「藤裏葉 夕霧、長年の恋の結実」
■ 夕霧(宰相中将)と雲居雁は相思相愛の仲。ようやく内大臣(雲居雁の父親)も二人の結婚のことを考えるようになった。**あの内大臣も以前とは打って変わって弱気になり、ちょっとしたついでに、そう改まらずに、とはいえそれにふさわしい折に・・・と二人のことを考えている。**(247頁)
内大臣は自邸で藤の花の宴を開き、夕霧宛ての便り(歌に託した招待状、藤の枝に結びつけてある)を息子の柏木(頭中将)に託し、夕霧を招く。宴席で二人は和解。
宴の後、夕霧は柏木に案内されて雲居雁の部屋へ。**中将は、内心では、妹の元に連れていくのは癪に障る気がしないでもない。しかし宰相の君の人柄が申し分なく立派であり、長年こうなってほしいと願ってきたことではあるので、安心して女君の部屋に案内した。**(252頁) で、二人は結ばれる。
ようやくここまでこぎ着けた夕霧について、紫式部は自分で自分を褒めたいと思ったことでしょう、と書く。バルセロナ五輪の女子マラソンで銀メダルを獲得した有森裕子のコメントのように。雲居雁の母親(按察使大納言の北の方)も二人の縁組をうれしく思っていた。
さて、明石の姫君の入内が四月二十日過ぎに決まった。養母の紫の上は、明石の君(実母)を後見に推薦した。入内に付き添って参内した紫の上が宮中から退出する日のこと。**紫の上に代わって明石の御方が参上する夜、二人ははじめて顔を合わせた。**(259頁)相手の印象は・・・。
紫の上は明石の御方について、**明石の御方が何かものを言う時の様子など、なるほど光君がこの人を大事にするのももっともだと、紫の上は意外な思いで彼女を見る。**(259頁)
一方、明石の御方は紫の上について、**たいそう気高く、女盛りである紫の上の容姿に圧倒される思いで、なるほど、大勢いらっしゃる方々の中でも、特別のご寵愛をお受けになって、並ぶ者のない位置に定まっていらっしゃるのも、まことにもっともなこと**(259頁)と思う。
光君は姫君の入内も望み通りになったし、夕霧もなんの不足もない暮らしに落ち着いたから、安心してかねてから願っていた出家を遂げよう、などと思う。光君も歳を取ってきている。このとき、39歳。ちなみに手元の資料によると、夕霧は18歳で、雲居雁は20歳。
その年の秋、光君は太上天皇(上皇)に准じる位を授与された。また内大臣は太政大臣に、宰相中将は中納言に昇進した。夕霧と雲居雁の夫婦は故大宮邸に移った。その邸は二人が幼い頃育ったところだ。
十月、紅葉の盛りの頃、帝(冷泉帝)が六条院に行幸する。朱雀院(光君の異母兄)も招かれて同行する。華やかな儀式。
**紫の雲にまがへる菊の花濁りなき世の星かとぞ見る(紫雲と見まごうほどの菊の花―格段に高い身分となられたあなたは、濁りなき御代の星のように見える) いよいよお栄えになりましたね**(265,6頁)と太政大臣。
光源氏の栄華ここに極まれり。怜悧な紫式部は物語をここで終わりにはしない。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋