透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「39 男はつらいよ 寅次郎物語」他

2022-06-04 | E 週末には映画を観よう

 男はつらいよシリーズの第39作「寅次郎物語」を観た。シリーズ全50作品の中でも寅さんの優しさが特に印象に残る。

ある日、柴又駅前でリュックサックを背負い野球帽をかぶる少年に満男が声をかけるところから物語は始まる。とらやでさくらやおばちゃんが少年に事情を訊く。少年は寅さんのテキヤ仲間の子どもで、秀吉という名前は寅さんがつけていた。父親がオレが死んだら寅さんを頼れと言い遺して亡くなったために郡山から出てきたという。母親は家出をして行方不明。

「出張」からとらやに帰ってきた寅さんは秀吉少年を連れて母親さがしの旅に出る。テキヤ仲間から母親が和歌山にいるらしいという情報を得て訪ねた旅館で、母親が奈良の吉野に行ったと聞いた寅さんは秀吉と吉野へ。

だが、母親は吉野から伊勢志摩へ行ってしまっていた。その日の夜、旅館で秀吉少年が発熱して寅さん大慌て。この時、隣の部屋に泊まっていた女性・隆子(秋吉久美子)が看病を買って出る。夜中に2代目のおいちゃんが演ずる老いた医者の診察を受ける。医者はふたりを夫婦だと思い(当然のこと)、隆子をおかあさんと呼ぶ。医者から今夜が峠だといわれるほど秀吉少年は重篤な状態。看病の甲斐あって明け方には熱も下がって、ふたりは一安心。

寅さんが所帯を持ったらどんな生活を送るだろう・・・。ファンのみならず、制作スタッフもそう思っているのかもしれない。吉野の旅館での出来事でそんな思いに山田監督が応えた、僕はそう思う。マドンナが寅さんをとうさんと呼び、寅さんがマドンナにかあさんと返すなんてこの作品しかない。この作品のマドンナ、かあさんは浅丘ルリ子でも竹下景子でもだめ。やはり秋吉久美子だった。

翌日、隆子と別れてふたりは伊勢志摩に向かう。島で病後療養している母親(五月みどり)とついに再会。母親が我が子を抱きしめる。このシーンに涙、涙。柴又に帰る寅さんについて行こうとする秀吉を寅さんがやさしく諭す。このシーンも泣ける。船(船長  すま けい)で島を離れる寅さん、岸で泣き叫ぶ少年・・・。だめだ、涙が止まらない。

正月、寅さんはテキヤ仲間のポンシュウと伊勢の二見浦で啖呵バイ。寅さんは秀吉少年とおかあさんと船長、三人が楽しそう歩いて行くところを岩陰からそっと見る。そして静かに言う。「そうか、船長が秀のてておやか・・・。いいだろう。あいつだったらいいだろう」

こちらはリアルな家族、寅さんとマドンナと秀吉少年は夢か幻の家族・・・。

「寅次郎物語」はシリーズのベスト5に次ぐ作品(*1)という評価を変えなければ。


*1 寅さんシリーズ全50作で特に印象に残る5作品とそれに次ぐ5作品は次の通り。

第10作「寅次郎夢枕」    八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」   音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」 竹下景子
第45作「寅次郎の青春」   風吹ジュン
*****
第  6作「純情篇」      若尾文子
第17作「寅次郎夕焼け小焼け」太地喜和子
第27作「浪花の恋の寅次郎」 松坂慶子
第38作「知床慕情」     竹下景子
第39作「寅次郎物語」    秋吉久美子


記事にしなかったが、他にも何作か観ている。タイトルとごく簡単なメモだけ挙げておきたい。

「インセプション」SF レオナルド・デカプリオ、渡辺 謙
「タイムライン」SF 原作マイケル・クライトン
「エベレスト」実際に起きた遭難事故を基に制作された映画
「レフト・ビハインド」
「オブルビリオン」SF トム クルーズ
「オフィシャル・シークレット」
「007 ユア・アイズ・オンリー」
「007 美しき獲物たち」


 


「カラダで感じる源氏物語」

2022-06-04 | G 源氏物語



 『カラダで感じる源氏物語』大塚ひかり(ちくま文庫2002年)を長野の権堂商店街の古書店の店先で見つけて購入した。善光寺御開帳で好い御縁に恵まれた。  長野から帰る電車の中で読み始め、昨日(3日)の夜に読み終えた。

大塚さんは源氏物語を現代語訳していて、今読んでいる角田光代訳の『源氏物語』の主要参考文献リストに与謝野晶子訳と共に載っている。大塚さんは源氏物語に関する著書が何冊もあるようだ。以前から名前は知っていたが、著書を読んだことはなかった。

この本を読んで驚いた。大塚さんの理解力、洞察力はすごい。小谷野 敦(比較文学者)さんが解説文に**その解釈には専門家のなかにも一目置いている人たちがいる。**(292頁)とし、**『源氏物語』などおそらく全文を諳んじているはずだし(後略)**(292頁)とまで書いている。大塚さんは当時の社会的、経済的背景を踏まえつつ源氏物語を自在に論じている。

なるほど、こういうことなのか・・・、既に読んだところの解説を読んで、何回かこう思った。くだけた文章で書かれているが、これは実に説得力のある「源氏物語論」だと思う。

第4章(最終章)「失われた体を求めて――平成の平安化」の第2節「感じる不幸」に「なぜ、浮舟がラストヒロインなのか」という論考がある。大塚さんはここで源氏物語を総括し、紫式部の真の目的は・・・! と的確に一文で括っている。(268頁)ここには敢えて引用しない。推理小説の犯人を挙げ、トリックを明かしてしまうようなものだ、と思うから。

この『カラダで感じる源氏物語』で予習ができた。さあ、『源氏物語』の中巻を読もう!