透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「蝶のゆくへ」読了

2021-09-10 | A 読書日記

 『蝶のゆくへ』葉室 麟(集英社文庫2021年)を読み終えた。明治期を代表する作家たち、具体的に挙げるなら島崎藤村、北村透谷、国木田独歩、有島武郎らの私生活、恋愛事情を彼らと星りょう(後の相馬黒光)との関わりという共通する視点からオムニバス的にまとめた作品、と私なりに括っておく。樋口一葉や勝海舟の義娘と、りょうとの交流というか、関わりについても書かれている。

相馬愛蔵と結婚して信州から東京に出て、今現在に続く中村屋で懸命に働くりょう。成功したりょうの中村屋には若き作家(芸術家や文学者)が出入りするようになり、サロンを形成するようになる。その中のひとりが荻原守衛(碌山)で、彼はりょうを恋慕する。で、守衛はりょうをモデルに代表作の「女」を創作する。この小説には次のような場面がある。
**「感動を与える彫刻でした。私もあんな作品をいつか作りたいと思いました」
「では、作ってください。わたしをモデルにして」
りょうはじっと守衛を見つめた。**(339頁)
実際にこのような経緯で「女」が創られたのかどうか、分からないが。

この作品を私にすすめてくれたI君は、小説というより、明治の作家の私生活について知るテキストとして読んだのかもしれない。私は、もっと重厚な長編小説を期待していたけれど・・・。