透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「43 男はつらいよ 寅次郎の休日」

2021-09-02 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第43作「寅次郎の休日」を観た。第42作「ぼくの伯父さん」を先に観たかったが、貸出中のようで、寅さんシリーズのDVDを並べたコーナーに無かった。

「寅次郎の休日」で、寅さんは実質的な主役を甥っ子の満男に譲っている。で、満男のマドンナは高校の後輩の泉ちゃん(後藤久美子)。寅さんは1928年生まれ、この作品の公開が1990年だから既に還暦を過ぎている。恋に歳なんか関係ないとはいえ、やはり寅さんがマドンナに惚れて、という展開はもう無理だろう。もっともこの作品で寅さんはまだ40代ということになっているから(「四十過ぎて独身なんてのはね、みっともないだけなんだよ」というおばちゃんのせりふがある)無理、というわけでもないか。43作以降の作品はどんなストーリーになっているのだろう・・・。

泉ちゃんのお父さん(寺尾 聰)が博多出張中に知り合った女性・サチエ(宮崎美子)さんと彼女の出身地の大分県日田市で暮らしていることが分かり、泉ちゃんが満男と一緒に新幹線で父親に会いに行くという展開。寅さんは泉ちゃんのお母さん・礼子(夏木マリ)さんとふたりで満男たちの後を追ってブルートレインで九州に向かう。ブルートレインで夜遅く缶ビールを飲むふたり。礼子さんに寅さんが付き合って。静かにしてくだいと他の乗客から苦情を言われる始末。こういう場面、なんだかなぁ。ふたりはお似合いのカップルには見えないなぁ・・・。

寅さんにとって泉ちゃんのお母さんはマドンナ、ではない。やはり失踪してしまった夫を探しに、ふじ子(大原麗子)さんと九州まで一緒に行く「寅次郎真実一路」では寅さんはふじ子さんに惚れてしまうが。

満男は八王子の大学に自宅から通うのが大変だからと、博とさくらに反対されながらも大学の近くにアパートを探す。大学の友だちに手伝ってもらって引っ越しをしようと、レンタカー(軽トラック)で自宅に戻ると、泉ちゃんが訪ねていた。今日は中止だと友だちを強引に返してしまう。この対応は寅さんがとらやでもめて、店を出ようとしたところにマドンナが訪ねてきて、満面の笑みで店に戻るという行動パターンと同じ。

泉ちゃんは日田で父親がサチエさんと幸せそうに暮らしている様子を目にして、帰ってきて欲しいということを口にしないで、満男と一緒にふたりの前から去っていく。その後、寅さんたちと合流することができ、4人で温泉旅館に泊まり、礼子さんは家族のように振舞い、寅さんもそれに合わせる。

*****

泉ちゃんは母親と名古屋に帰り、満男は寅さんと柴又に帰ってくる。まあ、一件落着となって、ある日、さくらは顛末を御前様に話す。「今回、寅は恋をしなかったかな?」と御前様。「さあ、どうでしょうか」とさくらは答える。一部始終を観てきた僕は「しませんでした」と答える。

寅さんはさくらと満男に見送られて柴又を後にする。電車の中から寅さんが満男に「困ったことがあったらな、風に向かってオレの名前を呼べ、伯父さんどっからでも飛んできてやるから」というかっこいいことばを残して。

正月。泉ちゃんが訪ねてきていることを知った満男は新年会をすっぽかして、友だちの自転車で自宅に向かって突っ走りながら、幸せって何だろうと、あれこれ考える。

泉ちゃんのお父さんは本当に幸せなんだろうか・・・。
タコ社長は寅さんが一番幸せだってよく言うけど、伯父さんは本当に幸せなんだろうか・・・。
伯父さん自身は幸せだと感じていてもお母さんの目から見て不幸せだとすれば、いったいどっちが正しいのだろう・・・。

映画のラストで、寅さんが旅の途中で礼子さんがママをしている名古屋のクラブをわざわざ訪ねて、花束を置いて行く。開店前で礼子さんはまだ店に出ていない。花束のメッセージは「奥さんへ 車寅次郎より」。これはふたりの関係を無理に演出するための付けたしとしか思えない。

幸せってなんだろう・・・。山田監督はこの映画を観る者にこのことを問いたかったのだろう。


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