透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「梅枝」

2022-06-27 | G 源氏物語

「梅枝 裳着の儀を祝う、女君たちの香」

 光君の正月は明石の姫君の裳着(成人式)の準備に忙しい。朱雀院の皇子である東宮も二月に元服が予定されている。その後、姫君は東宮妃として入内(じゅだい)が決まる予定。

正月末、光君は薫物(たきもの)を調合する。で、六条院の女君たちにも香木を割り当て、調合を依頼する。薫物合わせが行われることになり、女君たちの調合した薫物が集められた。優劣の判断をするのは兵部卿宮(光君の弟)。宮は絵合でも審判役を務めている。二種類ずつという光君の依頼に対し、紫の上は三種、花散里は一種だけ調合した。ここでも花散里は控えめだ。

夜、月が上ってきたので内大臣家の息子たちも交えて宴、そう、月の宴が催された(いつ頃だろう、月を愛でる習慣が無くなったのは。銀閣寺も観月用に建てられたそうだ。路傍などに祀られている二十三夜塔は月が信仰の対象であり、愛でる対象でもあったことを示している)。

翌日、秋好中宮(六条御息所の娘)の御殿で明石の姫君の裳着が行われた。明石の君(姫君の実母)は身分が低いことを憚り参列しなかった。**このような邸のしきたりは、ふつうの場合でもじつに面倒なことが多いし、今回もほんの一端だけを、いつものようにだらだらと書き記すのもどうかと思うので、くわしくは書かないこととします。**(232頁)とは作者・紫式部の弁。

東宮の元服が二月二十日過ぎ頃に行われた。よその姫君たちが遠慮して入内を見合わせているという噂を聞きつけた光君は明石の姫君の入内を延期して四月に、と決める。その間に光君は道具類をさらに整え、数々の草子(物語や歌集)を選ぶ。

光君は紫の上を前にして六条御息所、秋好中宮、藤壺、朧月夜(なつかしい)、朝顔、それから紫の上の筆跡について批評する。六条御息所の筆跡は格段にすぐれていると思ったものだとか、朧月夜こそは**当代の名手だが、あまりに洒落ていて癖があるようだ**(234頁)などと。

明石の姫君の入内の準備が進んでいることが内大臣には気に掛かる。こんなことになるなら、夕霧が強く望んでいた娘(雲居雁)との結婚を認めてやればよかった・・・。光君もまた、夕霧(宰相の君)の身がいつまでも固まらないことを心配している。で、**「あちらの姫君のことをあきらめたのなら、右大臣や中務宮などが、婿にとの意向をお伝えになっているようだから、どちらかにお決めなさい」というが、宰相の君は何も言わずにかしこまった様子でいる。**(238頁)夕霧は雲居雁のことが忘れられないのだ(このふたりはいとこ同士)。

光君は息子の夕霧に結婚について説教する。ここで光君の結婚観が語られる。そのポイントを長くなるが引用する。**あなたはまだ位も高くないし気楽な身分だからと、気を許して、思いのままに振る舞ったりしてはならないよ。自分でも気づかないうちにいい気になっていると、浮気心をおさえてくれる妻もいない場合、賢い人でもしくじるという例が昔にもあった。恋するべきではない人に心を寄せて、相手も噂になって、自分も恨みを買ってしまうなんて、往生の妨げになる。**(239頁)千年も昔のこの教訓は現代にもあてはまりそうだ。

光君の説教は続く。**もし間違った相手といっしょになって、その人が気に入らず、どうも辛抱できないような場合でも、やはり思いなおして添い遂げようとする気持ちを持ち続けなさい。(後略)** これはどうだろう・・・、離婚率が高まっている現代において受け入れられる教訓ではないように思うけれど・・・。

『源氏物語 中巻』 次は「藤裏葉」。その次の「若菜上」と「若菜下」は長い。ふたつの帖で269頁から440頁まである。この大河小説の峠かな・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋