■ **「昔のことなど忘れなさい。女子は昔など脱ぎ捨てて生きるのです。それは武門の覚悟も同じなのですよ。昔、どのような手柄を立てようが、いまの戦場で働かねば武士とは申せません。かつてどのような失態を演じたにしろ、いまの戦でご主君をお助けする者こそ天晴(あっぱれ)な武士なのです。たったいまを懸命に生きてこそ武門です。(後略)**(300頁)
これは櫂蔵の継母・染子がお芳に語る言葉だが、この言葉こそ葉室麟の読者に向けてのメッセージと解して良いだろう。サラリーマンに向けての言葉に翻訳することは容易だ。
それにしてもお芳には幸せになって欲しかった・・・。物語の構成上お芳の死は必然かもしれないが。
**湊の 店で酒の相手をしてくれたお芳の顔にはいつもさびしげな笑顔があった。そのせつないほどのさびしさに惹かれたのだ。**(331頁)
さびしげな笑顔に惹かれるというのは私にはよくわかる。