■ 夏目漱石の『門』(新潮文庫)を読み終えた。過去ログ
**御米は障子の硝子に映る麗(うらら)かな日影をすかして見て、「本当に難有(ありがた)いわね。漸くの事春になって」と云って、晴れ晴れしい眉を張った。宗助は縁に出て長く延びた爪を剪(き)りながら、「うん、然し又じき冬になるよ」と答えて、下を向いたまま鋏を動かしていた。**(217頁)
暗いトーンの小説はこのような夫婦の会話で終わる。鶯の鳴き声を聞くようになり、ようやく春になったというのに、宗助はまたじき冬になるという。なんというネガティブ思考だろう。御米は宗助のどこに惹かれたのだろう・・・。宗助と御米の元夫の安井が再会することなく終わるような、起伏の乏しい小説を今の作家は書かないだろう。
やはり『それから』を読んでからこの小説を読んだ方が良かったのかもしれない。