めいて』 仁科明子/小学館(16頁)