■ 寅さんシリーズ第47作「拝啓車寅次郎様」を観た。
本作も寅さんと甥の満男、ふたりの恋の同時進行で物語は進む。ただし寅さんの恋は恋とは言えないほど淡いというかあっさりしたもの、相手の名前すら知らないままだったのだから。恋の舞台は滋賀。
満男は既に大学を卒業して靴の卸会社で営業の仕事をしている。だが、自分には営業は向いていないと思っていて、寅さんに愚痴る。シリーズ最後、第50作で満男君は作家になっているから、会社を辞めてしまったのだろう。
ある日、満男のところに大学の先輩・川井信夫からはがきが届く。長浜(*1)に遊びに来ないかという誘い、相談もあるという文面だった。信夫の実家で妹の菜穂(牧瀬里穂)と出会った満男は次第に菜穂に惹かれ始める。菜穂も満男に。
信夫の相談事というのは、妹の菜穂と結婚しないかということだった。信夫が勝手に結婚話を持ち出したことに怒る菜穂。数日後上京してきた信夫から結婚話は無かったことにして欲しいと言われ、満男のことは嫌いだという菜穂のことばも聞かされて、満男は落ち込む。
一方の寅さん、例によってとらや(正しくはくるまや)で大喧嘩して旅に出ている。旅先は滋賀。琵琶湖のほとりで撮影旅行をしているという女性(かたせ梨乃)に声をかける。女性が岩場で転ぶ。寅さんは痛がる彼女を接骨院に連れていく。その後同じ民宿に泊まることになったふたりは身の上話をする。彼女は鎌倉に住む主婦。翌日、ふたりが連れ立って曳山祭りを見に行こうとしているところへ、女性の夫が迎えに来る。で、鎌倉に帰っていく。寅さんの恋とも言えない恋はこれでオシマイ。実にあっさりというか、あっけないというか・・・。
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その後、女性は世話になった寅さんにお礼を言いにとらやを訪ねる。そう、マドンナはとらやを訪ねるのが約束事。だが、あいにく寅さんは留守。自分の名前を寅さんは知らないかもしれないと名刺をさくらに渡す。
翌日寅さんは満男が運転する車で鎌倉まで出かけて行く。彼女の家のすぐ近くに車を停めて、様子をうかがう寅さん。娘と出かける典子を見て、声もかけずにその場を後にする。
その後、江ノ電の駅で寅さんは、恋することは疲れる、菜穂にフラれてほっとしているなどという満男を叱る。「燃えるような恋をしろ! 大声を出してのたうち回るような、恥ずかしくて死んじゃいたいような恋をするんだよ。ほっとしたなんて情けないことを言うな。さみしいよ俺は」 そして寅さんは江ノ電に乗って旅立っていく。これは珍しい、いつも柴又駅から旅立つのに。
正月。諏訪家に朝日印刷のタコ社長や従業員が集まっている。満男は社長に嫁さんを世話すると言われたことに腹を立て、家を飛び出す。このあたり、伯父さんと同じ。家のすぐ近く、江戸川堤に菜緒が立っているのを見つけて、走っていく。そう、満男の恋は終ってはいなかったのだ。満男、満面の笑み。菜緒もにこやか。マドンナの登場に態度を急変させるのも伯父さんと同じ。寅さんのマドンナがとらやを訪ねるように、満男のマドンナは満男の家を訪ねる、アポなしで。
流れる満男の伯父さんへのメッセージ「伯父さんは他人の悲しみや寂しさが理解できる人間なんだ」。そう、これこそマドンナが寅さんに惹かれる理由。
本作のタイトル「拝啓車 寅次郎様」はラストのこのメッセージに因るのだろう。
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*1 「琵琶湖 周航の歌」(三高)小口太郎作詞 二番 波の間に間に漂へば 赤い泊火懐しみ 行方定めぬ波枕 今日は今津か長浜か